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第161話 定期報告

「ということは、戦況は膠着しているということか。」


(そうです。いまだに帝国軍は砦から動こうとしていませんね。)


 セルカは『しるし』で作った監視網を使って、常に情報を仕入れている。集めた情報は膨大で、量なら情報機関並みだ。情報の内容がセルカの興味に偏るところはあるが、それでもかなり有益なものが多い。すべてを聞くわけにはいかないので、俺が頼んだ情報を中心に定期的に報告してもらっている。ちょっと緩いところはあるが、情報は正確で、こちらの意図も踏まえてくれる。


「共和国は塹壕を上手く使っているようだが、それでも限界があるだろうに。迂回するなりして王都に侵略できそうなものだが・・・」


(そうですね。共和国軍が採った塹壕作戦は、被害を抑えるという意味では有効に見えます。でもそれだけなので、迂回はできると思います。なぜかする気配すらないです。はっきりした事情は分からないのですが、ちょっと気になることはあります。)


「ほう。言ってみてくれ。」


(帝国軍の砦に搬入される物資や増援が少なくなっています。元々増援は少なかったのですが、物資は月に数回は来ていました。それなのに、ここ2カ月は、ほぼ帝国側から物資すら入ってきていません。)


 砦は帝国と共和国の間を流れる大河を渡った、共和国側に作られている。それまでは大河が帝国の進軍を阻んでいたが、その最大の難所を越え砦まで作ったのであれば、王都を攻めるか、農耕地帯を大規模に抑えても良いように思える。今が帝国軍にとって攻め時のように思えるが、何か事情があるのかもしれない。まあ、事情はどうあれ、曲がりなりにも共和国に所属している身としては、戦況が悪化しないというだけでも上等だろう。


「状況だけみれば、帝国の英雄は孤立しているように見えるな。砦の戦力はどれくらいか分かるか?」


(そうですね。全体はわかりませんけど、戦場に出て来るのは毎回1,000に満たないです。しかも、共和国軍の捕虜も動員していますよ。)


「確かか?」


(ええ、元々共和国軍の正規軍や傭兵部隊で見かけた人を、複数人確認しています。帝国軍の一部として組み込まれ、道具の運搬などの労働力として使われているだけで、前線にはでてきませんけれど。)


「そんな寡兵で、一方的に攻められるのだから恐ろしい話だな。」


(そうですね。共和国軍の半数でも戦力があったら、すぐに決着がつきそうですね。流石に砦の物資が物資が足りなくなってきているようで、砦周辺の共和国の領地から徴収しているようです。)


「ああ、王都でも酷い略奪が行われていると噂が広がっていたな。」


(その話ですが、ちょっと怪しい気がしています。)


「というと?」


(共和国民が物資を搬入しているのですが、あまり強制されている感じは受けないです。報酬を帝国軍から受け取っているようにも見えました。遠目なので確実ではないですけれど。)


「略奪は共和国側が流した嘘だと? 確かにその噂の影響で、王都の義勇兵がかなり増えたようだが。」


(砦の搬入口の様子だけで、領地の様子は見えないので、わかりませんけど・・・)


 帝国で何か問題があったのか、それとも初期に共和国軍の1部隊が北西に進んだことが影響しているのか、事情はどうあれ、俺としてはできる限り膠着状況が続いて欲しい。領地を得てから1年も経っておらず、今は領民の生活を安定させることを優先するしかない。そのためには経済偏重の取り組みが必要で、軍事に回す余裕は全くない。領土は王都から南に2km弱の場所にあるため、共和国からの庇護は受けられるはずと信じている。・・・共和国が大きく傾かなければ、最低限そこは期待したい。


 このまま戦況が膠着して、帝国が撤退してくれること最上だが、そこまで上手くいく可能性は低いだろう。兎に角、本来の目的である周辺の緑化する進めるためにも、領民の生活に余裕が出る状況まで早急に経済を発展させる必要がある。


 ただ、経済発展が順調に進めば、領地を狙ってくるやからはどうしても出て来るだろう。今は何度も農業や領地運営に失敗している南の不毛の土地という印象が根強く、全く注目されていないが、いつまで続くか保証はできない。実際、北にあるスラムから領地の近くまで来る奴も増えてきている。監視網で事前に察知できており、領内に侵入されたことはないが、更に増えるようなら限界が来る。危うい状況だが、今は経済偏重で行くしかない。


「王都の様子はどうだ?」


(そうですね。見られるところだけですが、大きな動きはないです。うちの商売が一番大きな動きですね。知っての通り、エルバが頑張っている屋台は連日売り切れですし、共同トイレの設置も10か所を越えています。そのお陰でまとめて回収できるので、シモンも安定して作業できていますね。人気もありますよシモン。オーブンは・・・まあ、これからですよね。)


「ああ、オーブンはこれからさ。少し期待が持てるようになってきたしな。」


(女将さん、ことあるごとに営業してくれていますよ。)


「今度お礼を持っていくとするよ。」


(王都では問題ないですが、領地への帰り道はもう少し気を付けた方が良いです。今はエルバ達とシモンたちが合流して、集団で帰っているので稀に絡まれる程度で済んでいますが、屋台の売上金額を知られるようになれば、集団で襲われるかもしれません。)


「ああ、その通りだな。屋台はどうして金を持つ必要があるからな。冒険者ギルドに金を預かってもらえないか交渉しているし、護衛の依頼も出した。来週からは大丈夫だろう。いざというときは教えて逃げるように言っているしな。」


(わかりました。襲われそうなときはわかると思いますから、すぐに伝えるようにしますね。)


(後、問題というわけではないですけど、やっぱりリコルドを調べている人がいます。以前からですが、定期的に探りが入っているようです。)


「目的が分からないのは不気味だな。実害がないから良いが。気になるな。まあ、分かったところで打てる手も無いかもしれない。」


 人を雇って俺の動向を探っている奴がいることは、以前から報告を受けている。ギルド長や商人のフッガーは、立場的に調べる可能性はあるが、2人には定期的に状況を報告しているので、あらためて探りを入れる必要性は薄いように思う。他の奴が調べる可能性については、正直思いつかない。


「領内やイーリスの里、村の様子はどうだ?」


(そうですね。お母さまはお元気ですよ。楽しそうに農作業をされていますし、以前よりずっと健康そうです。若いし美人ですから、言い寄ってくる男も何人かいますよ?)


「お、おぅ。そうか。幸せそうなら良いが。」


(まあ、再婚は今のところなさそうですけど。)


 セルカから、ちょっとからかっているような感情が伝わってきたが、無視する。


(ケイティは相変わらず弟を大事にしていますし、子供の面倒見も良いですね。でもちょっと寂しそうですよ。村と里は問題なさそうです。神父もミランダも年の割りに元気ですし。神父は鍛冶のやりすぎで心配ですけど、調子は良さそうですよ。ミランダも、もうあきらめたと言っていました。)


「ケイティには、いずれこっちに来てもらいたいものだがな。」


(・・・どういう意味かに寄ります。ほんと。)


(領内も概ね順調です。結構相談を受けていますけど、元王都民の皆さんは生活に慣れて楽しそうです。悩みの多くは、この前のリコルドの依頼ですが、悪い感じではないですね。)


「ああ、来年度何をしたいか希望を聞いている件だな。元王都民には組織の中核を担ってもらう必要があるから、これからも色々悩んでもらうつもりだ。」


(アシーナは言うまでもないですかね。元気です。冬の間に領民全員分の食器などを作るつもりですよ。フレッドも春になってからの作付けを検討していて楽しそうです。)


「ああ、村から来てもらった甲斐があった。非常に助かっている。アシーナには追加の屋台もお願いしたところだ。」


(スラムからの移住者は、少し気を付けた方が良さそうです。シモンが選んだので良い子が多いですけれど、お腹が常に満たされるようになったので、元気が余っている子がいます。やんちゃな子も多くて、喧嘩もしていますね。)


「組織の柱になるような大人を受け入れたいが、スラム出身の大人は怖いな。スラムで過ごしているから、心に傷を負っている大人も多いだろう。偏見もあるかもしれないが、あの環境でまともな大人が生きていけるとは思えない。大人だと嘘を見抜くのも難しい。これまで通り、シモンの年齢かそれ以下の人を、慎重に選んで少しずつ受け入れるしかないな。セルカの方でも良く話を聞いてやって欲しい。」


(わかりました。中々機会は少ないですけれど。)


「来年度までは経済偏重で進めるしかないと思う。リスクはあるが、もっと人を増やして収入を安定させないと、軍事に回すだけの余裕が全くない。リソースがさけないので、俺の方で冬の間に壁の強化だけはなんとかしておこうと思う。」


(そうですね。今の壁は酷いですからね。是非お願いします。里、村、そして領地まで発展させているのだから、凄いと思いますよ。里と村は緑化もかなり進んでいますしね。あまり無理しないようにしてくださいね。協力しますよ。)


「ああ、よろしく頼む。」


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