第25話 滝に落ちた先
(この世界は俺に厳しすぎる。)
滝から放り出され、水面にたたきつけられる瞬間に、そんなことを思った。滝に落ちる直前の必死の抵抗で、大破した木箱とは違う運命を選ぶことができた。
先に落ちた木箱のお陰とも言える。最後まで母親が作ってくれた木箱は、俺を助けてくれた。水と泡に包まれながら、そんなことを思っていると、水底が迫ってきた。
進入角度が良すぎて、水の抵抗が俺の落下速度を落としきれなかった。今度は必死に水の低抵抗力をあげようと、体勢を無理やり変え、足を下に向ける。
落ちる前に息を吸い込んだが、そろそろ苦しくなってきそうだ。落下速度を完全には殺しきれない状態で湖底に達し、そのまま蹴りながら、必死に藻掻き水面に顔を出す。
「ぷはっ」
息を吸いつつ、落ちた滝を見る。やはり10m以上の高さはありそうだ。その高さにぞっとする。そのまま立ち泳ぎで、ゆっくり泳ぎながら一息つく。
(よく無傷で済んだものだ。)
この世界は俺に厳しいが、生き残っていることを考えると、最悪ではないのだろう。池の淵に向かいながら、周りを確認していく。
滝の流れの先には、大きな像があった。木箱は勢いよく飛び出し、その像の裏側に当たって砕けたようだ。像は3m以上の高さがある大きなもので、女神を模している。
村の教会にあった女神像とは印象が違うように感じる。その像の足元に箱はぶつかったようで、その周りに荷物が散乱している。
(あまり広く散乱していないようだな。)
水に落ちたものもあるかもしれないが、後で回収できそうだった。竹材は落ちる途中に、手放してしまったが、ナイフは幸い手放さずに済んだ。何とか息を整えつつ、ゆっくりと平泳ぎで進み、地面に上がる。
「ふーーーーー」
大きめのため息をついた後、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。周りを見渡すと、あきらかに人工的な施設のようだ。池の真ん中に大きな女神像があり、その前に祭壇のようなものがある。
(大きな教会かな。)
かなり大きな部屋で、全体はドーム状になっており、天井から程よく光が入り、部屋の中を照らしている。部屋の装飾は白を基調としており、神聖な雰囲気を醸し出している。宗教施設なのだろう。
規模は大きいものの、村の教会にあった祭壇部屋に似ている。そう考えると、祭壇や女神像など、部屋にある大半のものが理解できる。だがその中で、1つだけ異彩を放つものがある。女神像などと違い、違和感があり過ぎる。
(なんだあれは。)
それ見た瞬間、目を疑って固まってしまった。警戒してすぐに隠れようと思ったが、隠れる場所がほとんどない。諦めて、その違和感を放つものをじっと見る。
それは大きな人型をしており、石像などと違い、今にも動き出しそうだった。しばらく物音を立てないようにしながら、慎重に観察していたが、それはピクリともしない。
(近づいたら動くのは勘弁。)
どうやら動きそうもないので、好奇心に負けて近づいて見る。それは座り込んだような状態で、近づいてもピクリとも動かない。直立すれば、ゆうに2mは超えるであろう大きさ。
額などにemethの文字が書かれていると聞いたことがあるが、見える範囲にはないようだ。イメージしていたものと違うが、どう見てもゴーレムだろう。
(初めて異世界っぽいものを見たな。)
素材は金属のようだが、間接に切れ目がなく、流体のようにも見える。単に像なのかもしれないが、座ったような不自然な恰好をしている。そのうえ、ゴーレムがある場所は、不自然なくらい中途半端なところだ。
(触らぬ神に祟りなし。動かれたら何もできないし、放置で。)
下手に触って動き出しても困るので、目を離さないようにしながら距離を取る。その存在感からか、言い知れぬ不安を感じる。これまでの運のなさも考えて、可能な限り放置することにするべきだろう。
それより村から持ち出した荷物の回収を優先する。大きな女神像の前に移動し、その前にある祭壇に近づく。祭壇には台があり、その上に水晶でできたような透明な球体が設置されている。神聖な雰囲気が漂っており、こちらも不用意に触る気にはならない。
球体に触れずに祭壇の裏に回り、壊れた箱の近くに行く。箱の中の荷物は散らばっていたが、狭い範囲に収まっており、ほとんどのものが回収できた。重要な布や羊毛、種や竹が回収できたので一安心。布を風呂敷替わりにして、荷物をまとめて持つ。
(それにしても、どういうことだ?)
滝から落ちて荷物をまとめるまでに、それなりの時間が経っている。かなり大きな音がしたはずだが、一向に人が近づいてくる気配はない。誰にも気づかれないなどと言うことがあるのだろうか。
(さて、どうするか。)
この祭壇部屋は大きいが、あまり調べる場所はない。滝、池、女神像、祭壇、ゴーレム以外は、滝の横に鍵がかかった部屋と、この部屋の出口だけ。軽く調べて見たが、これ以上留まっても変化がなさそうなので、荷物を持って部屋の出口に向かっていく。
念のためゴーレムが急に動き出すことを警戒し、何度もゴーレムの方を振り返りながらも、足早に出口に向かう。広い部屋だが何事もなく出口に到着。部屋から外に出て周りを探索してみよう。
「・・・ま」
部屋を出るときに、一瞬、声が聞こえたように感じたのだが、振り返っても何もなかったので、そのまま出ていった。女性の声が聞こえた気がしたのだが・・・
荷物は布に包んではあるものの、かさばるので相棒のナイフだけを手にもって、祭壇部屋への入り口前に置く。身軽な状態で、他の部屋を探索していく。
祭壇部屋から出ると、いたるところに埃が積もっているのが目につく。通路にも埃が積もっており、俺が歩いた場所は足跡が付いている。埃についた足跡は、自分以外のものはないので、このあたりには最近、人の出入りはなかったようだ。
祭壇部屋から出て通路を進むと、大きなフロアがあり、その周りに部屋がいくつかあった。フロアと祭壇部屋を中心とした構造の大きな教会のようだ。慎重にフロアにつながっている周りの部屋を1つずつ調べていった。
住居施設、台所、会議室、物置などと思われる部屋があった。どの部屋も、物がほとんどなく、泥棒などに荒らされた形跡もない。どの部屋にも、埃がかなり積もっているが、綺麗に片付けられた後に積もったようだった。
(引っ越した後か?)
状況からみると原因は不明だが、計画的に教会から出ていったのではないかと思う。結局、鍵がかかっていた部屋は1か所で、祭壇部屋にあった部屋だけだった。しかも、その部屋の扉には鍵穴らしきものは見当たらず。近くに不自然な隙間がある程度だった。隙間が扉をあけるための仕組みなのだろうと思うが、開け方が分からないので、開錠を断念した。
(今日はここまでか。)
祭壇部屋も含めて一通り調べ終わったが、新しい発見はなかったので教会内部の探索は終了とした。謎として残ったのは、ゴーレム、開かない部屋、そして、なぜか埃が積もっていなかった祭壇部屋だ。
教会の外も探索したいが、日が傾いている。住居施設と思われる部屋の1室を自分に部屋とし、荷物を持ち込み、寝床を用意する。不安だが、真っ暗になる前に寝た方が良いだろう。念のため、部屋の入り口には、人が来たら音が出るように細工をしておく。
(何とか寝て、明日は外も調べよう。)




