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第157話 初顧客

「全く持って時間の無駄だったな。これだから嫌だったのだ領主もどきと話すのは・・・ まあ、お前の新型オーブンとやらは使ってやる。フッガーに感謝するのだな。後はうちの執事と相談すればよかろう。」


 新型オーブンの記念すべき最初の顧客からの反応は散々だった。かろうじて導入は決まったものの戦略的には完敗と言うしかない。


・・・


 やっとのことで新型オーブン体験施設を開店し、フッガーに貴族を紹介してもらった。ここまでは良かったと思う。ただ、紹介してもらった貴族は期待していた家族連れではなく、本人と使用人が数名での来訪。期待通りではないが、予想の範囲でもあった。


 早速、接客を開始し、場を和ませようといくつか用意していた話題を振ってみたのだが、相手は乗ってこない。急いでいる様子だった。


「フッガーの顔を立てて来てやったが私は忙しい。新型オーブンとやらをさっさと説明しろ。いや、食事をこんなところでする気はしない。説明だけでよい。」


 俺が想像していた貴族とは異なる反応だったが、これが関係性のない一般人への普通の対応なのかもしれない。新しいものを売るには、体験してもらう必要がある。ここでは料理の美味さを味わってもらうことで驚きを与え、距離を詰めるという戦略なのだが、その流れに持って行けずにバッサリ断られた。


「この新型オーブンは、料理に嫌な臭いがつかないので格段に美味しくなるうえ、熱効率が4倍に・・・」


 気を取り直して、新型オーブンの利点を端的に説明し始めたのだが、否定的な相手には些細な効果に感じるのだろう、相手がろくに聞いていないのが伝わってくる。用意してきたいくつもの切り口が、ことごとく通用しない。


「そんな細かいことはどうでも良い。私は料理長でも執事でもないのだぞ? 料理を美味しくするのは私の仕事ではない。料理が不味ければ料理人を変えるか、頼む店を変えさせればよかろう? 効率?それこそどうでも良い話だ。私がこれを買うとどんな利点があるのだ? 端的に申せ。」

 

 いくつか用意していたアピールポイントを披露するが、ことごとく相手に刺さらない。何とか話題をつなぎ30分程度経過したころ。


「・・・ふん。もう十分付き合ってやっただろう。無駄な時間だったな。フッガーも衰えたものだな。」


 最初の顧客はそう言うと捨て台詞を残して去っていった。


「ありがとうございました。また、ご縁があれば是非。」


 俺は去り際にそういうのが精一杯だった。


 なんとか執事と話を続け、貴族が王都とから自分の領地に戻る春になったら、王都の貴族街の別荘に新型オーブンを納品することにはなった。新型オーブンの記念すべき1台目の販売は決まったものの、実質的には完全に失敗。


「ふぅ・・・ くそっ。何が悪かったのか。」


 初顧客とその使用人が去った後、椅子に座りため息をつきながら、しばらくの間失敗の要因について考えていた。


(リコルドが失敗するのは珍しいですね。大丈夫ですか?)


 落ち込んでいる様子を見かねたのだろう。セルカが声をかけてくれた。


「ああ、完全に失敗したよ。環境悪化を防ぎたいという想いだけで突っ走ってしまった。今にして思えば、フッガーから何度もこの事態を心配する助言を受けていたのにな。」


 転生して以来、あまり失敗らしい失敗をしてこなかったので増長していたのかもしれない。


(料理は皆さんに好評ですし、たまたま相手が悪かったとも考えられますよね。まだ失敗という程ではないですよね?)


「確かにそれもあるかもしれない。だが、恐らくこのままでは駄目だろう・・・。今思えば商品の売り方だけ考えて、売る相手のことをあまり考えていなかった。これが根幹だろうな。典型的な失敗だな。」


(そうですか・・・)


 セルカはこちらが冷静になれるように、聞き手に回ってくれているようだ。頭を整理するためにも、話を続けることにする。


「そもそも貴族相手に、オーブンを売ろうという発想が間違っていた。」


(そこからですか。)


「ああ、価格帯が高くなりそうだから貴族向けは安易過ぎたな。反応を見て気が付いたが、貴族が高々料理道具の1つに気をかけるはずがない。自身が料理をするような変わり者が、いるわけがなかった。これが食器であれば、まだ可能性はあったかもしれない。食事会などに持参して、希少性を自慢する機会もあるからな。オーブンにはそんな機会はない。しかも既に同じ機能を持ったものが自分の家にある。」


(確かにそうですね。料理人か執事に売り込みますか?)


「いや、それも難しいだろう。料理人や執事に新型オーブンの良さを分かってもらっても、彼らが貴族に買わせる流れがあるとは思えない。」


(ですが新型オーブンを料理が格段に美味しくなりますよね? 燃料が少なくて済むのも執事なら評価しそうですよ。)


「ああ、そこは間違いない。燃料費は今の4分の1で済むし、臭いを誤魔化す必要がないから、無駄に濃い味付けも必要ない。シンプルな料理が美味しくなる。分かってもらいにくいが、健康面でも良い影響がある。」


(それでしたら、入れてもらえるところはありそうですけどね。)


「まあそうだな。俺もそう考えていた。確かにあるだろうが多くはないし、かなり珍しいケースになる。運よく影響力のある貴族が気に入ってくれて、他の貴族にも勧めてくれるようなことがあれば、今のやり方でもあるいはとも思うが、賭けの要素が多き過ぎる。」


(そうですか・・・)


「それでも料理を食べて貰えればと思うが、俺には信用がないことが良く分かった。このままでは、料理に口を付けてもらうのさえ難しい。」


(この体験施設で、貴族を動かすのは難しいですね・・・)


「今の戦略で貴族は動かせない。料理人や執事を狙っても、貴族を動かせる可能性は薄い。1台売れたのは完全にフッガーのコネだ。彼にも申し訳ないことをしたな。」


(そこまでわかったなら、後は立て直すだけですね。)


 セルカがあえて前向きに言ってくれていることが伝わってくる。


「・・・そうだな。このままでは次は無いのは分かった。今日の経験を最大限に活かして、立て直すしかないな。色々と考えて見る。ありがとう。」


 少し気持ちを落ち着かせてから、セルカに素直に感謝を伝える。


(・・・いえいえ。屋台は上手く行っていますし、こちらは時間をかけてでも新型オーブンを普及させる策を練りましょう。私もできる限り協力しますよ。)


「ああ、そうだな。戦略を0から検討してみる。きっといい案も出て来るだろう。付き合ってもらうぞ。」


(はーい。いつでも大丈夫ですよ。)


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