第18話 マナの研究方針
水路に閉じ込められて1か月以上経過した。生き延びられていることは嬉しいが、抜け出せる見込みが立たないのは、流石に辛くなってきた。ここで朽ち果てるのでは転生した意味がない。
天井の穴から助けが来ることや、新たな崩落で抜け道ができるなどの可能性に、淡い希望を持って精神を保ってきたが、これ以上自分を騙し続けるのは難しい。
この閉鎖された空間に、1人で生きていくには、自分の行動に直結している、新たな希望が何か必要だろう。そこで着目したのが、前世との大きな違いである『マナ』だ。
これまでの俺自身に起こっている奇妙な点と、少し向き合っただけでも可能性を感じることができた。新しい切り口になるかどうかは、現時点不透明だが、今日からマナの研究に時間を割くことにする。
一言で研究と言っても、全く未知の領域だ。前世の知識で参考になるものはなく、ほぼゼロからの研究で、正直何をして良いかもわからない。今こそ前世で無茶ぶりされ続けた、新規事業の検討が役に立つとき・・・なのかもしれない。
新しいことを検討するときに、大事なのはワクワク感。馬鹿にしている感じもするが、その効果は馬鹿にできない。新しい発想や成長の源になることが、研究結果として出ている。
新製品の開発や、新たな取り組みなどによる売り上げ拡大など、成果を出している企業や大学などは、このワクワク感を出す工夫を、基本的な仕組みに取り込んでいることが多い。このことが、多くの日本企業がイノベーションを起こせない一因ではないかとさえ思っている。
ワクワク感を持つ大事さを念頭に、新規事業の検討方を参考にしながら、マナの研究の手がかりを探す。
新規事業の検討は、変化に着目することが多い。変化と言ってもとらえ方は様々。人の考え方や生活の変化、環境の変化、新技術の発明、新しいエネルギーの発見などなどは良く挙がる変化の例だ。
変化の中でも、新技術や新しいエネルギーが見つかることは稀で、さらにそれが有用なものであれば革命が起こる。
普通、万に1つもない、数百年に1度見つかるかどうかのレベルの変化だ。ただ、終わりつつあるこの世界では、マナが満ち足りていると女神は言った。そのマナうまく使えることができるのであれば、革命を起こせる可能性を感じる。
(あ、ちょっとワクワクしてきた。)
可能性を感じはするが、まったく情報がない。正直、なにか手がかりが欲しい。
俺の今の状況を考えれば、女神であればマナについて何か知っているだろう。せめて声だけでも復活すれば、色々聞けるのだが。
「そろそろ復活して良い頃合いじゃないですかー」
実は復活していたという可能性に賭けて、試しに叫んでみた。叫んでみたり、祈って見たり、呼びかけ方をいくつか試して見たが、全く反応はなく、寂しさを再認識するだけだった。
(本当に寂しい・・・)
そろそろヒロイン的な誰かや、知識を与えてくれる師匠的な存在が現れてくれても良いと思うが、ここは全然俺に優しくない世界。圧倒的な孤独。いつか、ステータスを確認できる仕組みを構築して、幸運値を見ることを、やりたいことリストに加えておく。
俺以外に救いの手を求めても、俺以外いない。当たり前だが、結局のところ、今頼れるのは俺自身。気を取り直して、革命を起こせる可能性のあるマナについて、思いつく限り、これまでに知りえた情報や、前世との変化や違和感を挙げて考察してみる。
①人間も含めて動植物が激減しており、その影響でマナがかなりの濃度で充満している
②マナは生物の根源で、俺が転生するときに女神がマナを活用していた
③理由が不明だが、俺にマナが集まる
④母親の腹の中で、マナの流れが感じられた
⑤植物の成長速度が前世の2倍以上
⑥2歳までろくな食糧事情ではなかったが、普通以上に成長した
⑦思った以上に体が動き、力がある(他の子供たちと比較して異常なレベル)
⑧水路に閉じ込められて、ろくに食事ができていないが30日以上たっても元気
⑨魚の動きが予知レベルでわかるようになった
⑩病気をしたことがない(単に健康なだけかもしれない)
挙げてみたもののあまり統一感がない。1つ1つの違和感を掘り下げていき、手探りでも研究を進めるしかない。
研究を進めるために、新規事業の検討ではスタンダードな仮説検証を地道に行っていく。仮説検証を繰り返すことで、マナへの理解を深めていきたい。
仮説検証は、本来、価値観が異なる複数人でやる方が、有用な仮説につながりやすくベターだが、いないものはしょうがない。脳内で、違う人を思い浮かべながら、仮説の多様性を出すように心がける。
これからやる検証は、新規事業に向けた検討ではなく、新概念のマナに対する基礎研究に近いものになりそうだ。地味な検証が続きそうだが、基礎研究にもワクワク感は必要だろう。忘れないようにしていきたい。
革命を起こせる可能性のあるマナに着目したことは、間違いないと思うが、そもそもマナそのものに対する理解がなさ過ぎる。少し考えただけでも、活用する以前の問題であることを再認識した。
マナに関して仮説検証を行い、基礎研究を進めることで、まずはマナへの理解と応用を目指していくことにする。




