表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/179

第158話 戦略の見直し

「さて、どうしたものかな。」


 気合を入れた初顧客への対応は、見事なまでに失敗した。冷静を装っていたがショックは大きく、思考がループを続けていた。店の片づけと戸締りをし、拠点に戻った頃に、ようやく冷静に戻れたように思う。俺は拠点の目の前に作った人工池の前に座り、池を眺めながら新型オーブンの販売戦略を見直すことにした。


 思考をまとめていくためにも、気になる点を口に出していく。


「基本路線は、変えようがないな。」


 共和国では、木材が慢性的に不足しており、燃料としては価格が安定している石炭の利用が、更に進んでいくのは必然で避けようがない。前世でも似たような流れがあった。石炭利用による環境悪化が進み、人的被害だけでなく、酸性雨による森林減少も進むだろう。だから少しでも環境悪化を抑制する。それが俺の基本路線だ。


 環境悪化を抑制できる手段は、今のところ新型オーブンの普及以上の案がない。今の技術レベルであれば、汚染物質はそこまで広がっていないはず。一度、環境が悪化してしまえば、前世でも解決ができなかった。何としても普及させ、同時に森林拡大を図っていくことで、この世界の継続に向けた一歩となるはずだ。


「結局、調理器具でしかないのは事実だからな・・・」


 これが市場に全くない商品であれば、ここまで悩まない。しかし、新型オーブンは単なる調理道具、既に同様の機能を持つものがあり、それが市場シェアを占めており、いわゆる乗り換えコストが高い商品に分類される。乗り換えコストは、工事や契約など導入に時間がかかったり、費用が高かったり、不具合が起こるなどの心理的な負担があったりすることだ。人は当然それらを避ける。それを乗り越えるには、余程の理由や利点がなければ人は動かない。


「成功例は、某リンゴマークの会社が日本に仕掛けた戦略か。」


 乗り換えコストの改善は、背景に技術革新が必要なため、そのコストを改善して急激に普及させられた事例はほとんどない。だからこそ発想を変え、そのコストを意識させない戦略が必要であり、比較的短期間で普及させた事例もある。


 初期段階に、一定の割合でいる新しい物好きに、特別感を演出した商品を提供し、少しずつ市場に浸透させていく。購入した人が特別感を味わえるデザインであったり、機能であったり、憧れにつながるようなものを実装し、あえて高い価格を設定。マスコミを使い特別感を煽る。


 購入者が知り合いに良さを伝えることで、購入者が増えて市場を変えていく。市場が変われば、購入者が特別感を広げ続けるため、長期間市場を確保することができる。下手な宗教に近い状況になり、たとえ最初に用意できた特別感が薄れても続いていく。大成功を納めたのは日本市場だけであったが、今もなお優位性は変わらない。


「今は無理だな。」


 その戦略を成功させるには、特別感に対する説得力、一目でほとんどの人が憧れるようなデザイン、その背景のストーリなどが必要となる。それが出来たうえで、マスコミのような情報発信も必要になる。情報発信方法が限られている現状では、どうしても中長期の戦略となるし、当然この販売戦略は狙ってやるには難易度が高い。前提として強烈なカリスマを持った人材や、確固たる設計思想があって初めて成り立つ。

 

 ジョ〇スのようなカリスマを持った人材が、小型化に徹底的にこだわり、ようやく完成した試作品を水槽に入れて空気が出るのを技術者見せて、まだ小型化できるはずだと言った都市伝説がまことしやかに新商品販売と同時期に流れ、そこまでこだわりのある製品だからという特別感も一因になり、市場に一気に浸透していった例はある。


(この有名な逸話は実は別の会社、ソ〇―の話だったという落ちもあるらしいが。)


「価格を考えれば、ターゲットはやはり貴族だが・・・」


 新型オーブンの課題は、売りにくさと価格。特に価格は、一般人が購入できるような額には収まらない。数人の貴族に売り、その貴族を広告塔として、他の貴族に販売広げる戦略だったが、初顧客の反応を見る限り、他の貴族の検討の俎上に載せるのは難しい。


 その数人を知り合い、例えばギルド長や炭鉱の村の親方であれば、個人的な好意から導入してくれる可能性は十分にある。彼らの立場を考えれば広告塔になってもらうのは難しいし、できたとしても爆発的な広がりは期待できないだろう。


「貴族の義務として、訴求してもらえるわけもないしな。」


 貴族は、国や領地の利益になるものになら投資することはあるだろう。しかし、そういった利益になるものは、ギルドで管理されている。石材で作られる調理器具は石工ギルドの商品であり、その競合となり得る新型オーブンに積極的な投資をするわけがなかった。しかも、認識すらされていない環境悪化の抑制と言ったところで、理解されるわけもない。下手すれば変人扱いさるのがオチだ。


「結局、人材も思想も情報を広げる方法何も、なにもかもが足りていない。」


 色々と思考を巡らせてみたが、やはり貴族に販売するのは現実的ではないのだろう。遠回りにはなったがようやくターゲットを変える覚悟がついた。


・・・


「やはりゼロから考え直した方がよさそうだな。」


 そもそも商品を短期的に広げることが命題であれば、貴族はターゲットとしても相応しくないのだろう。潜在的な市場規模を考えれば、貴族より一般市民をターゲットにすべきで、そのためには大きな戦略変更が必要になる。高価なものを少量売る戦略から、格安の商品を大量に提供する戦略に切り替えるしかない。真逆の戦略だが、本来の目的を考えればこちらの方がしっくりくる。


「販売戦略を大きく変えるなら、ビジネスモデルも見直す必要があるな。」


 真逆の戦略の方がしっくり来るのだが、問題は実現性と継続性だろう。格安で大量に商品を提供するとなれば、何日も工事して作るような新型オーブンは不向きだ。商品自体から練り直す必要があり、本来であればここで頓挫するのだが、以前戦略を考えた時と状況が変わっている。屋台に載せる必要性に迫られ、短期間で開発した小型オーブン。これであれば状況を変えられる可能性がある。


 小型オーブンは、鋳鉄を材料に型に流し込み、固めた後に仕上げをするだけで製造できる。鋳鉄は鋼と違い、加工がしやすいのも良い。鋳鉄自体の生産は領地内でできているので、課題はあるが量産が可能だ。さらに既存の料理器具がある場所にこのオーブンを入れ、見た目を繕うだけの工事であれば作業工数も削減できる。故障してもオーブンを交換すれば良いので対処も楽になる。


「思いつきに近いアイデアだが、意外にいけるか?」


 鋳鉄であれば、鋼とは違い生産コストもかなり下げられる。それでもビジネスとして成り立たせるには、それなりの金額で購入してもらう必要があるのだが、それでは格安で大量に提供しようとする戦略に合わない。ただ、こういったケースは前世でも良くある話だ。


 ビジネスを成り立たせるために8種の収益モデルという考え方があり、その中に今回のようなケースに合うモデルもある。今回はそのモデルの1つ、「消耗品モデル」を選択すべきだろう。商品を売って儲けるのではなく、その商品を使い続けるための消耗品やメンテナンス等を追加購入し続けてもらうことで利益を確保するモデルだ。前世で言えば、スマホやインクジェットプリンタなどのビジネスで使われている。


 今回の場合は、小型オーブンが使い続けてもらいたい商品で、石炭や煙突のメンテナンスが消耗品にあたる。2年契約など、利益が確保できる期間まで消耗品をうちから購入し続ける契約を結び、途中解約の際には違約金などを設定することでビジネスを成り立たせる。


「売れるかどうかは、購入者側にお得だと思わせるメリットが出せるかだが・・・」


 領地では定期的な製鉄のために、石炭を大量購入して仕入れ値を下げている。石炭の販売価格を市場価格より多少下げても利益が出る。しかも新型オーブンは、前世のロンドンで発明されたラムフォードかまどを再現し、熱効率が従来の4倍で必要な石炭の量がそれに応じて削減できる。小型オーブンは、屋台で使っている状況を聞く限り、それ以上の熱効率で、使い方にもよるが5~10倍近いだろうと想定している。


 であれば小型オーブンの値段は格安に設定し、顧客からは毎月今掛かっている石炭の相当の代金をもらうだけでも儲けが出る可能性がある。料金設定の精査が必要だが、顧客は毎月今掛かっている石炭代を払うだけで新型オーブンが使え、しかも料理がおいしくなる。これなら新型オーブン導入に踏み切る人も少なくないだろう。料理のおいしさを実感すれば、自然と広まっていくことも期待できる。


「新型の小型オーブンを普及させる戦略であれば、大筋行けそうな気がする。」


 当面は人材不足のため、細々と販売を広げていくしかないが、この戦略であれば勝ち目がある。小型オーブンを鋳造してもらうための人材や、メンテナンスや営業をしてもらうための人材の確保、育成に向けた準備に力を入れていく必要があるし、フッガーへの説明なども必要で、まだまだ課題は多い。それでも販売戦略を変更した方が勝ち目はある気がしてきた。


「・・・だが、ここで突っ走ったら二の舞になりかねないな。反省は活かさないとな。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ