第12話 水路内探索
(やれやれだ。)
木箱に入れられ、地下水に流され絶望。思いの外、順調に進み、天井から射しこむ光に、もしかしたら生き残って新天地へ行けるかもしれない。そう微かな希望を抱いた瞬間に、また、道が突然閉ざされてしまった。
水の流れは、突然の崩落でできた壁でせき止められている。まだ緩やかに流れているものの、先に行く道は完全に閉ざされている。
(運が良いのか悪いのか・・・)
崩落に巻き込まれることが最悪とすれば、巻き込まれなかったのは運が良いと思う。しかし、もう少し後に崩落が起こっていれば、このまま水の流れに乗っていられたと考えれば、運は良くない。
まあ、巻き込まれたら即死だったことを考えれば、少しは運が良かったのだろう。俺は、速度が落ちたが水の流れで、少しずつ進み、壁にぶつかった。
(とりあえず、待避しないとな。)
せき止められた箇所から、徐々に水が広がり、池を形成し始めている。崩落のショックで思考が止まっていたが、いつまでも惚けているわけにもいかない。
周りを見渡して、足場になりそうな場所を見つけ、そこに向かって、壊れた箱から取った板を櫂にして水をかきながら進む。勢いを止めずに箱ごと地面乗り上げ、そのまま箱から地面に降りる。
(近くに、出口らしきものはなさそうだ。)
少し前まで期待していた未来と、現状のギャップに、また、思考が止まりそうになる。俺は頭を振り、余計な考えを振り払って、周りの状況を1つずつ確認していく。
まだ水位はあがりそうだ。木箱には、重要な物資やナイフを入れてあり、絶対に失うわけにはいかない。このままでも、流されることはなさそうだが、念のため、水位があがっても問題ないところまで、箱を引き上げた。
箱の安全を十分に確保してから、脱出経路を探し始める。
(抜け道があると良いのだが。)
周りの状況を確かめるため、徒歩で行ける範囲を探索する。念のためナイフを持ち、壁伝いに探索していく。
・・・
近くに抜け道になりそうな場所はない。壁は、一部に柔らかいところはあったものの、基本は岩や岩盤でできていた。ピッケルなどの道具でもない限り、穴を掘るのは難しい。壁を掘り進んで、抜け道を作るというのは現実的ではなさそうだ。
近くの探索を止め、しばらく水の流れの横を、流れに逆らうように上流に向かって進んで探索範囲を広げていった。
100m程度進むと、水の流れに並走していた足場がなくなり、水に遮られてそれ以上進めなくなった。
最後に分岐した場所に戻れれば、選ばなかった方から、先に進める可能性はある。そのため、できる限り上流に戻ってみたのだが、ここから分岐までは、まだかなりの距離がある。
水の流れに逆らいながら、木箱などの荷物を持って、分岐で別の道に行けるとは到底思えない。かといって、折角持ってきた荷物を放棄して、分岐に戻ったとしても、荷物が無ければ、その先、生き残る可能性は皆無だろう。試してみる気にもならない。
(まずい。閉じ込められたかもしれない。)
上流にも抜け道がないことが分かったので、これ以上進むのを諦めて、崩落場所に戻ることにした。閉じ込められた可能性も高くなってきたため、この辺りにしばらく留まることも視野にいれて、戻りながら落ち着けそうな場所に目星をつけていく。
空洞は比較的広く、幸いなことに休めそうな大小の平地もある。ただ地面の部分は、基本的に岩が多く、柔らかいところは一部のようだ。
崩落場所に戻るころには、天井からの明かりが確保でき、比較的大き目の平地を見つけることができた。とりあえず比較的条件の良いその平地を、ベースキャンプとして落ち着くこととする。
(なるようにしか、ならないよな。)
こういう場合に、焦ったり、パニックを起こしたりして良いことは何もない。今は、これまで、前世も含めて培ってきた忍耐力を発揮するときだろう。
深呼吸をして、心を落ち着けた後、先ほどまでの探索結果を思い起こす。
下流は崩落してできた壁があり、軽く調べた程度だが、下から抜けられるようなこともない。周辺にも脱出できるような場所はなく、壁は硬く新たな通路を作ることも難しい。上流は水に遮られている。そこまでの間に、横道もないし、壁に穴が掘れそうな場所はない。そして、天井も高すぎる・・・
(うーん。閉じ込められたな。)
整理するまでもなく、閉じ込められたという結論に行きつく。また、崩落が起こって道が開けるか、今は思いつかないが、ここから抜け出せるような方法が見つからない限り、ここで生き抜く必要が出てきた。
村から調達して持ってきた保存食は数日分。水は確保できるし、保存食の消費を一日一食に制限して、節制していけば10日程度は問題なく耐えられる。村での食糧事情を考えれば、それ以上耐えられるかもしれない。
(まずは、食糧の追加確保か・・・)
10日以上あったとしても、抜け出せる当てがない。生き残るために、追加の食糧を確保できないか探索してみるしかない。幸い、天井から光が差し込んでいるので、周りも良く見える。時間をかけて丁寧に調べれば、なにか見つかるかもしれない。
村から持ち出した、作物の種や竹もあるので、農業にチャレンジするのも一興だが、いくら植物の成長速度が早いとはいえ、このままでは、収穫できるまでは、とてももちそうにない。
「ふ~~~」
少し長めに息を吐く。まだあきらめる気はないが、正直絶望的な状況だ。
(そろそろ良いことがあっても、罰はあたらないと思うがなぁ。)
転生の発端、転生後の環境、村での扱いと、何も良いことがない。ステータスに幸運値があるのであれば、相当低い値なのか、でなければ呪われているとしか思えない。
気が付けば、徐々に日が傾きはじめ、天井から差し込む光が少なくなってきている。再び完全に暗闇に包まれる前に、食事と野宿の準備が必要だ。
軽く保存食を食べつつ、野宿の準備をしていく。
水から十分離れた壁沿いの、比較的平らな岩の上に、箱から持ってきた布や羊毛で寝床を作る。俺の体は小さいし、途中、追加で回収できたものもあるので、豪華な寝床を作る。羊毛を多めに取り出し、ほぐしてフカフカの寝床にする。
(せめて良い夢を見たいものだ。)
村にいた時より豪華な寝床が出来上がった。少し気合を入れ過ぎたのか、寝床を作り上げたと同時に、周りが闇に包まれていく。そのまま横になり、穴から空を見る。
(蛇と虫とかいないよな・・・)
先ほどまでの探索では、俺以外に動くものの気配は一切なかった。それでも暗闇の中では何も見えないので、少し不安になる。毒蛇にでも噛まれたら、もう打つ手がない。
どんどん周り暗くなり、天井から星が見えるころには、不安を上回る睡魔に襲われた。ほとんど木箱の中に居て、流されているだけの1日だったが、それでも疲れていたのかもしれない。




