表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/179

第119話 大森林遠征の抑止

 ギルド長との会合は、結局木材の入手方法は明示せず、後2回の納品と1か月以内に追加納品を提案する約束をして終わった。


(さてと、なんとかしないとな。)


 ギルド長ほどの地位にある人が動くような案件となれば、確実に成果が求められるはずで、目標としている木材を調達できる見込みがなければ、大森林への遠征の現実味が増す。実際、遠征は過去に実施されており、大型獣により大きな被害が出たため、これまで実施が控えられていたようだ。


 遠征以外に、例えば北西にあるという商業国からの調達は、検討されていてしかるべきだが、実施されていないことを考えると、必要となる金額が相当高価なのだろう。人的被害が出るよりましではないかと思うが、人の価値が低い共和国では、遠征がより現実的な選択肢になり得るのかもしれない。


 それはさておき、木材の追加納品を提案すると言ってしまった手前、本気で考えなければならない。ギルド長は俺の提案をそこまで期待していないかもしれないが、できる限りましな提案をして遠征を未然に防ぎたい。遠征が実施されれば共和国、エルフ族ともに少なくない遺恨が増えるはずだ。


(遠征を実施しなくて済むだけの、木材の量か・・・)


 ギルド長に受け入れられる提案をするためには、必要となる木材の量などの条件面を想定しておかなければならないが、得られている情報は少ない。利用目的や必要量も確認したのだが、結局教えてもらえず、示されたのは冒険者ギルドに掲示されている依頼の条件と同様の直径10cm以上の木材を、できるだけ多く欲しているということだけだ。


 長さの指定はなく太さだけ指定されたことから、建築材などではなく燃料として利用できる木材、そして急激に需要が増したことは先日の敗戦に無関係ではないのだろう。軍事関係で燃料として木材の利用と考えると、選択肢はあまりなく、有力な1つは製鉄を行い、武器や防具を強化することだ。


(製鉄のために必要な木材の量か。)


 製鉄に必要な木材の量は、製法や品質によって極端に変わってくる。例えば、『たたら製鉄』などの比較的単純な製法で鋼をつくるなら、鋼10kgを作るのに2tもの木材が必要になる。既に『高炉製法』が開発されていれば、今回の納品した木材の量でも1~2tの銑鉄が精製できるが、恐らく銑鉄を鋼にできるほどの技術力はない。


 そうなると、共和国での製鉄は『たたら製鉄』か、それと似たような方法が採用されているはずで、今回納品した木材2t程度では10kg程度の鋼を作って終わりだろう。後2回納品したところで、せいぜい30kgの鋼になる程度だ。


(当然ながら、必要な木材の量は、必要とされる鋼の量に比例するだろう。)


 共和国が必要としている鋼の量はわからないのだが、以前ギルド見学に行ったときに聞いた情報から、加工できる量の推測はできる。


 鉄工ギルドの見学で、鍛冶職人は王都に50名弱所属していると言っていた。製法にもよるが、鋼から剣1本作るのに最低でも3日程度はかかる。今から冬の間の3か月で、職人1人が製造できる剣の本数は、休みなしで30本。職人を50人として、全員に作らせたとして剣1,500本が上限だろう。


 ざっくりとだが剣1本に必要な鋼を1.5kgとすると、今回シャリテから調達した木1本で精製できる鋼30kgで剣20本。職人が作成できる上限を考えると、必要な木材の量は、今回程度の木で75本になる。あくまで推測だが、遠征を抑制するには75本の木を確保する必要がありそうだ。


(うーむ。大森林の大きさを考えれば、現実味はあるが難しそうだな。)


 ちなみに今回の納品1回で俺に支払われた銀貨は600枚。少なくとも後2回は納品できるので、合計3回納品で銀貨1,800枚程度の収入になるはずだ。金貨18枚分で、それが75本として単純計算で金貨1,350枚(13.5億円)相当になる。


 共和国が春先に、また帝国軍に戦争を仕掛けるなら、この金額の数倍、十数倍の戦費が投じられるのだろう。恐ろしい金額だ。そうはいっても、このまま帝国軍を放置し、英雄フォボスが作った砦を基盤に、帝国に穀倉地帯を抑えられたら、共和国自体が立ち行かなくなる可能性もある。金に糸目をつけている場合ではないのだろう。


 皮算用はこれくらいにしておいて、とりあえず目標を木75本程度の確保とする。木材調達の手段はこれまでの延長しかない。まずはエルフのシャリテに相談してみるべきだろう。


 シャリテにしてみても、遠征が行われれば、流石に簡単には撃退できるとは思っていないだろうし、大森林が戦場になるのは避けたいという思いもあるだろう。そう思いながら、シャリテのもとに向かった。


・・・


 もう通いなれた道を通って大森林に到着すると、いつも通りシャリテに会うことができた。俺はシャリテに、ギルド長に呼び出された際の話を事実ベースで伝え、その後に、俺の推測も加え、近々この大森林に遠征が行われる可能性があることを説明した。


「人間達には木々の悲鳴が聞こえないから、そんな酷いことができるのよ!」


 シャリテは冷静に俺の話を聞いていたが、以前の遠征を思い出したのか、語気に怒りを込めながら話をし始めた。シャリテの話では、木などの寿命が長い植物は、50年以上育つと意思を持つ個体が出てくることがあるそうだ。すべての木や植物が意思を持つわけではなく、どちらかというと特殊な個体らしい。

 

 共和国の人間達は、以前の遠征で森の木を手あたり次第、際限なく切り倒し運び出した。当然その中には、特殊な個体も含まれていて容赦なく切り倒したそうだ。エルフの中には、今でも切り倒されるときの悲鳴を聞いたトラウマを抱えているものも多く、切り倒された森は当然ながら回復していない。


 大森林は今でも十分広い範囲に広がっていると思うのだが、以前は共和国の近くまで森林があったそうだ。共和国が森を切り開き続けた結果、今の場所まで大森林が後退した。大型獣が現れなければ、もっと森林は減っていたのではないかとシャリテは言う。


(前世と同じ流れだが、大型獣が森林破壊を防いだ形だ。)


 大型獣は不思議なことに、森林資源が減るような行為があると現れ、その原因を排除しようと動くらしい。エルフ族もそれに乗じて共和国側を撃退に動くそうだが、シャリテの知る限り、エルフ族が大型獣の動きに合わせているだけで、連携できるような相手ではないそうだ。


・・・


 暫く待つとシャリテが落ち着いて来たようなので、俺は相談し始めた。


「俺はエルフ族も共和国も得にならない遠征を防ぎたいと思っている。」


 シャリテも頷きながら話を続ける。


「別に私たちも争いたいとは思っていませんよ。ただ共和国のねらいが大森林の木で、これまで多くの森林が失われた事実がある以上、来るなら座視することはできません。彼らは根こそぎ木を切り倒して、森を破壊します。そんな人たちと争わずに済む手があるとは思えません。」


 シャリテの言うことはもっともな話で、これまでの共和国の行いが悪すぎる。結局大型獣という抑止力が現れるまで、森を切り開き続けてきたのだろう。大森林が共和国の近くまで広がっていたのなら、これまで、どれだけの森林伐採が起こったのかは、その面積で容易に想像できる。異常と言って良い面積だ。


「シャリテの言うことはもっともだ。それでも脅すようで悪いが、俺の推測だが遠征が行われる可能性が高い。そして共和国軍が出張るとなると、大型獣がどれほど強いのかは知らないが、ある程度森は切り開かれると思う。エルフ族と大型獣で遠征を撃退することはできそうか?」


 俺は直近のリスクに絞って話し合いをすることにする。シャリテもその意図を汲んでくれたのか、話を合わせてくれた。


「そうですね。共和国軍が本気で来たら流石に無理でしょう。この大森林には、かなりの大型獣が生息するので、遠征があっても期間は短期的だとは思いますが、多かれ少なかれ森は切り開かれることになると思います。」


 俺は頷きつつ提案する。


「だからどうだろう。この前のような木や倒木、病気などで枯れている木を80本ほど提供してもらえれば遠征を止められると思う。協力してもらえないか? これだけの大森林となれば、そういった木は多くあると思うが。」


 シャリテは少し考えていたが、返事をしてきた。


「確かにそれで争いが防げるのであれば一考に値します。一方的に提供するだけでは話になりませんが、対価によっては実現できるかもしれません。帝国側の森のようにしたくないですし。」


 帝国側では大型獣が減って、森の中に軍隊が駐屯したせいで、森林資源が激減しているそうだ。共和国もそうなってしまえば、一気に大森林の面積が減っていくだろう。俺は遠征を防ぐための木材の追加調達とその対価について、シャリテと踏み込んだ交渉を始めることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ