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第173話 エルドシュテーレ計画

 ソステンから得た情報は、シモンとエルバの父親が生きており、帝国の砦で捕虜となっていることを裏付けるものだった。しかし同時に、交渉などの正攻法での救出が絶望的であることも示していた。ダメ元で帝国側と交渉すれば、下手をすれば警戒させるだけということにもなる。失敗が許されるようなことではない。残る手段は奇策に類するもの。敵が想定できないような方法で捕虜を救出するしかない。


 前世にはエルドシュテーレと呼ばれるものが存在する。中世ヨーロッパの時代に作られたとされるそれは謎に包まれており、宗教的な目的で作られたという説から、エーリアンの巣だったという説まであるトンネルだ。構造はいくつもの小さな部屋のような空間を、人1人が這いずることでやっと通れるような、細い通路で繋いだような形をしている。ぞっとするほど狭く、閉所恐怖症になりそうな恐ろしい構造だ。


 奇策として考えたのは、このエルドシュテーレを、逃走用の経路として作り上げることだ。事前に俺が一人で砦へ潜入して内部調査を行い、捕虜の場所を特定、地下からその場所にアプローチして救い出す。これであれば想定できるとは思えない。ソステンの予想では、後1か月で帝国からの補給の問題が解決され、警備が通常に戻るということだったが、内部調査を終えておけば警備は関係ない。


(急がば回れとも言うし、準備に時間をかけるべきだろう。)


 俺はこの計画を実行に移すために、いくつもの準備を平行して進めて行った。砦の内部調査のための準備、エルドシュテーレ構築の準備、救出後の逃走経路の確保などを、限られた時間の中で各所と精力的に調整していった。もちろんエルドシュテーレの構築は、俺のマナ操作能力と愛用の工具で作る。生まれてからずっと、共和国に来てからも、領地と王都内の土木工事などでこの能力を使い続けており、今では非常識な速度でトンネルを作ることも可能だ。これくらいのことができなければ、敵陣から捕虜を連れ出すことは難しいだろう。


・・・


 計画を実行に移し、早くも1か月強の時間が経過した。


(いつもそうですが、良く掘りましたねぇ。)


 セルカは呆れ気味に、そう伝えてきた。


 1か月ほど前に砦の近くまで来たときに、ソステンが潜入は不可能といった意味を理解した。潜入を目指す砦は丘の上にあり、地形を最大限活かすように、丘の上の地面ギリギリに壁が作られていた。特に北面は、丘の絶壁に壁の高さが加わっており、外からの侵入を阻んでいるうえ、門も無いため一目見ただけで、誰もが潜入を諦める構造になっていた。だからこそ北面からの侵入は想定されないはずだ。それからひたすら最低限の睡眠をとりながら、昼夜問わず31日間穴を掘り続けていた。


 掘り始めた場所は、発見されにくさを優先した結果、砦の丘の下から北へ300m程離れた断層とした。そこからひたすら、砦に向かって斜め上に穴を掘り続けてきた。マナ結晶を仕込んだ愛用のスコップと、鋼の槍のような工具を無心で振るった。槍は穴を掘りたい場所に突き刺し、マナ操作で半径50cm程度の円筒形の穴が掘れるように工夫してある。主に王都の共同トイレなどを作るときに、愛用している工具だ。


 鋼の槍をひたすら突き刺し穴を開け、その穴をスコップで広げる。それを毎日ひたすらに続けてきた。理由は2つ。1つは当然、逃走用経路の構築。もう1つは夜目だ。以前読んだ文献に、忍者は夜の行動に備え、30日以上暗い部屋に籠り、夜目を利かせる準備をしたという。それに倣い、穴掘りをほぼ光源なしに作業を続けてきた。


 夜目については半信半疑だったが、5日目くらいから効果が感じられ、10日目からは暗闇でもある程度周りが分かるようになった。同時にその頃から、周りの地形がある程度把握できるようになった。初めのうちは気のせいだと思っていたが、見えないはずの空洞などの位置が当てられるようになっていった。


 やがてそれはマナの影響だと理解し、今ではマナが水に溶け込む特性によることが体感できている。周りにマナを浸透させるとことで水分量が感覚としてわかり、地形が把握できる。これにより、稀にある空間を見つけ活用することで、経路の構築も効率的に進んでいった。


・・・


 そして32日目の夜。ようやくモグラ生活を終え、穴から抜け出し地上に出てきた。


「星がまぶしいくらいだな。」


(良い天気ですからね。)


 今夜は天気も良く、穴の中とはくらべものにならないほど光源が多い。綺麗な星のはずなのだが、綺麗というより正直眩しい。


「よし。そろそろ乗り込むとするか。」


(本当に潜入するつもりですか? 気を付けてくださいよ。)


「ああ、十分気を付けるよ。思ったより夜目の利きも良い。昼間同然とは言えないが、走れるくらいには周りが見えている。まあ、何とかなるだろう。」


(暗くても周りが見えるようになるなんて、冗談かと思っていましたけど、効果があったんですね。)


「そうらしい。俺も半信半疑だったがな。」


 穴はまだ砦の下まで掘り進んだだけで、逃走経路は完成していない。捕虜の場所を確認してから、最後の仕上げをする必要がある。これから砦に潜入し、その場所を特定するつもりだ。俺は周りに人影がないことを確認し、南にある砦に向かって走った。地下ではかなりの距離に感じたが、地上では所詮300m程度。あっという間に砦の下についた。


「ふう。思ったより迫力があるな。」


(そうですよ。そこは絶壁ですから。)


 唯一門がない北面は、分かっていたがこれから登る壁としてみると、迫力が違ってくる。とても登る気になれない様相だが、その壁さえ攻略できれば、比較的安全に砦に潜入できると踏んでいる。


 潜入に万全を期すため、準備の際、忍者の有名な7つ道具のうち、有用そうな道具の再現を試みた。7つ道具と言われる鉤縄、編笠、石筆、薬、三尺手拭、打竹、(しころ)の中で、潜入に使えそうなものは鉤縄、三尺手拭、打竹、(しころ)の4つ。ただ、本命視していた鉤縄は、近いものを作ったものの簡単には使いこなせなかった。鉄製の(かぎ)を壁などに投げ込んで引っかけて使うが、中々引っかからない。しかも大きな音が出てしまうため不採用。のこぎりの剣のような錣も、マナ操作が使えるスコップで十分だった。


 結局、追加した道具は、三尺手拭、打竹の2つ。三尺手拭は要するにタオルだ。本来は殺菌作用のある蘇芳すおうと呼ばれる植物で染色するのだが、用意できたのは単なる木綿のタオル。それでもほっかむりや包帯などには使える。打竹は村にいた時に似たようなものを作ったことがあるが、竹筒に火種を入れる道具だ。この2つに黒装束と音を立てない工夫を施した足袋を準備している。


「それじゃあ、やってみるか。」


 俺は狙いをつけていた場所に着くと、早速絶壁を登り始めた。マナ操作により岩や壁に細工ができるので、手をかける場所や足場には困らない。力も十分にあるため、スイスイと絶壁を登っていく。夜目が使えるため周りは見えるが、遠くが見えないことが幸いし、思ったより恐怖感もない。


「思ったより順調に登れている。」


(そのようですね。こちらからは全くみえないですけれど。)


 潜入後に設置するための『しるし』をいくつか持ってきており、その1つを首から掛けている。セルカはそこから周りを監視してくれているが、暗闇では見えないようだ。いくら城の壁が高いとは言っても、鉄筋などがないため4~5m程度。だが、北側は丘の絶壁が10m近くある。併せて15m程度、鉄筋のマンションでいえば5階建てくらいの高さの絶壁になる。


 途中、強い北風にさらされて、ヒヤッとすることが数回あったが、無事に壁の上までたどり着いた。壁上は通路となっていたため、慎重に確認してからその通路に入る。姿勢を低くして腹ばいになりながら、壁の上から砦の中を覗いてみた。


「ソステンの予想が、良い方に外れたかもしれない。」


 城の内部を見渡しても、光源となる松明はほとんど見えない。大部分が暗闇で、重要な場所以外には松明が設置さていない。物資に余裕がないのだろう。警備も光源の近くに立っている兵士がいる程度のようだ。


 周りを見渡す限り、砦の構造はソステンから聞いていた通りになっている。流石に共和国方面の東の正門の側には、松明が複数設置されており見張りの数も多い。南側の裏門はここからは見えないが、似たようなものだろう。西側には住居と思われる建物と、少し離れた所に塔がある。ソステンの話ではその塔の地下に捕虜がいる可能性が高いと言う。正門ほどではないが、松明も見張りもいるようだ。それでも何とか侵入するしかない。俺は覚悟を決めて、壁の上を西側に向かって移動し始めた。


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