表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/179

第168話 領民増加計画

(リコルド、倉庫の蓄えが減ってきています。流石に急に人を増やし過ぎじゃないですか? まだ余裕はありますが、春までもつかどうか。)


 ぼんやりと考え事をしていると、そうセルカが伝えてきた。


 昨日、帰郷していた最後の1人を出迎え、新たな村長に任命した。受け入れた人数は合計216人。同郷の人をまとめる形で、9つの村を新設した。各村の新たな領民は平均24人。急激な領民の増加は、当たり前だが食糧の消費量に直結する。


「ああ、少し驚いたが想定の範囲だ。最初の収穫が予定通りなら、ギリギリだが足りる。」


 受け入れ総数が見えてきた段階で、在庫は確認している。確かに在庫だけでは心もとないが、モツや鶏ガラスープなどで、ソルガムの消費量を抑えたレシピを取り入れれば足りる計算だ。多少計算が狂ってもなんとかできるだけの蓄えはある。


(それなら良かったです。それにしても住む場所の準備、良く間に合いましたね。準備の時間が以前より短くて、びっくりしましたよ。)


「まあな。建築も慣れたし、マナ操作の熟練の域だ。道具も工夫しているしな。何より領民との連携が取れるようになったのが大きい。」


 元王都住民のリーダ達が帰郷を始めると同時に、いつも通り、岩や岩ブロックを利用した住居の準備を始めた。領民たちも慣れ始めており、俺以外でもできるコンクリートの準備などの作業を、率先して手伝ってくれる。


 俺が手ごろな岩場を見繕っては、部屋の最終系をイメージし、岩を掘りながらブロックも同時に作っていく。壁が必要なところに、ブロックを並べると、領民たちはコンクリートを使って仕上げていく。 しかも、芯にマナ結晶を仕込んだ鋼鉄製の道具で、岩を掘り進む速度を大幅に向上させている。住居が単純な構造なのと、地形を最大限に有効活用しているため、建築速度は現代のそれと比べても遜色ない。


「建築業を始めても良いかもしれないな。」


(真面目にそれは良いかもしれませんよ? 結構趣のある住居になりますから。)


「はは。考えておこう。」


 ちなみに鋼鉄製の道具は、王都の共同トイレを増設する際に、効率を求めて開発・導入した。必要な食器や家具などは、細工担当のアシーナが間に合わせてくれた。


(でも、これからどうするつもりですか? リコルドのことだから、何か考えがあってとは思いますが。)


「そうだな。元王都住民の意識改革が、良い感じに進んでいる。この流れに乗っかって、以前から考えていた計画を前倒しに実施しようと思う。」


(計画ですか。どんなことか教えてもらっても良いです?)


 実のところ、ぼんやりしたイメージのみの部分も多いのだが、話を聞いてもらいながら整理することにする。


「グリーンガルディア計画」


(はあ、聞き慣れない言葉ですね。)


「緑の守護者の国を作る計画だな。」


(国ですか。確かにうちは目的が壮大なので、それぐらいの覚悟が必要ですね。今は領民が少なくて、領地というのも寂しいくらいなので、先は長そうですけど・・・)


「う、うむ。結構辛辣だが、その通りだな。領地というより、村にも満たない集落と言った方がしっくりくる。だが、今回、想定以上の領民を集められた。この調子で増やしていけば、いずれは村、町となり、領地と言っても良くなる。そうなればその先も見えるはずだ。」


(そうですね。ワクワク感は大事ってリコルドも言っていましたし。それでどんな計画なのですか?)


「ああ。今回、想定以上の人数を、ほぼ対価なしで受け入れられた。飢え死にしそうな人を優先して確保したからこそだ。9人が1度の帰郷で、これだけの人数が確保できたということは、共和国は全体的に食糧が不足しているのは間違いない。その上で子供が生まれ続けているということだ。 ・・・それぞれの村が、どんな状況かは容易に想像できる。酷い話だ。」


 前世でも似たような時代はあったが、この辺りは農地がかなり限られている分、状況はより酷い。食糧が不足しているのに子供は増える。ろくに娯楽がないから、自然と夜の娯楽に励むことになる。避妊に対する知識も手段もないから、育てられない子供が増え、負の連鎖が続く。


(育てられない子供達は、今どうしているのでしょうね・・・)


「どうしているというより、どうなっていると表現した方が近いのだろう。俺が産まれた村だけが特別ではないという話だ。」


(・・・あまり考えたくないですね。)


「そうだな。こういう状況だから、どこにでも飢え死にしてしまう人は多くいる。そうしないために、これまでの検証結果を活かすつもりだ。」


(検証結果ですか?)


「俺は里、村、この領地と、極端に痩せた土地でも、収穫をしながら土壌改良をする検証を続けてきた。まだ、収穫できる作物は限られるが、それでも生きていくには十分の収穫が得られる。まだまだ、改良の余地はあるが、命をつなぐだけの食糧が得られるなら悪くないはずだ。」


(今でも悪くないというか、麦こそあまり食べられませんが、結構良い暮らしをしていますよね。先日はお肉食べていましたし!)


「あ、ああ・・・」


 どうもセルカは、里でゴーレムと俺の体を入れ替えて、肉を味わってから、肉に強い執着があるように感じる。今はいつものように、肉の話を延々とされるのは避けたい。無視して話を続ける。


「王都の人からは、食に対する偏見から、雑草を食べていると言われることがまだ多いが、屋台は好調だ。しかも、市場の高騰具合を見れば、ソルガムが市民権を得るのも遠くない。まあ、兎に角だ。人は余っていて、俺たちには食糧を確保する手段がある。これまで検証してきたことを、規模を拡大して実施するだけの話だ。」


(なるほど。言われてみれば確かに。そうすれば食べるのには困らなそうですね。リコルドが掘り起こす土の面積が、ものすごい範囲になりそうですけれど。)


 よし。話を本題に戻せた。


「うむ。そこはこの冬でなんとかするさ。帝国との戦況も不透明なので、王都から更に離れた南の土地を、広範囲に掘り起こすつもりだ。」


(それで新設した村の住居も、南につくったのですね。)


「ちょうどいい岩場がなかったのもあるがな。新設した村では、これまで検証した結果を、農業推進手法としてまとめて置き、春から取り組んでもらう。本当はもう少し、道路・水道・燃料の整備や教育、他にも人が増えると必要になるものを準備してから、少しずつ広げるつもりだったが。まあ、良い機会だと思っている。」


(食べられるだけでも、十分救える人はいます。是非やるべきだと私も思います。ですが、でもそれなら・・・)


 セルカが言い淀んだことは、想像がつく。俺も悩んでいることだろう。


(・・・それなら農業推進手法だけでも共和国に広めれば、救われる人は増えると思います。)


「確かにな・・・」


 広めることをためらう理由はいくつかある。そもそも信じてもらえないとか、その余力がないとか、堆肥の原料に対する拒否反応があるとか、ソルガムを食べることへの抵抗があるとか、不安要素は挙げるときりがない。その中で最も大きな理由は、この手法を広げ、人口が急増した場合、高確率で環境破壊が人口増に比例して進む、下手すれば乗数的に進むかもしれないという点だ。


 土壌の状態を見る限り、現状でも環境破壊が進んでおり、その原因は人間である可能性が高い。この世界の植物の異常な成長速度に加えて、肥料などの概念がないため、土地が急速に劣化し見渡す限りの荒野が広がってしまっている。さらに、森林の大量伐採なども追い打ちをかけている。少なくともこれまで見た場所はそうだし、下手をすれば世界中で同じ状況になっているかもしれない。


 もしかしたら、食糧不足で人口が制限されることで、環境が小康状態を保っているだけで、食糧が確保できると、完全に継続不可能な世界になってしまうかもしれない。そう思うと現状で広げる気にはどうしてもなれない。


(無理にとは言わないです。リコルドにも考えがあると思いますから。)


 暫く沈黙していたので、セルカが心配そうに伝えてきた。


「いや、正直悩んでいる話だ。いくつか理由はあるが一番大きいのは、土地が荒れ、森林が減り、神達が眠りについている状況を作ったのは、人間かもしれないということだ。説明が難しいのだが。」


(・・・・・・・そうなのですか?)

 

 そう言われたところで、理解できるはずがない。せいぜい伐採により森林が減ることまでは理解できるが、他は意味が分からないだろう。前世の俺自身も、正直最後まで自分が環境を破壊している一因である実感がなく、結局なんの行動も起こせなかった。その後悔は今も根強くある。


 そもそも惑星レベルの環境変化に対して、人間が大きな影響を与えているということが、事実なのか検証しきれている話でもない。文明が進化し、さまざまなセンサーが開発され、大気などのデータを長期間蓄積し続けたことで、ほぼ確かな推測という認識がやっと生まれたレベルだった。ここの技術レベルで理解できる方がおかしい。そんなことを不用意に発言すれば、狂人と言われる可能性も十分にある。


 環境に対する汚染や破壊の原因は、この世界では知覚されることは当面ない。誰にも知られることなく、世界を滅ぼすという、悪魔やラスボスみたいなものなのかもしれない。


「ああ、俺の知識ではそうだ。」


(そうですか・・・そうなのですね・・・)


 セルカは疑うことなく、そのまま飲み込んでくれたようだ。優しい人だ。いや、ゴーレムを動かしているだけなので、人ではなく魂なのか。


(それじゃあ、人は増えない方が良い。むしろ滅んだ方が良いのですかね・・・)


「極論すればそういう考えもあるが、俺は逆の方針を考えている。」


(逆ですか?)


「この状況を作ったのは人間だと思うが、上手くすれば、環境を改善できるのも人間だと思っている。今なら、取り返しがつかないような環境破壊は、まだ起きていないはずだ。着実に仲間を増やし、環境改善に取り組んでいけば、いけるはずだ。」


 今の技術レベルで出る環境汚染物質は、二酸化炭素やメタンガス、硫黄などで、フロンや放射能のような致命的な物質はまだ少ない。この状況であれば、緑化と排出量の抑制で十分効果が見込める。


(なるほど。それでですか。)


「ああ、まずは計画の最初の一歩。環境改善の取り組みを、一緒に行ってくれる領民を増やそうと思う。そうすれば命も救える。さらに計画を先に進めるには、力がもっと必要になるから、それも平行で進める。」


(わかりました。そういうことなのですね。)


 現実にはまだまだ仮説レベルで課題も多い。それでも石炭の消費量を、すぐにでも抑制する必要がある。前世で行われたように、法令で強制的に利用を禁止させられれば話は早いが、俺にそんな力はまだない。だから共和国に小型オーブンを普及させて石炭の消費を抑え、領内では農地や森、竹林を広げていくしかない。


 近い将来、石油やガスも発見されるはずなので、それに対する対策も検討しておく必要もある。これらを徹底して環境汚染を最小限に抑え、木や竹などを増やして、空気中の炭素を減らしていけば、人間の活動が環境に対してプラスになるような状況に近づけるだろう。


「よし、明日からも忙しくなりそうだ。協力を頼むぞ。」


(はい。もちろんです。ところでリコルド?)


「なんだ?」


(今度、里に戻ってくるときに、お肉をお願いしますね。)


「・・・わかった。」


 あまり遠くないタイミングで、俺もまた帰郷しなければならないようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ