第29話 集落復興準備
この見捨てられた集落を復興し、農法の確立と食糧確保を何としても実現して、村の掟で見捨てられる人々を人材として受け入れていく。他にも狩りや周辺の緑化などもねらいながら、1年で目途をつける。かなり欲張りで達成が厳しい方針だと思うが、そのくらいできないと先が見えない。
(季節は悪くないな。)
まず放置された集落の畑を復活させる。畑に少しだけ生えている雑草を見る限り、今は冬の終わりか春先。畑を整えるには悪くない。
畑は長い間放置されているはずだが、雑草すらあまり生えていない。土が酷く痩せていて、栄養素が足りていない可能性がある。かなり深めに掘り返し、地面が干からびない程度に水を撒くことから始めよう。
(よし、思ったより順調に行きそうだ。)
もともと畑として使っていた場所なので、既に水を引く路はあった。ところどころ水の流れが詰まっていたが、ごみなどを取り除き、少し修理しただけで、水が行きわたるようになった。水はもっと苦労すると思っていたが、想定以上に楽で助かった。
(これじゃあ、雑草も生えないのも分かるな。)
地面は、畑とは思えないほど固くなっており、そのまま耕せる状態ではなかった。特に固い部分を、手っ取り早くマナ操作で崩していく。意外とこの能力は地味に有能かもしれない。
少しほぐされた地面を、怪力を活かして、馬や牛のように農具を引いて畑を掘り起こしていく。ここでは、探索で見つけた、ボロボロだが鉄製の農具が役に立った。
畑が広いので時間がかかったが、荒れ地や森を開墾する訳ではない。障害物や岩盤、大きな石などがほとんどなく、この点も随分楽ができた。
(2カ月近く閉じ込められたのも、無駄じゃなかったな。)
最近、体もスキルも成長しているのか、力がどんどん強くなっているのを実感する。今でも、それこそ1馬力の働きはできるが、もっともっと力は必要だろう。
集落の畑は、ほとんど使い物にならなかったが、一部だけローズマリーが生き残り、自生していた。その区画の畑は、枯れていたものを抜き耕して、挿し木でローズマリーを増やしていくことにした。それ以外の畑には、有用な作物が残っていなかったので、村から持ち出した種子を植える。
村から持ち出した主な種子は、トマト、ナス、カボチャ、オリーブ、ソルガム(穀物)。流石にこの辺りの農作物だけあって、いずれも暑さや水分不足に強い品種だ。
オリーブは、集落の外に自生していたので、畑には植えず、それ以外のものを集落内の畑で育てていく。水路では苗が上手く成長しなかったが、ここであれば育ちそうだ。
(作付けは慎重に進めないといけないな。)
トマトとナスの作付けは、特に慎重に進める必要がある。この2つは特に連作障害を起こしやすい。繰り返し同じ場所で収穫すると、植物の成長が阻害され、枯れてしまうこともある。
連作障害が起こってしまったら、対策を打たないと、その土地は力がなくなり、収穫量が激減する。連作障害の原因が分からず、収穫量が落ちた土地を放棄して、代わりに新たな農地を広げていったとすれば、植物の成長速度の速いこの世界では、その行為が砂漠化の要因になるだろう。
前世でも起こったことが、植物の成長が早いこの世界では、2倍以上の速さで砂漠化が進んだ可能性がある。もし、連絡障害の原因が特定できず、砂漠化が世界的に進んで広がっていると仮定すると、肥沃な大地はかなり限られているはずだ。
たとえば周辺に大河などがあり、常に上流などから栄養素が運ばれてくるような土地でなければ、農作物を継続的に育てることができないし、そのような土地は、奪い合いになることが予想される。
(連作障害を避ける作付けを考えないとな。)
トマトとナスは特に連作には向かない。1度収穫したら、その場所での作付けは、3,4年は控えた方が無難だ。一方で、カボチャ、ソルガムは連作障害を起こしにくい。トマトやナスを収穫した後に植えることで、連作障害を避けることができる。
連作に向かない作物の後に、他の作物を植える、いわゆる輪作と呼ばれる方法を基本に、農法の確立を進めていく。ちなみに、生き残っていたローズマリーは連絡障害が起こりにくい。
一般的に、ウリ科(トマト、ナス)の後に、イネ科の作物を植えると良い。その他にも、ソルガムの後作にトマトが良かったり、ナスの後作にカボチャが良かったりするので、そのことを踏まえて2パターンの輪作を行う。本当は葉野菜なども、間に入れると良いのだが、今ある作物の種では、このパターンがよさそうだ。
・パターン1(トマト⇒(ソルガム⇒カボチャ)×繰り返し ⇒ ソルガム ⇒ トマト)
・パターン2(ナス⇒(カボチャ⇒ソルガム)×繰り返し ⇒ ナス)
念のため、この世界でも連作障害が本当に起こるか、何回くらいで起こるのかも、カボチャ、ソルガムの連作数を変えながら検証していく。
(葉野菜を入手できると良いが、村にもなかったし、難しそうだな。)
村から持参した作物で、ソルガムは特に今後のカギになる。ソルガムは、連作障害を起こしにくいだけでなく、実は他の点でも畑に有用なスーパー作物だ。
ソルガムは成長するときに、植物にとって重要な栄養素である窒素を吸収する。そのため、葉や茎の部分を土と一緒に耕す、いわゆるすき込みを行うと、窒素を含んだ良い肥料(緑肥)になる。
ソルガムの可食部となる実を収穫した後、緑肥としてすき込み、分解された後に次の作付けを行うと収穫と土地の回復の両方ができて効果的だ。もう少し村で生きられたら、こっそり育てようと思っていた。残念ながら実現できなかったが。当然、緑肥だけでは、回復できる栄養素が偏るので、他の肥料も増やしていきたいところだ。
(後は、どのくらい作付けするかだな。)
年間30人分の食料を、安定的に確保できる農法を確立することを、1年後の目標と考えているが、1人あたりどれくらいの食料が必要だろうか。これまであまり意識したことがないが、畑を耕す面積の目途をつけるために数値化してみる。
(不作も考えて余裕も見たい。)
輪作パターンから、作付けが多くなるソルガム(穀物)を主食と考える。昔、玄米を主食としていた日本人の小説で「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ」というくだりがある。
1合が約150グラム、1日4合で600グラム。この世界の年間の日数も365日と仮定すると、600×365=219,000グラム=219kgが、1年間に必要となる1人分の穀物となる。カボチャも穀物の代わりに食べるとすれば、それ以下で十分足りるだろう。
(しかし、1日600グラムの玄米とか、食べ過ぎなきもするが。)
1年で1人あたり約200kgのソルガムを必要とすると、30人分で6t。ソルガムは、1反(30メートル強の正方形)の農地で9t収穫できる。
気候の影響や、農作業の未熟さなどを考慮すると収穫率は落ちるが、植物の成長速度を考えると、少なくとも年2回収穫できることを考えれば、1反で9t以上は収穫できるはずだ。30人分の食糧確保に必要な農地は1反で足りる。
1反は結構広いが、一馬力を発揮できるので、時間をかければ十分現実的な面積だ。種が不足していることもあり、農地を確保できたところから作付けを行い、収穫して種を増やしつつ、1反の農地確保を目標に作業を続けていく。
(この程度であれば、他にも作業時間を割けそうだ。)
緑化のためにも、竹の移植は忘れずに進めておく。集落外の緑化については、砂漠化の原因である風蝕や水蝕を防ぐ対策として、竹とソルガムによる土地の固定化を基本と考える。残念なことに竹やソルガムの種に余裕がないため、優先順位を下げざる負えない。
とりあえず、ざっくりした方針と下準備の目標はこんなところだろう。畑の整備などの下準備が終わり次第、作付けを進めていく。平行して探索などを進めながら、まずは3か月様子を見ていこう。




