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第174話 潜入

 時より勢いを増す北風にさらされながら、砦の北面の丘と壁を登り壁の上までたどり着いた。壁の上には警備や防衛のための通路があり、道幅は2m程度、端には高さ50cm程度の落下防止も兼ねた壁があった。その壁に身を隠しながら砦を見渡したが、光源は全体的に少なく、門や重要と思われる施設に限られているようだった。


(推測が正しければ、西側か。)


 ソステンの推測では、砦の構造から西門の近くの塔に、捕虜が収容されているだろうということだった。俺は姿勢を低くしたまま、壁の上を西端に移動しつつ、今後に備え定期的に『しるし』を壁の外側に設置していった。北壁の通路は壁が風よけにもなり、強風の中でも安全に移動できた。暗い以外の障害がなくすんなりと西端に着くことができた。


 移動途中、概ね30mごとに塔が設置されており、西端までに見た塔は、突き当りのものも含めて3つ。登った位置から考えてこの砦は東西の長さ200m程度。うっすら見える北南は塔の数からみると120mくらいで、全体的には長方形の構造になっている。


(正直、まずい状態だな。)


 前世の砦の規模から考えると、既に中規模以上の大きさになっている。最前線でこの規模の砦がいきなり完成することはない。砦の内側には、真ん中より東側に東西を遮る壁があり、長方形の構造を2つに分けている。恐らく、最初に東側の区画が作られ、さらに西側の区画が拡張されて、今のような構造になったのだろう。これ以上拡張が進み、この地域の支配が盤石となれば、共和国はもたないかもしれない。


(恐らく、あれだろうが、念のために確認しておくか。)


 壁の上から暫く内側を観察していたのだが、困ったことに西側の塔と言えそうなものが複数あり、捕虜がいる塔が特定できない。内側には、塔以外にも兵士の住居施設らしきものが南側にあり、篝火と警備の兵が見える。夜の間に捕虜を動かすようなことがあるとも思えないので、これ以上のここで観察を続けても、捕虜の場所を特定できそうもない。俺は覚悟を決めて、壁から内側の砦の敷地内に降りて、調査範囲を広げることとした。


・・・


 音を立てないように壁から慎重に降り、内側の地面に着地する。かすかに音が出たが、細工した足袋のおかげで、その音は北風にかき消された。慎重に周りを探ったが気づかれた様子はない。捕虜がいると推測された西側の塔、その条件に合う塔は、西側の壁と一体化している5つ、内側の兵士の住居施設の前側にある背の高い塔が1つ、合計6つだ。


 ほぼ間違いなく本命は背の高い塔だが、念のため一番近くにある西側の壁と一体化している塔から調べる。ゆっくりと塔に近づくが人の気配はない。塔の下には、人が1人なら余裕で通れそうな入り口があるが、そこには見張りもおらず、扉もない。確実に外れだろうという作りだが、慎重に入り口から中を覗いた。


(まあ、そうだよな。)


 壁と一体化している塔は円柱形で、中には上に登るための螺旋階段があった。中から上を見上げると、天井はなく星空が見えている。北面にもあったが、恐らく壁と一体化している塔はすべて同じようなつくりなのだろう。


 そうなると、やはり本命は壁の内側にある塔。形状は四角柱で天井も着いている。塔の入り口には、大きい2枚扉があり、外から(かんぬき)が掛けられている。その少し離れた南側の場所には、兵士の住居施設と思われる場所がある。暫く観察していたが、住居施設の前にいる2人の兵士が、塔の入り口も併せて監視しているようだった。


(さてとどうしたものかな。)


 塔の上には窓のような場所があるのだが、その窓からは明かり漏れている。恐らく監視塔としての役割もあるのだろう。その窓と1階の扉以外に、その塔に出入りできそうな場所は見当たらない。後のことを考えないのであれば、塔の壁の一部を破壊すると言う手もあるが、今回は偵察が目的だ。極力気づかれないことが肝要だ。


 侵入するには、下の扉か塔の上の窓のどちらかしか選択肢がない。下の扉は、外側に閂が付いている。監視の目を盗んで上手く入れたとしても、閂を内側から掛けることができない以上、発見されるのは時間の問題だ。そうなると選択肢は、消去法で塔のうえのから侵入しかない。


(ギャンブルに近いが、選択肢はないか。)


 塔の上には、東西南北4つの窓がある。監視の目が向いていない窓からであれば、見つからないように侵入できる可能性はある・・・かもしれない。ここまで来るまでに、砦の内部にある程度『しるし』を設置し、常時監視が可能になったので、ここで戻っても良いのだが、やはり2人の父親のブルトの生存は確認しておきたい。


・・・


 俺は息を殺しながら塔に近づき、扉と反対側の北側を登っていくことに決めた。早速音を立てないように気を使いながら登っていく。塔を登りながら南側を見ると、兵士の住居施設が一望できるようになり、その前に篝火と警備の兵士の姿が見える。篝火が見えるせいで、登っている場所の高さがリアルに伝わってくる。登って来た丘より低いはずなのだが、手先に余計な力が入り、体全体が恐怖を感じ始めているのが分かる。


「ふぅーーーーーー」


 昔、無駄に高さがあるアスレチック施設を登った時に、動けなくなったのを、ふと思い出した。なるべくゆっくり長く息を吐き出すことを繰り返しながら、心が落ち着くまで待つ。このまま降りたくなる気持ちを押さえながら、シモンとエルバの喜ぶ顔を思い浮かべ、なんとか恐怖を抑え込む。あまり下を見ないようにしんがら、無心で登り続け、なんとか目的の窓の下にたどりついた。


 そっと聞き耳を立てる。


・・・


・・・


 暫く待っても人の話し声などはしてこない。


(セルカ、『しるし』を窓の外から忍ばせる。中の様子を教えてくれ。)


 俺はそう伝えながら『しるし』を一つ手に持ち、なるべく塔の中から見えないように動かしていく。手の力みはいつの間にか収まっていた。


(そこで止めてください。ちょっとそのままで。)


 俺はセルカの指示に従い、手を止める。


(・・・中に1人いますね。ぼーっとして油断しているようです。・・・あっ、隠してください。)


 俺は急激な動きにならないように気を付けながら、なるべく早く手を引っ込める。


(気づかれていないか?)


(ええ、恐らくは。ただ、こっちに来そうだったので、静かに。)


 暫く息を殺していると、人の気配が伝わって来た。


「あー。暇だな。眠っちまいそうだ。」


 いきなり頭上で声がしたので、かなりびっくりした。当然こちらに話しかけた訳ではなく、兵士は窓際で独り言を呟いているだけのようだ。


 俺は、窓から少し突き出している部分の下に隠れているため、覗き込むようなことでもなければ、近くにいる兵士に見つかることはない。そう理屈は分かっているが、心拍数はどうしても上がっていく。荒くなりそうな呼吸を、薄く長くすることで抑えながら耐え忍ぶ。兵士は、さらに少し呟いた後、「うーん」と伸びをした後、窓から離れていく気配が伝わって来た。


 そーっと『しるし』を動かす。セルカがこちらの気持ちを汲み、兵士の様子を報告してくる。


(兵士は、そのまま左右を確認しながら、南側の窓に向かって歩いているようです。)


(よし!)


 俺は覚悟を決めると、音を立てないように気を付けながら、窓から直接中を覗き込む。兵士がセルカの報告のまま、南側の窓の方に移動しているのが見える。兵士の動きに合わせるように、そっと窓から中に潜入し、内部構造を確認。中央にある穴に目を付け、さらに慎重に音を立てないように移動していく。移動は特殊な歩法を使っているため、ねらい通り無音。ただ、今の姿が誰かに見られたら、あまりの不格好な様子に、笑われるかもしれないとは思う。効果は素晴らしいが、あまり使いたくない歩法だ。


 使っている歩法は、『深草兎歩しんそうとほ』だ。忍者が敵陣などに忍び込むときに使ったと言われる歩法で、手のひらを地面につけ、かがんで両手の上に足を乗せて手のひらで一歩ずつ進む。不格好で非常に動きづらいのだが、びっくりするほど音が出ない。深い草むらや、忍者返しで有名なうぐいす張りの廊下でも、無音で移動できたと伝えられている。今いる石畳は言うまでもない。


「おーい。」


 南側の窓に近づいた兵士が、急に大きな声を出した。心臓が飛び跳ねそうになるが、そのまま移動速度を上げ、狙った穴に飛び込む。穴は予想通りの構造で、落下することはなかった。


「おーい。こちらは異常なしだ」


 そう叫ぶ兵士の声を背中で聞きながら、穴の中にあった階段を下りていく。塔の南側には住居施設があり、その前にいる警備兵と塔の見張りは、定期的に合図を交わしているのだろうと言うことは理解できた。俺はそのまま、暗闇の階段を下りて行った。


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