第32話 冬に向けた準備と水路の整備
「うぅ。さぶ。」
朝起きると肌寒い日が多くなってきている。集落の周りは見渡す限り、砂漠と荒野のため、見た目で季節感を感じにくいが、もうすぐ冬が訪れるのだろう。
生まれて3年目になるが、このあたりの気温変動は極端ではない。ゴビ砂漠のように冬場平均-20度という砂漠もあるのだが、どちらかと言えば珍しい。多くの砂漠では、ここと同じように、冬でも一桁くらいの気温で、氷点下になることはほとんどない。
作物は、どの種類も15度以上の気温がないと育ちにくいため、前回の収穫を終えてから、種まきをやめている。植物の成長速度が早いため、目標としていた食糧の確保と、農法の確立は順調に進み、既に達成したと言っても良いだろう。
スキル強化もまずまずの状況だが、緑化と人材確保に向けた準備についてはまだまだこれからだ。
(冬を迎える準備も、既に行った。)
集落内の畑は休耕にして、寒起こしを行った。寒起こしは、地中の病害虫を死滅させるため、地面を30cm程度掘り起こして冷気にあてる。そうすることで、土を団粒構造という空気がふくまれた土壌することもねらう。
気温が5度以下にならないと、ねらい通りになりにくいため、気温が下がった時期を見越して行った。これで、畑の作業はしばらくない。
竹の育成は、集落内ではどうやら安定したようだ。こちらも手がかかることはなくなり、冬場の低温環境に何とか耐え抜いてもらうことを祈るしかない。もともと、村の裏山に自生していた竹なので、おそらく大丈夫だと思うが地下茎がまだ弱いのが気になる。気休め程度だが、ソルガムの枯れた葉を周りに敷いておいた。
集落外では、ローズマリーとオリーブを挿し木で増やそうと取り組んできたが、冬が近づいてきたため、新たな挿し木は止めた。数は少ないが、挿し木で根付いていたローズマリーとオリーブにも、頑張って冬場の低温環境に耐えて欲しい。
(今は見守るのみだな。)
やることが少なくなったので、自分の冬ごもり向けて、薪となる枝や木材にもなる枯れ木を、積極的に集めている。集落周辺を巡り、マナ操作による身体強化で、薪などを持てるだけ積み重ね、集落に運び込むことを繰り返した。
遠くまで足を延ばして集めたこともあり、かなりの量の木が回収できた。集落の中にちょっとした山ができている。
時間が取れるようになったので、集落内の追加探索と、村からの移動手段の整備に力を入れた。
追加探索では1つ大きな収穫があった。
ボロボロとは言え、鉄製の農具が放置されていたので、この集落では、鉄はそれほど貴重ではないだろうと考えていた。だから、あるのではないかとは思っていた。
そして集落を追加で探索したときに、炉がある施設を見つけた。危険な施設でもあるので、集落の端にあり、しかも、裏から地下に掘り下げられた場所に、鉄鉱石の鉱山があった。
残念なことに、その鉱山は、さびたような色の鉱石が掘り出せる程度の質の悪い鉱山のようだった。縞状鉄鉱床のような特徴が見られれば、質の良い鉄鉱石が期待できたが、そこまで都合は良くなかった。それでも鉄鉱石としては十分使えるので、製鉄をいずれ試してみたい。
村からの移動手段は、最初の難関の階段は既に完成し、滝のうえの高さまで無事到達した。それも大きな成果だが、それよりも大きな収穫もあった。
階段を掘り進み、ようやく水路の高さにまで達したとき、左側の壁に白色層が出てきた。その白色層は透明に近い箇所も多く、試しに立方体にくりぬき、なめてみたところ、見た目から期待通りしょっぱかった。
要するにずっと探し求めていた塩。階段の途中に岩塩の層が見つかったのだ。30センチ程度の立方体をくりぬいても、その奥も岩塩の層で埋蔵量も期待できる。
階段は、滝の左側の壁を掘り上げて作ったので、十分な高さに達した後、そこから右側を掘り進み、水路につなげた。多少増水したとしても、水が階段に流れ込まないように、水路より上に出るように気を使って掘り進んだ。
ちなみに階段は、一段の高さを30cmでつくったのだが、高すぎて使いにくかったので、仕上げの際に、半分の高さに削り直し、一段の高さを15cmに修正している。階段の段数は結局、全部で72段になった。かなり立派な階段ができあがり、満足している。
(立派な階段だけでなく、塩も得られたので、大満足だ。)
最初の難関を何とかクリアしたので、今は移動手段として使う、水路の整備を進めている。整備方針は、水路の左側に歩ける場所を確保しつつ、村から木箱がここまで流れ易くなるようにすることだ。
整備を始めて、大まかな作業量を確認した後、整備する必要がある残りの距離を想定してみた。
(村までの残りの距離となると・・・)
手がかりは、俺がこの集落までに、流された時間くらいだろう。
崩落地点から滝までは、大体3~4時間程度流されていた。流されるときに、竹で水底や壁を押して速度をあげていたので、水に流されていた速度は平均秒速1m程度。その速度で4時間流されたとする。4×60×60=14,400秒なので、滝から崩落地点まで約14.4km。
崩落地点から村までは数時間、2時間程度流されたとする。水の流れに、ほぼ任せていたので、速度は秒速0.5mで、2時間流されたとすると、約3.6km。
滝から村までの距離は、約18km程度でハーフマラソン以上離れている。かなり距離があるので、水路は道の歩き易さは最低限に落とし、先に進むことを優先して整備を進めている。
スキル強化が順調に進んでおり、作業効率が格段にあがったこともあり、道の整備は既に崩落地点に到達している。水路も、箱が引っかからない程度まで整備を進めており、崩落した岩の除去まで終えることができた。このペースであれば、水路の横に作っている道だけなら、冬が終わるまでに余裕をもって村まで届きそうだ。
(懐かしく感じるな。)
作りたての道を使って、久しぶりに2か月弱閉じ込められた場所に帰ってきた。まだ1年も経っていないのだが、もう何年も前のことのようで懐かしく感じた。
抜け出したときに、持てるものはほとんど持ち出したので、残っているものは少ない。それでも、当時、貴重なたんぱく源としていた白い魚が見えるし、順調にそだっている竹があった。
竹林というほどではないが、竹の数が増えており、太めの竹も伸びていた。ときどき竹材をここまで取りに来ても良いかもしれない。
(ラストスパートしないとな。)
これまで1年を目途に様々な取り組みをしてきた。時間が経つのは早く、目標1年まで残り3か月。難易度が高いと考えていた、村からの移動手段も整備が間に合いそう状況にまでなっている。
村からの人材確保が現実味を帯び始めた。そうなると、保留していた残りの課題についても、真剣に考える必要がある。
特に、大人の人材をどう確保するかの具体化、後は、所詮3歳の子供にしか見えない俺が、確保した人材にどう指示をして、この集落を運営していくかの具体化だ。
これまでも作業をしながら、結論は出さないまでも、思考は重ねてきたので、基本路線はなんとなくイメージ出来始めている。そのイメージを具体案まで検討を進めていきたい。それだけでなく、ずっと先送りにしている、あれもやる必要があるだろう・・・




