第34話 集落の基盤と仕組み
集落の運営目的については、整理ができたので、今度は運営手段も考えておく必要がある。運営目的である「緑化による救済」は、最終的には俺の使命達成も含んでおり、現時点では実現性が見えない。
少なくとも目的の達成を目指すには、住民が安心して暮らせる基盤と、組織が健全に運用される仕組みが必要になる。
住民が安心して暮らせる基盤としては、人が人間的な生活をするうえで、必須となる衣食住がある程度整っている必要がある。そのため衣食住の観点で、基盤を構築するための課題を洗い出しておく。
(集落の衣食住か・・・)
衣食住のうち、食糧確保の目途はたちつつある。あくまで、目途が立ったのは農作物だけなので、動物性たんぱく質が不足する課題は残っているが、村の状況よりは、それだけども十分マシな状態だろう。
住についても、教会を活用していき、人が増えてきたら、集落の建物を修理すればよいので、大きな課題はないはずだ。
衣については、正直優先順位を下げ、これまで検討を先送りにしていた。衣服の原材料も十分に確保できていないので、狩りや羊などの家畜確保などの改善策の検討と実施が必要だろう。時間は限られるが、少しずつ取り組む必要がある。
(病気は怖いな。)
衣食住がある程度整ったとしても、人が増えれば、体調不良や病気になることもあるだろう。病気に対する治療方法については、技術力が不足しており、当面確立できる見込みがたたない。
せいぜい、荒野に自生している植物を探し出し、その中に薬草として使えるものを活用するくらいが目指せるギリギリの線だろう。
(本質的でない対応は、できれば実施したくないよな。)
病気が蔓延して長期化すると、人はその環境に適応するために、諦めから来る思考停止や神秘主義に流れやすくなり、まじないや宗教がはびこる下地ができてしまう。そうなってしまえば、生きていくためにそれを利用することも出来るが、なるべく避けたい。
当面は、清潔な状態を推奨し、睡眠と栄養を十分に取ることで予防に取り組むくらいが精一杯の回避策だろう。最悪、回復を見込めない人を見捨てるような、厳しい判断が必要なケースも想定されるが、それはこの集落に限らず、村でも同様だ。
村には、まともな病気の治療方法は一切なかったのだが、この世界の医療はどこまで進んでいるのだろうか。
(そろそろ、自衛力に向き合う必要もあるか。)
安心して暮らせる基盤構築を考えると、集落の防衛面も、段々疎かにできなくなるだろう。自分1人であれば、最悪逃げれば良いのだが、子供を多く抱える集落を想定した場合、極端に外圧に弱い。
この集落が30人規模になったとしても、外から数人の大人が来ただけで、制圧される可能性すらある。ちょっとした外圧があれば、今のままでは悲劇的な結末に直結しやすい。
当面、防衛面に力を割ける余裕はないので、俺が対応する手段を増やすしかない。スキル強化や、武器の準備、逃走経路の確保などできる範囲で進めることにする。
集落が組織的に防衛するために、自警団などが設立できるようになるのは、まだまだ先のことになるだろう。
基盤構築については、衣食住の確保、病気予防と薬草などの収集、できる限り防衛力強化を、可能な限り進めていくことにする。
(基盤はこれで良いとして、運営の仕組みをどうするかだ。)
うまく基盤が構築できたとして、組織として継続していくために、集落を健全に運営するための仕組みの確立も課題となる。
村に捨てられた人の命を救ったからといって、必ずしも感謝されるとは限らない。感謝して集落で生活して欲しいと想うが、すべての住人がそうなる保証はない。
村に捨てられたことを自覚し、絶望した大人であれば、救われたことに感謝し、従ってくれる可能性はあるが、子供は当然理解できない。むしろできれば自分が捨てられたなどということは理解してもらいたくない。
子供達には、集落の運営目的に、共感してもらえるような工夫が必要で、教育方針などを別途考える必要があるかもしれない。
大人に対しても無策ではなく、感謝してもらう演出、やりがいを感じてもらえる伝え方や仕組みなどが、必要になるだろう。
人材が集まってくれば、俺が影響力を発揮し続ける仕組みも必要になる。3歳児でしかない俺が、影響力を発揮する方法については、これまでもずっと考え続けており、方向性は決めている。
正直、難題過ぎて、それほど多くの手はない。俺の考えや言葉を直接話すのではなく、権威を持ち代弁してくれるような都合の良い大人や、それに代わる仕組みの構築などが、どうしても必要になる。
その実現の方向性としては、集落を宗教でまとめることを考えている。俺を女神のしもべと位置づけ、神の声に従い指導をするという具合だ。
しもべには、神秘性が必要となるが、演技のプロでもない俺には、常に神秘的な感じのする人物像を演じるのは無理がある。神の声やお告げが、時々聞こえる設定にして、聞こえない時は、少し変わった子供で通すくらいが限界だ。
大人の人材を確保するときには、最初が肝心で、俺を女神のしもべと信じさせるような演出も必要だろう。ちなみに崇める女神は、新たな神を設定する。こちらにも宗教があるとは思うが、それに合わせてもボロが出るだけだろう。
新たな女神は、俺に使命を与えた女神とし、ぼろを出にくくするため、村の女神とは異なる女神、名前はギリシア語で虹を意味するイーリスとする。イーリスは、アイリスとか、イリスとか、色々な読み方をされる女神で、ギリシア神話で主神級の神ではなく、その伝令使とされている。
伝令役という、いわゆる下っ端の女神の名前を選んだのは、この状況を恨んでいるとかいう他意はない。多分。
(協力者はどうしても欲しい。)
とりあえず、俺自身がしもべの演技をする方針だが、正直協力者が欲しい。ボロが出た時は、子供のふりで、なんとかするしかない。コナ〇君を心の師匠としよう。
(宗教組織の運営方法・・・か。)
集落を宗教でまとめていくために、住民の行動指針となる経典と、指示系統を確立するための職位を準備する。職位は、モチベーションにつながるように整理し、有能な人材が上の職位につくような、組織運営方法も準備する。
宗教の組織運営方法については正直詳しくない。知っている方法で実現するしかない。例えば、宗教も企業も、組織運営という面では似通っている。そう思えば、企業運営方法などが、参考にできるはずだ。
(企業運営と言えば、あそこかな。)
具体化には、前世で何十年もプラス成長を続けている、有名企業の企業経営を参考にしようと思う。その企業は4つの信条を社是とし、その信条に沿った組織運営を実現している。
ちなみに4つの信条は、第1に顧客に対する信条、第2に社員に対する信条、第3に地域社会や全世界の共同社会に対する信条、第4に株主に対する信条が書かれている。
集落では第1、第4は無関係なので、第2および第3の信条をベースに、経典に盛り込む。集落で商売することがあるなら、第1、第4の追加も検討するべきだろう。
まずは第2の信条をベースに、住民に行動指針を示しつつ、公正な評価のものと有能な人材を登用していくことを、集落運営の基本とする。第3の信条については、集落の生活基盤が確立できた後に、徐々に集落の活動目標として盛り込んでいく。
ざっくりとではあるが、住民が安心して暮らせる基盤と、組織が健全に運用される仕組みと、それを実現するための、課題が整理できたので、残りの3か月でできる限り課題解決を図っていこう。




