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第2話 これからのこと

(・・・あなたの助けが必要なのです)


 俺は相変わらず、漆黒の闇の中にいる。周りの温度や感触などは全くなく、頭の中に直接響く、好みの声だけが唯一の刺激だ。麗しい声の主は、心地よい声で現状について説明してきた。あまりに心地よい声のため、素直に耳を傾けていたが、その内容は現実離れしている。


 俺の置かれている状況は、いわゆるラノベや漫画で何度も使い古された、異世界転生の直前ということらしい。声の主は、転生先の女神を自称しているが、特別な力はほぼ失っているのだという。女神に辛うじて残っている力は、特定の相手と直接意思疎通する力、地球から人を転生させる力。


 転生先は、地球との姉妹惑星で、重力や大気などの環境条件はよく似ているところらしい。説明はされているものの、あまり実感がわかない。だが、この後すぐにでも転生するということなので、いくつか転生先について確認した。


 なにか問題か理由があるから、転生をするのであろうし、やっぱりお約束の転生特典は知っておきたい。当然、転生先である新天地の状況は、特に気になるので真っ先に確認したのだが、かなりまずい状況のようだ。


 環境破壊がかなり進んでおり、それに伴う慢性的な食糧不足などから、人間同士だけでなく、種族間での争いが絶えない。環境破壊と戦争のために、凄まじいと表現するレベルで人口が減っているのだという。


 追い打ちをかけるように、各地に謎の大型獣や魔物が現れ、ただでさえ減っている人口に、さらなる拍車をかけているようだ。そんな状況を憂いている女神が、残された力を使って、地球から人を転生させて打破しようとしているという。


(これはまずい!)


 使えない上司が、どうにもならない企画を、俺に丸投げするときの香りが強くしている。具体的な目標も示さず、そもそも問題の根本も理解しておらず、どうしたいという戦略や方針もない。女神のくせに、謎の大型獣や魔物とか言っている時点で、能力の無さが伺える。


 とりあえず人を割り当てて、改善させよう、良い方向に進むだろうという、任せることと放任とを理解していない無責任さが見え隠れしている。


(これは絶対にお断りすべき案件だ!)


 俺の社会人経験が、色々な無茶ぶりを丸投げされてきた実体験が、心に強い警告を出している。自称女神の心地良い声に聞き惚れて、思考停止していたが、ここはなんとかして、逃げ切るべきだ。


「なるほど、愛すべき世界がそのような状況では、さぞ悲しまれていることでしょう。ただ、自分で言うのも虚しいですが、ご存じの通り、俺には秀でた能力がなにもない平凡な人間です。限りある大事な力を使い、私を転生させても、決してあなたの世界に、良い影響が出ることはないですし、私よりも適任の人材は、他にいくらでもおりますよ。」


 そう心を込めて、目一杯の祈りを込めて、切実に訴えかける。俺の代わりの人材として、出世していった上司たちを推薦しようとも考えていた。カルネアデスの板を、出世して良い思いをしている上司たちの代わりに、俺が掴んだとしても、許されるだろう。


 しかし、自称女神の返答は芳しくない。返答を聞く限り、既に無策を重ねており、完全に行き詰っている。


 女神の使える転生には制約があり、能力が高い人を特典付きで転生させるには、相応の力が消費される。転生させられる回数も、地球の神との間の約束で、上限が設けられており、今回の転生が最後。


 自称女神は、既にほとんどの力を使い切っており、残った力で転生させられる、ギリギリの能力を持った人材が俺で、他を探すにも時間がないということらしい。本当にふざけた話だ。


「大丈夫です! 私がすごく丁度いい人材を推薦します! きっと転生させたうえで、特典も付けられるますよ。確実にあなたさまの狙い通りになります。」


 そう言って、必死に、元上司を推薦しようとしているが、全く意に介した様子がない。既に確定事項と決めつけている節がある。


(ここで諦めたら、また酷い目にあう!)


 女神は悪気なく素直に説明しているつもりのようだが、要するに自分の失敗の尻ぬぐい。しかも、任せる相手の俺に対して、モチベーションにつながりそうなことを1つも言えない、典型的なダメ上司と同じ言い方だ!


 残った力で転生させれられる、ギリギリの能力とか言われて、喜ぶ奴がどこにいるのかと、小一時間ほど説教をしたいくらいだ。そういうことは、事実だとしても、伝えない方が良いやつですよね・・・


 しかし、俺の心を込めた提案を続けても、暖簾に腕押しの状態が続いている。人間の些細な感情などには、全く興味を示さないのか、良く分かったうえで、しらばっくれているのか分からないが、既に選択肢はないようだ。あまりにも酷い話に呆れるしかない。


 残った力で、ギリギリの能力の人材と言っている時点で、お約束のはずの転生特典も望めそうにない。しかも、地球との姉妹惑星で、環境条件が似ているという時点で、俺が自然と鍛えられており、転送先で無双できるということも期待できない。


(俺には行く理由も、メリットもないのに、決定事項の指示が来る。結局、会社と一緒か。)


 こうなると、いくら騒いだところで、出来レースであるのは間違いなく、もう、情報収集に励むしかない。切り替え、駄女神に転生先の話を、いくつか切り口を変えながら聞いていった。


・・・


 転生先では人口だけでなく、動植物もかなり減っており、その影響で『マナ』がかなりの濃度で充満しているという。『マナ』は生物の根源であり、基本的には意思を持たない力の根源。生物が生まれるときに必須のもので、動植物が新たに生まれるときや、成長するときに吸収されるそうだ。


 新たな動植物が生まれるとき、例えば人間であれば、卵子に『マナ』が宿ることで妊娠し、子供となるという。転生先では、この仕組みで輪廻転生が起きており、今回の転生は、既に取り込んだ俺の魂を、『マナ』を介して母親となる母体に吸収させて、転生させるとのことであった。


 結局、駄女神は、転生先の仕組みのようなことは、理解しているが、人間を含んだ動植物の状況や、理化学のようなことは、大したことは知らないようだった。まあ、ある意味女神らしいのだろう。


(はあ、もう既に俺の魂は取り込み済みで、変更の余地は元々なかったのか。)


 女神と言うより、悪魔の所業ではないのかと本気で思う。まだまだ、聞くことが多くあったのだが、自称女神である声の主は、力の限界で、間もなく休眠状態になるという。そうなると、しばらく意思の疎通ができなくなるそうだ。


(女神の尺度でいう、しばらくって・・・)


 そして、あらためて自称女神から、転生先の世界を救って欲しいと伝えられた。最後に俺から、改めて、転生先を救うための戦略や方針が、なにかないかを訪ねたが、返ってきたのは、あなたに期待するとの一言だけだった。


(結局、いつも通りということか。)


 戦略も方針がなく、支援さえもない、丸投げで仕事をふるパターンだと確信した。結局、俺は異世界に転職するようなものだなと思いながら、意識を失った。


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