第20話 マナの仮説
マナの研究を進める準備は、十分ではないがそろったように思う。この世界で感じている違和感について、それがマナの影響という仮説をたて、検証することで、理解を深めていく。
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女神は、俺の魂をマナと関連させることで転生させた。俺の魂はどこかに存在しており、マナを介して肉体につなげられるという仮説を考えてみる。
女神には、魂と肉体をつなげる仕組みが作れるのかもしれない。しかし、その方法は女神に聞くしかなさそうだ。
この仮説は、母親のお腹の中で意識があったことを考えると、正しそうなのだが検証することは難しい。仮説が正しいのであれば、俺の魂は前世の記憶ごと、どこかに存在しているということにもなる。
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2歳とは思えない動きや、怪力などの身体能力はマナの影響と考えてみる。
村人は大人も子供も、前世の常識の範囲内だった。マナはそこら中に漂っているので、そのマナが身体能力に直接影響しているとは考えにくい。
俺の丹田に、マナが流れ込むことが特殊で、それが身体能力に影響していると考えるのが、一番説明がしやすいように感じる。俺だけが特殊になる理由は、転生が関連しているのだろう。
流れ込んだマナは、どう身体能力に影響するのか。エネルギーの一種、例えば未知の栄養素として取り込めたとする。
俺の筋肉の付き方は、特に特別なことはなく普通に見えるので、そこには影響していないと思ってよいだろう。未知の栄養素としてドーピング効果があったとしても、子供の筋肉で岩を持ち上げるほどの力が、出せるとは考えにくい。
無理に出せたとしても、筋肉繊維が無事だとは思えない。マナは、栄養素やエネルギーなどではなく、何かのトリガーに反応して、物理的な影響を及ぼしているのかもしれない。これについては、別途検証が必要だろう。
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植物の成長の早さが、マナの影響と考える。
漂っているマナは、壁や地面と同様に、植物もそのまま通過しており、影響を与えるようには見えない。成長速度から考えると、植物のどこかに、マナを取り込む仕組みがどこかにあるのかもしれない。これも別途観察・検証が必要だろう。
(謎が深まる一方だな。)
未知のものなので、当然なのかもしれないが、考えれば、考えるほど検証すべきものが増えてくるように思える。それでも、今は続けた方が良さそうだ。
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魚の動きが、予知レベルでわかるのはマナの影響と考える。
この場合、要因は予知する俺と、予知される魚の2つに分けて考えた方がよさそうだ。例えば、魚がマナを使っており、マナ感知で魚が動き出す方向などの情報が得られているようなこともあるかもしれない。魚に関する情報は全くないので、判断するには、改めて魚の観察もしてみる必要がある。
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病気をしないのがマナの影響とする。
病気の原因が病原菌の場合、マナが病原菌を排除するのか、体を健康にすることで免疫力を高めているのか、それとも前世にない体を正常に保つための何かしらの力があるのか。
この検証はマナだけでなく、病原菌の調達と観察も必要になる。病原菌の観察は、顕微鏡などの道具が手に入らないと難しいだろう。
この世界に顕微鏡を作るだけの技術力があるか、俺が技術を再現するかのどちらかができなければ、病原菌の観察ができない。この件は当面保留とするしかない。
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ざっと、この世界で感じていた違和感をもとに、マナについて研究を進めてみた。研究というより、単なる考察になってしまったが、それでも、理解が深まり、新たに分かったことや、研究を進めるに必要な情報が、不足していることを再認識することもできた。
地道に追加で情報収集に努めつつ、仮説の検討を随時続けた方がよさそうだ。基礎研究に近い内容だけあって、やはり急激な推進は中々難しい。
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先ほどの考察の中で、別途観察や検証が必要としたものの中で、すぐに情報収集できそうな植物の観察から手を付けることにする。
周りにある観察できる植物は、今は竹しかない。早速、竹を植えている場所に移動する。 竹は着実に成長しており、稀に小さいながらタケノコも生えている。食べられるようになるのが、非常に待ち遠しいのだが、できればその前にここを脱出したい。
雑念をはらい、観察を始める。
マナ感知能力はLv1で、感じる範囲が限られているので、竹にできるだけ近寄り観察する。植物の成長速度につながるような、新たな事実をここで把握したい。観察のサンプルを増やすため、複数の場所で観察を繰り返していく。
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やはりマナは、物質の干渉を受けないようだ。マナはゆっくり流れるよう動いているが、竹の一部に触れても、そのまますり抜けていく。当然マナの動きに変化はない。
マナは竹だけでなく、地面なども同様にすり抜けている。目で見ながらマナ感知をしているが、見える範囲では竹がマナを取り込んでいるようには思えない。
(ああ、そういうことか。)
長い時間、竹の観察を続けていたとき、ふと、根が気になった。竹をなるべく傷つけないように気を使いながら、根が見えるように掘り、繰り返し観察する。その結果、すべての根ではないが、根の周りに動かないマナが確認できた。
根からマナを吸収しているのか、観察してみたが、結局、変化が感じられず、分からなかった。ただ、根の周りにあるマナは、いつまでも動かないので、取り込まれているのだろうとは思う。植物の成長速度の原因は、根からマナを取り込んでいることのようだ。
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次に動物の観察を行う。
ここにいる動物は、自分以外魚だけなので、魚が多い場所に移動する。魚が多くいる岩に腰掛ける。
竹と違って魚は頻繁に動くので、中々魚の近くで観察ができない。集中力が相当に必要で疲労が激しいが、忍耐強く観察を続けた。
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断言をするには弱いが、魚がマナを吸い込んでいる様子はなかった。何度か、マナが魚と重なったが、マナの動きに変化がなかったし、魚からマナを感じることも結局なかった。
動物の成長速度は、前世と同様であることもあり、マナは魚に影響を与えないようだ。なので、魚の動きの予知ができる要因は、俺側にありそうだ。
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最後に自分自身の観察をする。
落ち着いて観察するために、寝床に移動する。意識を丹田あたりに集中させ、マナが自分に吸い込まれ、どのように流れているかを調べてみる。
漂っているマナに俺の丹田を近づけると、近づいたマナが丹田に取り込まれていく。大体30cmくらいに近づければ取り込めるようだ。
取り込まれたマナは、丹田近くにとどまったあと、少しずつ全体に回っていくように感じる。どんどん取り込むと、マナが満ち、体全体を覆うようになった。
その段階で、積極的に取り込むのをやめ座ってマナの減り具合を観察する。数時間観察を続けて、やっと少しマナが減ったことを実感できた。
それでも、自然に散ってしまうか、食事の代わりにマナを消費して、生命活動を維持しているという可能性もある。後者の方が、俺が食事を十分にとれなくても、健康でいられる原因としては理解しやすい。
今すぐできるマナの仮説に対する検討と、追加の情報収集はできる範囲で進められたように思う。さらに検証などを行い、マナの研究を進めていきたい。




