第154話 屋台の料理
「うぅ。使ったことがない食材ばかりで、何を作ったらいいかさっぱりです。」
エルバはそう呟きながらも、必死に屋台で出す料理のことを考えてくれている。その様子を見ながらも、俺は他のことを考えていた。
市場で取り扱っていた食材はあらかた集めてきた。領地で栽培できそうなものはフレッドに既に託してある。一通りの注意事項やアドバイスも伝えておいたので、村での農業担当の実績を考えればうまくやってくれるはずだ。フレッドは自分なりにメモを作っており、アドバイスや考察結果などをまとめて活かしている。村での教育の成果だろう。
栽培に加え、卵のふ化にも取り組みたい。ふ化が成功すれば、養鶏事業の可能性も開けて来る。養鶏であれば、収穫が安定しているソルガムが飼料としても使えるし、肥料として鶏糞の入手も容易になる。鶏糞は、特に実をつける作物に効果があるし、有機肥料でありながら、化学肥料のように即効性が高い。領内の土壌改良や発展を早めることができるだろう。是非チャレンジしたい。
(今のうちに、ふ化器も用意しておきたいな。単純なもので良いか。)
ふ化は手間がかかる作業になるので、それらを楽にするための道具、いわゆるがふ化器があった方が良い。細工担当のアシーナにお願いしたいが、彼女は今、屋台づくりで忙しい。ふ化の成功率は卵の鮮度も影響するので、自作することにする。
ふ化器に必要な機能は大きく2つ、温度を保つことと、定期的に卵を動かす、いわゆる転卵をさせること。温度は保温性の高い箱と温度を上げる仕組みがあればよいが、転卵には工夫がいる。竹材で卵を縦に並べられるような仕切りを作り、それを左右に動かせるようにすれば転卵させることは可能だろう。
ただ、ふ化をさせるには最低1日4回、できれば1時間に1回転卵させることが望ましい。24h付き合うわけにもいかないので、部屋に引いている水で小さな竹製の水車を回し、それを動力に自動的に転卵させ仕組みもつけた方が良いだろう。
ふ化する可能性がある卵の鮮度は1週間程度、当然産みたての方がより良い。店員と交渉して、極力産みたてのものを買い付けてきたので、今日中にふ化器を作れば十分期待は持てる。うまくいけば、20日程度でひよこが産まれてくるはずだ。
・・・
「ちょっと、リコルド聞いてます?」
目線ではエルバを見ていたが、ほとんど意識が飛んだような状態になっていたようだ。考え事をしていたら、エルバにツンツンされていた。
「ああ、すまないな。」
気を取り直して、俺はエルバと屋台で販売する料理についての話を再開した。
屋台の商品は必ずしも食べ物である必要はないが、共和国は全体的にあまり食べ物が美味しくないし、バリエーションも少ないように感じる。貴族でもない限り生活に余裕はなく、王都の住人をターゲットと考えれば、やはり食べ物が良さそうだ。お面や遊び道具が、多く売れるとは思えない。最初の商品は食べ物一択だろう。
しかも、食材の高騰状況を考えれば、今後のターゲットである王都住民は、食費の高騰に悩まされることになる。食事を減らす家庭もあるかもしれない。そうなれば、そういった家庭では栄養不足になることは想像に難くない。それは、病気がはびこる一因になるかもしれない。
(目的は金儲けだが、栄養面の向上につなげることも狙いたいな。)
目的の金儲けという視点では、前世の屋台は参考にできる。人気を博していたものは、焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、串焼き、りんご飴、イカ焼き、キュウリの一本漬け、りんご飴、アンズ飴、わたあめ等々。どれも調理が比較的楽で、原価率は低い。
原価率は大抵1割以下、わたあめに至っては2%程度、高くても3割以下だ。金儲けが目的とは言え、買ってくれた人を満足させて、かつ、栄養面の向上もねらうので仮置きで原価率は3割弱くらいと考えておく。
(うーん。結構厳しい原価だな。)
売値は手軽に買える価格と考えると、精々銅貨5枚(500円程度)、高くても10枚は越えないくらいとしたいところだ。銅貨5枚で売るなら、原材料費は銅貨1枚と銭貨50枚が上限となる。しかし、食材が高騰しすぎていて、卵1個使うだけで原材料の半分を消費してしまう状況だ。
野菜も高騰しているが、特に肉類はひどく、一般の住民が食べられる食品ではなくなりつつある。市場に行く前は、鳥肉のかけらに塩を振り、竹炭で焼いたシンプルな焼き鳥を提供することを第一候補と考えていたが、完全に当てが外れた状態だ。
肉類を使うならかなり量を減らすか、領内で育てて単価を下げるか、肉を取り扱っている生産者などからモツなどの捨てる部分を格安で調達できるような伝手でもない限りは難しい。市場の食材は全般的に高騰しているので、価格を抑えるためにソルガムなど既に領内で量産できる食材を主体に、市場で継続して調達できるものを合わせて使うというところが落としどころだ。
「・・・リコルド、聞いてます? ねぇったら。」
今度はツンツンに、加えてジト目で見られていたようだ。
「あ、いや・・・すまん。市場の食材の高騰について考えていた。価格を抑えるためにうちで採れるソルガムの利用も考えたいな。」
今回は俺も屋台の料理について真剣に考えていたのだが、また、エルバを置き去りにしていた。その場を取り繕うように提案する。
「そうですね。ソルガム以外の味も知りたいので、まずは、市場で買ってきたものも少しずつ一通り食べてみませんか?」
エルバも察するものがあったのか表情を戻し、建設的な提案をしてくれた。それに乗っかり、調達した食材を少しずつ、焼く、煮る、揚げるなどをしながら味わった後、更に検討を進めていった。
・・・
「うーむ。どう考えても食材が高すぎるな。銅貨5枚くらいの値段設定にしたいが高すぎる。食材に銅貨2枚かかったら商売にならない。肉は使えて鶏肉、それもごく少量だな。」
「そうですね。王都の1食の料金はあがっていますから、売値はもう少し高くても良いかもしれませんけど・・・。」
二人で必死に、唸りながら考えていたが思考がループし始めた。
「とりあえず、ここにある食材で俺が知っている料理を作っていくから、食べながら考えよう。手伝ってくれ。」
そう言って、とりあえず調達した食材などを使ってできるものを作ってみることにする。
「そうですね。前に作ってくれたうどんやスープ、最近は蒸しパン、どれもとても美味しいので、今回も期待していますねっ。」
エルバは基本的に真面目で控えめだが、大分打ち解けてきたのか、時々気安い様子も見せるようになっており、微笑ましい。
最初はシンプルに串焼きだ。大本命だった、肉があまり使えないので、野菜を多めに出すしかない。とりあえず味を見るために、串焼きに出来そうな食材を一通り試していく。先ほどの試食とは違い、竹炭から少し距離を置き、時間をかけて味を引き出すように焼いていく。
トウモロコシ、カブ、ニンジン、玉ねぎ、そら豆、一応肉類も焼いていく。調味料は種類が少ないうえにどれも高いので、里から持ってきた塩のみ。
「ただいまー。なにか美味しそうな香りがする!」
お手製の鉄串に食材を刺し、竹炭で焼いているとシモンが仕事を終えて帰ってきた。手招きして試食に誘う。
(うーん? 今一つだな。)
出来上がったものを食べてみたが、肉は正直美味くない。長期保存の処理がされており、塩辛く水分も少ない。そのまま焼いたのも失敗の要因だ。唯一、鳥だけは未処理だったので、抜群に美味しい。
「ちなみにどれが美味かった?」
「そうだなぁ。どれも美味しかったけど俺はやっぱり鶏肉、トウモロコシかな。」
「私もどれも美味しかったです。玉ねぎとニンジンは甘みが出ていてびっくりしました。」
俺には食えたものではなかった肉も、二人は普通に食べていた。二人の評価は優し目に感じるが、俺の評価が厳しいだけなのかもしれない。
「肉体労働している人には、比較的手ごろな鶏肉が良さそうだがそれでも高いからな。かといって野菜だけというわけにもいかないか。銅貨7枚で、肉は少な目で3串、やや多めで2串ならいけるかもしれないな。よし、次。」
「いやいや、リコルド、肉なんてお祝いとかじゃないと食べないよ。・・・まあ、いいけど。」
シモンが何か言っていたが、調理の音が邪魔をした。
今度は天ぷらを出して見る。ソルガムの粉に水と卵黄を混ぜて衣を作り、食材にからめてからごま油で揚げた野菜の天ぷらを出す。小麦粉は高くて使えないので、ソルガムを代用してみたのがポイントだ。少しクセがあるが、胡麻の風味が強く気にならない。
「あつっ。ほふほふ。うん。これも美味い。初めての触感だね。」
「ほいひいです。・・・おいしいです。野菜が甘く感じます。これならいくらでも食べてしまいそう。好きです。」
確かに美味いし、塩だけでも十分なのだが、具の種類が少ない。肉を使わずに材料費を下げた一方で、ごま油が高いのでこちらもあまり量はだせない。
「中々好評で嬉しいが、ごま油が高いから数が出せない。あと調理するための炭の量が、かなり必要なのが厳しいところだな。」
炭火、しかも竹炭で火力を維持するのは、思ったより難しかった。新型オーブンで作る料理として方が、しっくりくるかもしれない。
原価を抑えるなら、安定して収穫できているソルガムを主な食材としたものが良さそうだ。ニンジン、玉ねぎ、キャベツを千切り、ソルガム粉を入れて水を足してかき混ぜる。フライパンの上にごま油を引き、そのうえで丸い形で焼いていく。お好み焼き・・・いや、むしろチジミのようなものが完成した。切り分けて試食する。
「これは食べ応えあるね! うん。美味い!」
「これも野菜の甘味が出て良いですね。」
チジミのようなものになったので、甘酸っぱい醤油とお酢、砂糖で作ったタレで食べて見たかったが、調味料が塩しかないのが悔やまれる。だが、これも満足できるレベルに仕上がった。
ソルガム中心なら、パンケーキやパンを作りたいが、ふっくら仕上げるためのベーキングパウダーや酵母がない。アンズが手に入ったので、天然酵母が用意できるが、どうしても1週間くらいは必要になる。すぐには作れないので、今後の楽しみとしておく。
ソルガムの粉、卵、羊の乳で作ったクッキーも作ってみる。
「これは食べやすく良いな。携帯食にも良いかも。」
「そうですね。何か乗せても良いかもです。アンズやデーツなんかどうですか?」
砂糖もバターもないので、あっさりしたクッキーもどきだが、そこそこ食べられるものになった。確かに、これにドライフルーツでも乗せれば良いかもしれない。
他にもいくつか試作してみたが、個人的にはソースや醤油などの調味料の偉大さとそれらの足りなさを実感する結果になった。シモンとエルバにはどれも好評だったため、試食の結果をもとに、エルバともう少し詰めてから、屋台の商品を確定していくこととした。今後の戦略なども整理して決めていこう。




