第171話 情報収集
シモンとエルバの父親が生きている。その可能性について、俺は翌日から王都で情報収集を始めた。セルカにも協力してもらい王都で流れる噂を集めつつ、宿屋の女将や市場の知り合いからも話を聞いてみたのだが、結果は思わしくない。
王都で収集できた情報には、捕虜に関するものはなく、軍事関連では帝国軍の卑劣さ、特に砦周辺の領民の扱いの酷さが際立っているものが多かった。その内容は不自然に偏っており、流れている情報に共和国側のバイアスがかかっているようだった。商人のフッガーから話を聞く機会を作ったが、やはり知りたい情報は入手できなかった。ただ、フッガーの受け答えから、情報統制が行われているという雰囲気をうかがうことができた。恐らくにわざと態度に出してくれたのだろう。
(やはり、軍事関連の情報は、簡単にはいかないか。)
俺は民間からの情報収集は諦め、より国の運営に近い関係者から、情報収集する方針に切り替えることにした。王都近辺で該当する人物は1人しかいないが、残念ながら聞きたい話があるからと会ってもらえるほどの関係性はまだない。仕方なく別件で会える機会を待っていた。
別件というのは、シモンが熱心に続けている排泄物の回収・廃棄に関係している。将来、うちの領地の事業の柱になりそうな勢いで成長していたが、急拡大した影響もあったのか、先日、上からの圧力で報酬を半減させられた。それでも共同トイレの建設などの条件を飲ませることで、採算ベースを確保。共同トイレの建設・運営という更なる売り上げも生み出した。
回収・廃棄の依頼は、元々人気がなかったが、報酬は半減、冒険者ギルドへの貢献度も無しとなり、完全に受ける人がいなくなり、冒険者ギルドから我々への指名依頼として扱われるようになった。そのタイミングで、作業以外に管理や定期的な報告が義務付けられていた。
(騙し打ちだが、報告の機会を利用させてもらうしかないな。)
「・・・今月の報告は以上だ。」
報告の内容は、回収量や新設している共同トイレの数などの定期的な内容に加え、王都の様子や道路の痛み具合など気が付いた点も報告している。
「ああ、承知した。今回も順調のようだな。お前のところ優秀な人材は、本当に上手くやってくれているな。シモンは確か成人になったばかりだろう? 条件が厳しくなっても、粘り強く工夫を重ねて成果を出し続けている。うちのギルドにも欲しくらいだ。実はすべてリコルドの指示だったりするのか?」
ギルド長のオルノは、心底感心しているように手放しで褒めてきた。
「うちのシモンは優秀だよ。当然指導もしているし、相談にものるが、きちんと自分で考えて判断している。あれだけの成果は、指示して出せるようなものじゃない。特にここ最近の成果は、シモンの人徳あってだろうしな。その辺は既に俺を上回っているよ。」
「謙遜をと言いたいが、最近の成果はそうかもしれないな。とてもスラム出身とは思えない。いや、出身だからこそということもあるのか。あそこでは英雄視されていると聞いているぞ。」
「らしいな。まあ、そうなってもおかしくない。」
事業規模を拡大する際に、課題の1つとして必ず挙がる人材問題。シモンは王都内にあるスラム同然の地域に目を付け、そこから人材確保を始め、着実に成果を出しつつある。王都で昔の自分と似た子供を見つけたのが切っ掛けだったと聞いている。地域住民の信頼も厚い。ただ、王都内ではアンダーグラウンドな組織が存在していて、裏でひと悶着あったのだが、儲けの一部を流すことで問題が表面化するのを避けられている。シモンにはその話は伝えていない。
「ところで、少し教えてもらいたいことがあるのだが。」
定例の報告が終わり油断しているオルノに、聞きたかった話をぶつけてみる。
「ん?なんだ? 来年の予算の話か? 良い話はできそうもないが、俺が知っている範囲の話なら教えてやれると思うぞ。」
予算の話・・・それはそれで聞いてみたいが、今はそれどころではない。別件だが知っている範囲で話してもらいたい。
「そいつはありがたいな。実は、俺の知り合いが帝国側の捕虜になっているという噂を先日聞いた。知っている範囲で構わないので、教えてもらえないだろうか。」
俺が表情を変えずにそう言うと、オルノは苦い顔をした。何か知っているのだろう。
「おい。いきなり話を変えるのは卑怯だろう。確かに俺は、共和国の中枢部にも知り合いがいる。王とも直接話すこともあるから、そっち方面の情報も知っている。だがな、そういう話であれば、前言は撤回させてもらうしかない。」
その態度や言動が、既にある程度の情報を示してはいる。不意打ちで聞いたことで引き出せた反応だろう。ただ、できるだけ確証に近い情報が欲しい。
「男に二言があると? 知っている範囲なら教えてくれると聞いたばかりだが。それに貸もそれなりにあると思うが。」
オルノは少しむっとした顔をしながら、低い声で返してくる。
「・・・そうは言うがな。お前も分かるだろう。軍事に関わる情報は常に機密だ。貸しがあろうが話せる種類の情報じゃないぞ。」
「・・・まあ、そうだろうが、こちらも必死でな。」
俺の表情から必死さが伝わったのか、若干態度が軟化したように感じた。
「こんなところで聞いてくるくらいだからな。それは分かるが・・・ うーむ。まあ、共和国軍の捕虜はいない。俺から言えるのはそれくらいだ。それ以上聞こうとするな。今日はもう帰れ。・・・来月また待っているぞ。」
オルノは表情を変え、人を寄せ付けない雰囲気を出してくる。
「・・・ああ、分かった。」
オルノがわざわざ、共和国軍にいないと言ったということは、それ以外にはいるということなのだろう。傭兵や義勇兵などは、捕虜になっていると暗に示したとも思える。それだけでは不十分で、聞きたいことはいくつもあるのだが、やはり引くしかない。
俺はオルノの言葉に従い、素直に部屋を後にする。
「ああ、そうだリコルド。ここに言ってみろ。ここまでが俺に出来る精一杯だ。」
俺が退出する直前に、オルノから紙を渡された。
「そうか。感謝する。」
俺はお礼を言い、紙を受け取りそのまま部屋を出た。
・・・
俺は冒険者ギルドから離れてから、渡された紙を確認した。
「バッカスの庇護亭」
紙には、オルノの顔や普段の言動からは想像できない綺麗な字で、そう書かれていた。
「どこかの店の名前かな。まあ、素直に考えれば酒場か・・な? セルカ分かるか?」
(・・・え、なんですか突然?)
「バッカスの庇護亭という店の名前だと思うが、何か知らないか?」
セルカは俺が様々な場所に設置した『しるし』を使って常に情報を集めている。その情報をもとに聞けば、大抵のことを教えてくれるようになってきている。集められる情報は、あくまで見聞きできる範囲に限られるが、情報量が異常なうえ、独自の分析も加えてくれるので役に立つことが多い。
(ああ、酒場ですね。その酒場、情報屋が集まる場所の1つですよ。以前からリコルドのことを調べている人が、何人も入っていったのを見ています。場所も分かりますよ。案内しましょうか?)
「なるほどな。オルノはやっぱり優しいな。」
情報屋というものを、これまで使ったことは無かったが、有力な情報が得られない今、使ってみるのも良いのかもしれない。オルノが紹介してくれたのであれば、外れということはないだろう。
「今は手持ちが少ないし、一度拠点に戻ってから夕方に出直す。その時に案内してくれ。」
(はーい。その時にこえをかけてください。良い情報が得られるように祈っていますね。リコルドを探っている人の話も分かったら聞いてくださいね。)
俺は分かったと伝えながら、一旦拠点に戻ることにした。




