第23話 脱出準備
「よーし。がんばるか!」
水路に閉じ込められた状況を、少しでも打開するため、マナの研究を進め、工具なしでも、少し岩を削れる技能を身に着けることができた。
マナ操作と名付けたスキルは、チートと言うには微妙だが、今の状況下では脱出のきっかけになりうる。このスキルで、なんとかこの水路からの脱出を図りたい。
(まずは、脱出しやすそうなところを確認するか。)
崩落により水がせき止められた場所に行き、改めて崩落場所と周りを調べた。水の流れは、緩くなったものの崩落以降もずっと続いている。
近づいてのぞき込んで見ると、水面より下に、水が流れるような隙間がある。隙間と言っても、人や荷物が通り抜けられそうなところはない。岩が崩れ、小さな石が積み重なった隙間を、水が通っている。
(これは、時間がかかるな・・・)
小さい穴でも開いていれば、そこを広げていこうと考えたが、そう簡単ではなさそうだ。周りも丁寧に調べてみたが、どこも簡単には崩せそうに場所はない。短期での脱出はあきらめ、ある程度期間がかかるのを覚悟する。
(さて、どうすべきかな。)
マナ操作で岩を削れることを前提で考えると、脱出経路は主に3つ。崩れる危険を伴うが、崩落場所を下から崩す、周りの壁に穴を掘って迂回路を作る、天井まで足場を作るだ。
天井まで到達するための足場を作るには、足掛かりになるような窪みだけ作れば良い。脱出するまでの期間を優先させるのであれば、最速での脱出できそうだが、脱出した後が問題だ。
粗食でも問題ない体ではあるが、流石に水なしで生き延びられるとは思えない。マナが水分も補ってくれる可能性はあるが、体内でのエネルギーが合成される仕組みから考えると、その可能性は低いように思う。どうしても試してみる気にはならない。
周りの壁に、迂回路になるような穴を新たに掘る。硬い岩盤のような場所を選べば、作業中に崩れる可能性を低減できて、安全性は増すように思える。だが、脱出するまでに掘り進む壁の厚さがわかない。
壁が薄く、意外に早く脱出できることもありうるのだが、これまでの不幸な状態を考えれば、数年単位になる可能性すらある。
(やはり、崩落した場所だな。)
悩んだが消去法で、崩落場所の岩を削っていくことにする。危険はあるが、崩しながら掘ることで作業が早く進む可能性があるし、崩さなければならない距離も予想が付く。上手く崩せれば、そこからまた、木箱に入って水の流れで進むこともできるだろう。
最低限、木箱を通せるくらいの穴を掘ることを目標に作業を始める。マナ操作を数回使って、3cmしか削れないため、地味な作業になりそうだ。千里の道も一歩から。少しでも前に進めるなら、続けるしかない。
・・・
(水中はだめか。)
早速、水に潜って下から崩そうと思ったが、マナが水に溶け込んでしまい、なかなかうまくいかない。諦めて水の上に出ている部分を少しずつ削り、穴をあけていく。
削れる大きさが小さいせいか、マナはあまり減らない。連続してマナ操作を行って岩を少しずつ削っていく。マナが減ったら、周りから吸収。再び作業に戻るのを、ひたすら繰り返す。かなり地味な作業だ。
・・・
「ガラガラ、パシャ」
(またか・・・)
崩落してから既に1か月以上経っており、安定している箇所が多いのだが、掘り進めると、突然崩れ、掘った穴が塞がる。そのため、中々穴が大きくならない。
それでも、これまでと違い、少しでも前に進める感触があるのは嬉しい。初日は、一日中作業をしたところ、30cm程度前に進める穴を作ることができた。
必要な距離は、まだわからないが、地道に進めていくしかない。きっかけがあれば、大きく崩落して、脱出できる穴がぽっかり空く可能性も考えていたが、どうやら難しそうだ。
短期での脱出は諦めるしかない。穴掘りを続けながら、脱出の準備と、マナの研究で時間がかかる検証を平行して進めよう。
(脱出の準備か。)
脱出の準備と言っても、最低限で良さそうだ。今のところ、ほとんど食事をしなくても、水さえ飲めば健康に問題がない。ただ、腹は減るし、体の成長に必要な物質は、なるべく摂取するべきだろう。
マナから体の成長を補うような栄養素が、合成されるのかもしれないが。可能性は低そうだ。このままだと、体が十分に大きくならないかもしれない。
燃料は限られるが、脱出できる見込みができたので、定期的に魚を確保して焼いて、食事を取りつつ、脱出後の食糧としても確保しておくことにする。
(マナの研究も平行して進めるか。)
マナの研究の一環である検証は、穴掘り時間の確保を最優先に、短時間で行えて、長い時間観察が必要なものを進めることにする。マナが、植物(竹)の成長に与える影響の検証が良いだろう。今後の方針が決まったので、後は地味な日常を繰り返していくしかない。
・・・・・・ ・・・
「ようやくだな。」
崩落場所を掘り進み、ようやく向こう側が見えた。結局、脱出に必要な穴を掘り終えたのは、最初に岩を削れるようになった日から、18日後だった。
(長いような、短かったような。)
毎日必死に、常に効率を上げることだけに集中していたため、時間は飛ぶように過ぎて行った。体感的には短かったのだが、木箱に刻んだ傷の数は確実に増えた。
掘り進む中、何度か大きな崩落が起きて、やり直しになったのも痛かった。崩落が起こるたびに心が折れたが、心を無に作業を繰り返した。社会人で培った忍耐力のお陰かもしれない。
(まあ、修行と考えれば悪くない。)
作業を繰り返したことで、良いこともあった。マナを繰り返し使うことでスキルの向上が体感できた。
マナを吸収する範囲や速度、マナ感知、マナ操作が、それぞれ強化された。岩の削り出しや、削り出した岩の移動などが、どんどん効率的になっていった。そうでなければ、まだまだ時間がかかっただろう。
(マナの研究も少し成果があった。)
どうやらマナは、植物(竹)の成長に、プラスの影響を与えることができそうだ。
いくつかのパターンの検証を行った結果、成長をイメージして、竹の先にマナを流したパターンが最も成長が早かった。なんとなく根に流す方が、マナが効率的に吸収されて、成長が早いのではないかと想定していたが、意外な結果だった。
こちらの通常の竹と比べ、5日間で竹の高さが30cmくらいの差が出た。サンプル数が少ないので、個体差や植えた地面など環境の差が、どこまで影響しているかは不明だ。参考程度の結果だが、まず影響を与えると考えてよさそうだ。
マナで成長を促進した竹は、記念すべき洞窟産の竹材として持ち出すことにする。
結局、水路に閉じ込められてから58日。ここの生活も今日を最後にしよう。明日は前に進むことにする。いよいよだ。




