第36話 滝がある部屋の探索
罠狩りは仕掛けが終わってしまえば結果を待つだけなので、時々様子を見に行く以外は特にやることはない。農作業をするにも、まだ早い時期なので、今は比較的時間が取れる。時間があるうちに、他のことも進めておこう。
(いつまでも保留しておくわけにもいかないか。)
この集落は、今後、人材を確保して人口を増やしていく。少しでも安心で安全に暮らせる場所になるように努力しているが、忙しいことを理由に、頭の片隅に追いやって放置していることがある。
特に問題ないと思っていることなのだが、なんとなく嫌な予感がして、保留し続けている。ここを人の受け入れ場所にするつもりなら、向き合うべきなのだろう。
(集落内で、唯一探索を終えていない場所になるのか。)
この集落の探索は概ね終了している。俺一人しか暮らしていないこともあり、探索を先送りにし続けてきた唯一の場所は祭壇部屋だ。不安要素は、理解できない遺物や、鍵がかかった部屋。
結局のところ、集落内のもので不可思議なものは祭壇部屋にしかなかった。最初に入った場所が一番異質だった。いまだに、あの部屋だけあまり埃が積もっていなかった理由も分かっていない。
探索を保留している場所は多くない。滝の右側にある鍵がかかった部屋、女神像の前の祭壇、それと座ったまま動かないゴーレム・・・ 特にゴーレムはいつも動きそうで恐ろしく、これが一番の不安要素だ。
(俺自身も、この1年で力をつけてきたし、前より打てる手は多い。頃合いか。)
順調にマナ操作などが強化され、身体能力も向上している。大型獣の牙と骨から武器も作った。もしゴーレムが動き出しても、武器などで牽制しながら逃げ出すくらいはできる。
当然何も起こらない可能性の方が高いし、大丈夫だとは思っている。しかし、怖いものは怖い。この恐怖心が、単なる未知ということだけから来ているだけなのか、判断がつかない。
(よし、行くか。)
既に、住み慣れていると言って良い教会に行き、祭壇部屋に向かう。これまで石段を作るために、ほぼ毎日通っていたが、ゴーレムにはなるべく近づかないようにしてきた。それも今日で終わりにしよう。
部屋に入ると、滝の音がさらに大きく聞こえる。滝の水で出来た池には祭壇があり、祭壇と滝の間に女神像が置かれている。池は裏側に回れる道が整備されていて、滝の右側に鍵がかかった部屋、左側には新設した石段がある。
(まずは鍵のかかった部屋から調べるか。)
もしかしたら、祭壇やゴーレムに関して、なにか情報が得られるかもしれない。村の祭壇部屋にあった鍵付きの小部屋には、今も愛用している鉄製ナイフや、経典などの本や宝石などがあった。ここの部屋も入れれば、貴重品が残っている可能性もあるだろう。
ただ、残念ながら文字がほとんど読めないので、本などがあったとしても、情報が得られる可能性は低い。文字を勉強したいが、村の識字率の低さを考えると、大人の人材を確保できても難しいかもしれない。絵や図などで示してある資料があれば、少しはと思うので期待したい。
(うーむ。やはり鍵穴はないよな。)
この部屋の調査を後回しにした理由は、単純に鍵がかかっていて開かなかったから。今ならマナ操作やハンマーで、扉を破壊すれば中に入ることは可能だろう。それは最後の手段として、できればなるべく開錠して入りたい。
扉の周辺を調べてみたがやはり鍵穴はない。その代わり扉の右側に不自然な溝がある。幅1.5cm、高さ10cm程度だが、のぞいてみても暗くて構造はわからない。
無理やり溝に指や棒を突っ込んでも、特に変化はなかった。竹材を溝の大きさに合うように細工して、溝に押し込んでみても全く反応がない。
(このサイズ感、何か引っかかる・・・)
この大きさの溝には見覚えがあるような気がする。暫く考えたが思いつかず、諦めて扉の破壊を考えた時、少し気になることを思い出した。
寝泊まりしている部屋に戻り、しばらく使っていなかった相棒を取り出す。村から持ち出した鉄製のナイフだ。サイズ的にはちょうど溝にはまる気がする。
(これでダメであれば破壊かな。)
久しぶりに相棒のナイフを握りしめ扉の前に戻り、溝にそっとナイフを差し込んで見る。差し込み終わるか終わらないくらいで、かすかな感触があり、あっさり扉が開けられるようになった。村のナイフが鍵として使えるということは、この集落の住人が移住して、あの村を作ったのかもしれない。
(中身は期待できるかも。)
やっと開けることができた扉を通り、調査を進める。かなりの時間が経っているはずだが、扉はスムーズに開いた。鍵が村にあったということは、この部屋は手つかずだろう。
扉の先は小部屋になっており、あまり広くなく5畳くらい大きさだ。部屋の中には棚があり、本や巻物がいくつかしまってある。儀式用と思われる杖や剣、短剣もあった。宝石とおもわれるものも数点あり、想定していたよりお宝が残っていた。なぜこれらのものを持ち出さなかったのかは疑問が残る。
(呪いとかかかってないだろうな・・・)
本や巻物を手に取って中身を見ていく。素材は羊皮紙と紙が半々。村では聖書以外の書物を見たことがなかったので、本などは貴重品なのだろう。こちらの字はあまり読めないので、適当に中身を確認していく。かなり古いものだと思われるが、保存状態は良く、どれも十分に読める状態だった。
文字は読めなくても、数字はなんとなくわかるのが面白い。聖書もあったが、それ以外は何かの記録と思われるものがほとんどであった。
その中で1冊だけ、何かの説明と思われる本があり、気になっている。説明書きっぽい文字が続いた後、紋章やマークみたいなもの、その説明と思われる記載が続いている。一通り確認してみたが、文字が読めないため、内容までは分からない。
武器や宝石、本などを手に入れられたのは嬉しいが、正直当面使うケースが思い浮かばない。人が増えたら、宗教の儀式などに使うくらいだろうか。ここに残していったのも、儀式を復活してもらうことを期待したのかもしれない。
見つけたものはそのままの位置に戻し、扉から外に出る。ナイフを引き抜くと、鍵がしっかりかかった。この部屋は、集落の宝物庫として使っても良さそうだ。
(さてと、次か。)
調査を後回しにしていた3つのうち、1つが終わった。残り2つも片付けていこう。残りのうちの1つ、女神像の前にある祭壇を調べることにする。
といっても、調べるものは祭壇にある、大き目の透明な球体くらいしかない。これも未知なものへの不安から、なるべく近づかないようにしてきたが、覚悟を決めて調べる。球体は祭壇の上にある台座に置かれている。見た目は占い師が使うような水晶玉そのものだが、かなり大きい。
(ナメック星のドラ〇ンボールくらいだろうか。)
球体は、透明度が高く神秘的な雰囲気を醸し出している。そっと球体に触れてみる。覚悟を決めて触れてみたのだが、何の変化も起きないし感じない。動かしてみようと少し力をいれてみたが、しっかり台座に固定されているようでびくともしない。触るだけでなく、押してみたり軽く叩いてみたりもした。特に変化はない。
(まあ、そうだよな。いきなり何かが起こるなんてことは、そうそうないよな。)
少し安心したので、物理的な調査はやめ、少し違った方向で試してみる。球体に両手を広げてかざし、占い師が水晶玉の前でするように、手のひらを動かして見たり、未来や他の場所が映らないかイメージして、のぞき込んで見たりなど、少し不信な動きもしてみた。
他にも、触れながらマナを流してみる、収穫物を祭壇に捧げてみるなど、色々やってみたが、気になるような変化は起こらなかった。
(単なる飾りか、ご神体のようなものなのかもしれない。)
神社などには、奥にご神体として宝物が置かれていることもある。この球体は、ご神体かもしれないので、最後に、球体の前で手を合わせて女神に祈った。
(・・・?!)
些細な感覚だが、違和感があった。俺が祈った時に、球体が周りのマナが吸い込んだように感じた。些細な感覚だったため、気のせいだったのかもしれない。祭壇については、これ以上調べる方法を思いつかないので、調査を終えた。
(はあ、いよいよ最後だな。)
最後の1つは、今にも動きそうなゴーレムの調査。1年弱の間、何も変化がなかったので、今更動くとは思えないのだが、調査を先送りにし、今日も不安から最後の最後にしてしまった。
先延ばしはここまで、覚悟を決めて調べてみよう。祭壇の調査を終え、そう考えて、少し離れたところにある座ったままのゴーレムの方に振り返る。
・・・
「うぉっ」
悲鳴がでそうになるのをこらえながら、目を見開き、状況を理解しようとする。ずっと座ったままだったゴーレムが、いつの間にか立っており、こちらに近づいている!
(おぃおぃおぃぃぃ)
これまで何度も想像し、一度も想像通りにならなかったことが、今起こっている。その変化に心臓の鼓動が早くなる。息を荒くしながら、冷静になろうと心がけ、ゴーレムを凝視する。
まだ若干の距離があり、幸いゴーレムの移動速度は速くないようだ。急いで距離をとるが、広い部屋とはいえ、離れられる距離は限られている。
(なんで1年近く動かなかったものが急に?!)
ゴーレムは俺の逃げる様子を見てか、何かを訴えるように手をゆっくりと動かす。右手を前ややうえに突き出し、待ってくれと言わんばかりの姿勢をとる。
(なんとなく伝わるが、待てるかっ)
突然のことで冷静さを保つことができない。ゴーレムと距離をとりながら後ずさり。今更ながらせっかく作った武器を持っていないことを後悔する。ここは逃げの一手だろう。
(どこに逃げるべきか。)
逃げ道は、滝の上に向かう階段か、部屋の入口か。階段は逃げられたとしても、それ以逃げ場がなくなるので、ゴーレムの反対側にある入り口を目指す。幸いゴーレムはそこまで動きが速くない。
慎重に一定以上距離をとりながら、回り込むように移動しながら入り口に近づいていく。ゴーレムはこちらの行動に気が付いたのか、両手を上にあげたポーズになりその場にとまった。まるで降参しているようにみえる。
ゴーレムが止まったと同時に、部屋の入り口に向けて全速力で走り逃げ出す。ゴーレムが再度動き、追いかけてくる。人間っぽい意思を感じるが・・・全力で教会の外まで走る。
(我ながらかなりの速さだと思う。)
教会の外に出て、20mくらい走った後に後ろを振り向く。引き離せたようで何も見えない。しばらく待ったが、ゴーレムが追ってくる様子はなかった。
「ふぅーーーー」
大きく息を吐きだした。とりあえず安全は確保できたようだ。




