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第177話 救出作戦

(リコルド、やっぱり情報が洩れていると考えた方が良さそうですよ。)


 シモンとエルバの父親ブルトと連絡を取り始めてから、一か月が経った。救出に向けた準備は整い、ブルトに近々救出に向かうと伝えていた。当初、ブルトのみの救出を想定していたが、ブルトからの懇願があり、結局、ブルトの戦友を含めた計17名を救出対象とした。ブルトには情報が漏れないよう注意を促していたが、完全とはいかなかったようだ。


(そうだな。まあ、この程度であれば、予想の範囲だ。情報を絞っていたので問題ない。)


 セルカの話では警備兵が増員され、これまでいなかった塔の入り口と地下牢の前の扉に常駐するようになったと言う。併せて、砦全体の警備体制も少しだが強化されているそうだ。恐らく帝国側も半信半疑なのだろう。その証拠に、囚人たちの牢屋の移動や分散など、こちらにとって致命的な対策が講じられていない。情報漏洩防止のため、救出実行日、救出方法などの作戦の核心を伝えていないことが功を奏した。とは言え、囚人の中に帝国に密告する人がいるとし思えない状況だ。


(よし、セルカ、これから救出作戦に入る。頼むぞ。)


(わかりました。では、作戦通りに。成功を祈ります。)


(ああ。)


 俺は、穴の中から掘削作業を再開する。延々と掘り続けた穴は、既に牢屋の近くまで来ている。見込みでは牢屋の通路の最奥の壁に残り30cm程度。最後の壁となっている砂岩層を、なるべく音を立てないように掘り進むと、程なく穴があいた感覚と同時にいびきの音とすえた臭いが入り込んできた。あいた穴を、辛うじて大人がくぐれる程度に素早く広げてから外に出る。狙い通り牢屋の中央にある通路の一番奥につながった。


(いびきは五月蠅いが、お陰で順調に掘り進められた。感謝すべきかもな。)


(ですね。しかし、よく眠れますよね。)


 いびきの大合唱で、多少の音くらいでは警備兵に気が付かれる心配はない。それでも、音は立てない方が良いに決まっている。忍者さながらの足袋や服装と、慎重な足取りで静穏性を保ちながら、通路の先にある入り口の格子の扉に移動する。


・・・


「キン」


 マナ操作で格子扉の鍵を破壊する。鉄を弾いたような、いびきとは異質の音が響いたが、気が付かれた様子はない。時間をかければ、音を抑えることもできるが、今は時間が惜しい。どうしても鉄が折れたような音がしてしまうのは許容するしかない。格子扉の付け根に油をさしてから開ける。


「キィーーー。」


 完全に音を消すことはできなかったが、無事格子扉を開けることができた。そのまま先に進み、一階に向かう階段につながる扉に近づく。この扉は外側から閂がかけられており、その横には新たに配備された警備兵がいるはずだ。そっと奥の扉に近づき、息をひそめ聞き耳を立てる。音は聞こえないが、マナ感知を広げると、扉から少し離れた位置に警備兵が1人いるのを感じる。


(よし、こちらに気づいた様子はないな。兎に角急がないと。)


 外の警備兵は、非定期で牢屋の様子を確認することが分かっている。携帯の時計がないからか、その確認タイミングに規則性はない。そのため少しでも発見されるリスクを下げるためには、救出速度を最優先とするしかない。このまま見つからないことが最良だが、失敗したときを想定する必要がある。慎重に警備兵の気配を探りながら、扉に感づかれた際の仕掛けをする。小細工レベルだが、時間稼ぎにはなるはずだ。

 

 速度優先のため最低限だが明かりもつけているので、いつ無関係の囚人に気が付かれてもおかしくはない。できる限り素早く、かつ、静かに救出作業を遂行させられるかが成功の鍵になる。救出対象と接触し、彼らにも注意を促しながら、素早く動く必要がある。


(計画通り、進行中だ。ブルトに接触する。)


(了解です。塔の入り口周辺はもちろん。他の場所も変わった様子はないです。)


 俺は、ブルトが囚われている牢屋の前に移動し、できるだけ静かに中に入る。いびきの音に合わせて鍵を破壊してみたが、異質な音はどうやっても牢屋に響く。内心ヒヤヒヤしているが、囚人たちが起きる様子はない。侵入した部屋は4人部屋だ。目線をブルトの寝床に送ると、既にブルトは起き上がって、手を挙げて合図を送って来た。


(ブルトと無事合流した。仲間の救出に入る。)


(順調ですね。次は通路に入って、2つ目の右手の部屋からです。)


 ブルトの戦友は、別々の部屋に分散して入れられている。当然の措置だとは思うが、これから8部屋もまわる必要がある。面倒だし、どうしてもリスクは高まる。可能なら他の希望者も救いたいが、17名でも多い。


 第一目標であるブルトとの合流は成功した。お互い示し合わせた通り、一切無駄口はたたかない。この後はブルトと連携を取りながら、1部屋ずつまわっていく計画になっている。俺は手で合図をして、次の部屋に行こうとすると、ブルトが首を振りながら自分の足を指さす。


(ああ、そうだったな。)


 そこには鉄製の足かせがあり、事前にブルトから逃走前に外せないかと相談を受けていた。俺はブルトに近づき、足かせに触れる。


「キン。ゴトッ」


 ブルトを縛り付けていた足かせが、無造作に地面に転がった。


「なっ!」


 ブルトは余程驚いたのか声を漏らしたが、すぐに黙る。俺は指を口に当てて「しーーー」と、静かにするように促しながら、周りの様子をうかがう。ブルトも自分の失態に気が付いたのか、目を丸くしながら口に手を当てた。・・・幸い周りに気が付かれた様子はない。気を取り直して、セルカの指示の部屋へ向かう。


・・・


 ひたすら速度と静穏性を最優先に、同じ流れを繰り返していった。


(笑ってしまいそうだ・・・)


 セルカが指示し、目的の部屋へ移動。俺が扉を開け、ブルトが中に入る。仲間だけを起こして連れ出し、俺が足かせを外すという流れを繰り返していく。足かせを外す度に、ブルトが仲間の口を抑えにかかる様子が、少しコミカルで面白い。絶対に笑ってはいけないという状況が、忍耐力を強要してくる。


(よ、よし、次は6部屋目だ。)


(順調ですね。)


(まだ油断はできないが、このままいけば、安全に逃げられそうだ。)


 救出作戦は順調に進んでいる。目的の半数を解放し、今は6部屋目の鍵を壊し、ブルトが部屋に入っていった。


・・・


(遅いな・・・) 


 こんな状況でも、寝起きが悪い仲間はいる様だ。救出の決行日を伝えなかった弊害なのかもしれないが、ここまででも2人起こすのに苦労したようだ。今回はさらに時間がかかっている。かといって、たたき起こして大声を出されたら洒落にならない。ここを含めて残り部屋3つ。もう終わりが見えている。焦らず慎重にいくしかない。


 今回の1人は手ごわそうだ。焦る気持ちが抑えられなくなる。俺も中に入ろうとすると、ブルトが扉から出てきた。謝るジェスチャーでをしている。


(やはり寝坊か。)


 ブルトの後から、少し離れて新たな仲間も近づいてくる。にっこり微笑みながら、ブルトと同じように、謝る格好をしてきた。いつ警備兵が確認しにくるか分からない状況で、イラっとするがここで短気を起こしては台無しだ。俺は頷き、出てきた仲間の足かせを目の前に出すように指示し、外すために屈んで手を伸ばした。


(よし、びっくりした様子でも見せてもらうか。)


 俺はやっと起きてきた男に、足かせを前に出すように伝え、屈んで足かせに手を近づけた。


「!」


 足かせを破壊しようとした瞬間、上から何かが落ちて来るような違和感があり、咄嗟に避ける。頭があった場所を両手の打ち下ろしが通過する。避けなければ俺の後頭部を直撃したはずだ。流れるように繰り出された裏拳もガードする。


「ちっ。おい衛兵!逃げ出しているぞ!! なにして・・・ ドサッ」


 男はそれ以上叫ぶことなく、地面に崩れ落ちた。


(リコルド、殺したんですか!?)


(いや、死んではいない・・・はずだ。)


 状況を考えれば殺しても良いかもしれないが、自分の常識がそれを躊躇わせた。今の怪力であればそうすることも容易なはずだが、なるべくなら避けておきたい。慣れていないので自信はないが、失神しているだけのはずだ。


 人間を一撃で失神させる方法はいくつかあるが、どれも致命傷に直結する方法だ。加減が難しい。比較的知られている方法は、顎やこめかみを殴る、耳から顎下のあたりの首を蹴り脳震盪を起こさせる、喉を突いて息を止めることだろう。殴るときは脳を揺らすために拳で打ち抜くのだが、今の俺の力ではろくな結果にならない。やや安全と思う首を蹴る代わりに、手の付け根で叩くことで相手を失神させた。十二分な手ごたえがあったので、生きているかは正直自信がないが、今は確かめている余裕はない。


(くそ、急がないと。)


 警告の声は短かったが、突然の大声に何人かの囚人が目を覚ます。警備兵も気が付いたはずだ。牢屋はほぼ密室の状態なので、応援を呼ばれると詰む。時間を稼いで逃げる時間を確保するしかない。


 俺は階段に通じる扉の前に行き、腰の打竹から火種を取り出し、用意しておいた仕掛けに火をつける。火はすぐに仕掛けの油に燃え移り、そのまま積み上げた木材にも広がっていく。案の定、異変を感じた警備兵が、扉の閂を外そうとしている音が聞こえる。


「火事だ!! 火が出たぞ! みんな起きろ!!!」


 俺は火を付けながら、牢屋全体に伝わるように大声を出した後、ブルトのもとに戻る。


「ブルト。残りの仲間の部屋に向かう。付き合え。他はこれで燃えそうなものに火を付けろ!」


 解放した仲間に打竹を渡し、既に扉を開けてある部屋のものに、火をつけるように指示をする。返事を聞かずに、ブルトと残りの部屋に走る。音を気にする必要がないので、速度優先で扉を開け、仲間をたたき起こし、足かせを外していく。


 牢屋のいたるところから、火の手が上がり始め、囚人たちが騒ぎ始めている。


「おい。こっちの扉を開けてくれ。焼け死んじまう!!!」


 扉が開いていない牢屋は、火が付いていないはずなのだが、パニックを起こしているようで、怒号が飛び交っている。


「入り口の扉が燃え始めている! やばい! 閉じ込められるぞ!!!」


 俺は混乱を助長させるために、あおりを入れる。実際、入り口の扉に引火し始めているが、いずれ衛兵が開けるはずなので、閉じ込められる危険性は少ない。落ち着けば問題ないはずなのだが、牢屋から出た囚人たちが焦り、扉の方に殺到している。おかげで、警備兵も良い具合に混乱している。


「ブルト。仲間を通路の一番奥に集めてくれ。落ち着いて、なるべく他の奴の気を引かないように。」


「やっとお会いできた。イーリス様にお仕えしているリコルド様ですな。承知した。」


 ブルトはそれだけ言うと、すぐに行動に移った。詳細は伝えていなかったのだが、落ち着いていて、かなり肝が据わっている人物らしい。俺はブルトの仕切りを少し見てから、残りの牢屋の扉を、手あたり次第開けて行った。そもそも燃えるものがあまりない牢屋では、大火事になる心配はないのだが、火は人を狂わせる。俺は、あおりを入れるだけ入れた後、皆が待っている奥へ向かう。


・・・


 奥に行くとブルトの仲間がそろっていた。火で周りが明るくなり、皆の表情も見える。皆、落ち着いた表情で、整列している。


「色々聞きたいこともあるだろうが、今はこちらの指示に従ってもらう。ブルト、この穴を滑り降りろ。皆もブルトに続き降りろ。30秒ごとに一人ずつだ。俺はこちらでやることをやってから、最後に行く。」


 俺がそう伝えると、皆は頷いただけで、ブルトを筆頭に穴に飛び込んで行った。真っ暗で細く先の見えない穴だ。入るのに覚悟がいるはずだが、皆躊躇せずに飛び込んで行く。統制が取れすぎていて少し恐ろしい。傭兵とは、皆こんな感じなのだろうか。


「天井も崩れたぞ! ここもヤバいかもしれない。 逃げろ!!」


 俺は声であおりつつ、適当に天井や壁を崩し、混乱を助長していく。良い具合に混乱した囚人たちが、入り口の方に走り、出来ていた列を混乱させていく。その様子を確かめながら破壊工作をした後、奥に戻ると既に全員が穴に入ったようだった。


(できれば、この経路は残しておきたいな。)


 逃走経路を作るのにかなり苦労した。いずればれると思うが、なるべく再利用できるように隠ぺい工作をしておきたい。俺は火の様子を確かめ、残された囚人たちが焼け死ぬことはないことを確認してから、穴に飛び込んだ。そして穴の上を崩し埋め、さらに降りながらも穴を崩していく。10m程度崩し続け、後を追えないようにしていった。この程度諦めてもらえれば、再利用も可能だろう。


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