第166話 モツ鍋
「おはようございます。今朝は早いですね。」
俺が起きると、先に起きていたエルバが挨拶をしてきた。いつも早起きをして、朝食の準備をしてくれるが、今日は俺が振舞うことにしよう。朝から少し重いかもしれないが。
「ああ。おはよう。昨日手伝ってもらったものを、皆に味わってもらおうと思ってね。この辺では初めてになるかな。」
「もとの材料からは想像できないですけど・・・ ちょっと怖いけど楽しみです。」
「クセがあるが、気に入ると思うぞ。悪いがもう少ししたら、昨日手伝ってくれた人を呼んできてもらえるか? 養鶏施設のオーブンで料理をするから、皆に自分の食器をもってきてもらってくれ。」
領内ではマイ食器を推進している。細工担当のアシーナが、連日焼き物の皿を作り、領民1人ずつに配ってくれたものだ。竹材の箸もセットにしている。箸に慣れていない人がほとんどだが、作りやすさと有能さという大きなメリットがあるので、普及を目指している。俺は食器の他に、鋳鉄で作った大き目の鍋を持っていく。久々に食べるものなので、少しテンションが上がっているのが自分でもわかる。いそいそと準備をして、下準備のために移動する。
・・・
「よしよし。いい具合だ。」
養鶏施設につくと、昨日のうちに下処理したモツを確認する。幸い気温が低く、臭みも出ていない。次に寸胴に作ってもらった、鶏ガラスープとコンソメスープも確認していく。鶏ガラは既に取り除いて、天日干しにしている。2~3週間かけてしっかり乾燥させた後に、砕いて肥料として畑に撒くつもりだ。
鶏ガラスープと比べ、コンソメスープはその作り方からして量は少な目になる。鶏ガラスープに大量の野菜を入れ、手間をかけて煮込む必要があるからだ。ただ、手間と材料をかけるだけの意味はやはりあり、コンソメスープは特に美味い。十分貴族にも満足してもらえるはずなので、完成したら領地では当面食べず、貴族用に販売できないか王都で相談するつもりだ。
「お待たせしました。」
料理の準備をしていると、エルバが昨日手伝ってくれた人に声をかけて、つれてきてくれた。集まったところで、早速料理を始める。といっても、鍋料理で調味料も少ないのシンプルなものだ。
「じゃあ、今から料理をしていくぞ。難しくないので、こっちも覚えてくれ。」
俺はそう声をかけてから、料理を始める。まずは鋳鉄の鍋をオーブンの上に置き、鶏ガラスープを入れる。スープが温まる間に野菜を切り、鍋に敷き詰め、その上に白物のモツを幅5cm程度にきったものを並べて行く。さらにモツを野菜で包むように、上にのせる。適度に塩を加えて煮ていくと、野菜から水分が出て来て、丁度よい塩梅になっていく。モツは脂の旨味が売りなので、あまり煮込まない。野菜に火が通るくらいの大体15~20分程度。このまま、少し煮込んでいく。
「煮込んでいる間に、もう1品。スープを作る。」
煮込みの間に、鶏ガラスープを使った簡単なものをもう一品追加する。別の鍋に鶏がらスープを入れ、適度に野菜を入れる。その間に卵を割り、かき混ぜて溶き卵にする。スープに塩を加え、味を調整した後に、溶き卵をかき混ぜながら、流し込んでいく。卵スープなのだが、鶏ガラスープをベースにするだけで、満足度の高い一品が出来上がる。
卵スープが作り終わったころに、丁度良くモツ鍋が完成する。モツは下処理をしっかりしたので、思った以上に臭みがなく、良い感じに仕上がった。最初は心配そうに見ていた人も、ほんのりと良い香りが漂い始め、表情が変わっていく。そこに隠し玉のパンを付けて完成だ。昨日焼いたので冷えてしまっているが、それでも美味いはずだ。
「よし。完成だ。」
俺はそういうと、自分の食器にもつ鍋と、卵スープを入れ、パンを取って食べる準備をする。
「皆も各自でよそって、食べて見てくれ。」
そう促しながら、まずは自分で食べてみる。
「・・・!」
思わず笑みがこぼれる。かなりの出来だ。モツの臭みも全くない。ぷりぷりした触感と野菜がマッチし、互いの旨味を引き出している。美味い。黙って頷きながら食べ続けていると、皆も恐る恐る食べ始めた。
「リコルド、すごくおいしいです。ちょっとびっくりしました。」
他が顔を見合わせる中で、真っ先にエルバが食べ始めてくれた。食べると少し間があった後、普段は中々見ない感じで目が丸くなっている。
「そうだろう。そうだろう。これを貰ってきてくれたエルバには、感謝しかない。」
「卵スープもパンと合いますね。」
素直に喜んでくれる姿は、周りにも伝染していく。1人、また1人と食器によそっていく。
「う、美味い! なんだこれ!」
「これがあれから? 信じられない!」
「モツだっけ? なんていうのか、プリッとした食感が良い!」
「ちょっと、美味しすぎない???」
「もつの旨味と、野菜の甘味が絶妙に調和しているんだ!」
続いて食べ始めた領民からも、好意的な感想が続く。
(そうだろう。昨日変な目で俺を見たことを恥じるがいい。しかし、それだけで終わらせるつもりはない。)
鍋の中身がどんどんと減っていくので、野菜やモツを切り、具を足していく。足しては減り、足しては減りを繰り返すと、やがて減るスピードが落ちて来た。皆、だいぶ満足そうな顔をし始めている。
「ふふふ。それではとどめと行くか。」
俺はそういうと、おもむろに隠しておいたうどんを鍋に投入する。お腹いっぱいになり始めた領民たちの絶望する顔が心地よい。領内ではうどんは既に人気の食材の一つとなっており、スープの旨味がからんだうどんが容易に想像できるはずだ。この状況でうどんを食べないと言う選択肢はない。
数分待ち、茹で上がったタイミングで、自分の食器に盛って食べる。
「うむ。最高だな!」
塩と鶏がらスープに、野菜とモツのうまみが加わった味わいが絶妙で、うどんのうまみをさらに引き出している。領民も耐え切れず食べ始めるが、苦しさとうまさが同時に襲い掛かっている様子が見て取れる。当面は領民の間で楽しむつもりだが、いずれは屋台などで販売しても良いだろう。
(リーダ達が故郷から帰ってきたら、連れてきた人たち一緒に振舞っても良いな。)
美味しいし、栄養もかなりあるので、喜んでもらえるはずだ。身も心も温まってもらうとしよう。ただ、スープやモツは、冷蔵庫がないので、もって精々2~3日。食べさせて体調を崩したら元も子もない。セルカに協力してもらい、最高のタイミングで出すとしよう。その後は領民に適度にくばりながら広め、領内の食糧事情を一層改善して行こう。




