第118話 木材の販売
(さてと、上がりは期待したいところだな。)
俺は今、冒険者ギルドで納品した木材の査定結果を待っている。
エルフのシャリテと別れた後、木材が載った荷馬車をロバのルシオとロシナンテに牽いてもらい、冒険者ギルドまで運んでもらった。荷馬車に載せた木材の荷重は2t近くになっていたはずだが、ロバたちは苦にもならないようで荷馬車を牽いてくれた。
大森林から共和国までの道は、荒れてはいるが人通りが少ないこともあり、轍などがほとんどなく、速やかに運んでこられた。時間的にはもう1往復できそうだったが、査定が思いの外長引いている。
木材調達をソロで行った実績がなかったらしく、本当に仲間がいないのかや、入手先や方法など確認が多く、納品するときにも少し手間取った。入手先や方法などを簡単に明かすわけがないと思うのだが。
(それにしても、遅いな。貴重とは言え、木材の査定がこんなに長くかかるものか?)
何か納品物に問題があったのだろうか。あまりの査定の遅さに、もやもやと考えていたところ、やっと受付からお呼びがかかった。
「リコルドさん お待たせしました。」
査定の受付をしてくれたのは、冒険者登録をしてくれた受付の少女だったはずなのだが、今呼んでいるのは熟練の女性の方だ。やはり何かあったのだろうか。
不信感をいだきながらも、俺は受付まで進んだ。
「リコルドさん、大変お待たせしました。木材納品の件、誠にありがとうございました。査定が終わったのですが、ギルドで少しお話を聞かせていただきたい点がありまして。申し訳ないのですがご協力いただけませんか?」
熟練の女性受付は懇願するように話をしてきた。面倒な予感しかしないので、とりあえず断る。
「いや、これでも忙しい。先ほどもそちらの質問には答えたし、これ以上は勘弁してもらいたい。大分待たされたし、早速、査定結果を聞かせて欲しい。」
受付はそうおっしゃらずにとか、あなたにも良い話もありますしなどとか、どこかの勧誘のようなことを言ってくるのだが、正直興味はない。
(なんだか、断るという選択肢がない感じだな・・・)
余りの受付の必死さに、周りもざわめき出している。見方によっては、俺がいじめているように見えるのかもしれない。今後も冒険者ギルドにお世話になることを考えると、あまり無下にもできないし、正直受付も可愛そうになってきた。
「・・・はぁ。わかった。」
「ありがとうございます! ではこちらへお越しください!」
受付は余程困っていたのか、いつもは出さないような声で対応してくる。諦めて素直に従う。
・・・
連れていかれたのは、受付の奥にある一室。普段、冒険者が入らないような、応接のような部屋だった。高級そうな椅子に座るように促され、飲み物も提供された。
暫く待っていると、品の良さそうな中年、40歳弱だろうか、高級そうな服に身を包んだ男があらわれ話しかけてきた。
「初めまして、リコルド。私はここのギルド長を務めているオルノという。」
砕けた口調だが、言葉や立ち振る舞いに品があり、装いからも只者ではないのが伝わってくる。下手をすれば貴族、それも低くない地位のように感じる。あえて名前だけで家名を名乗らないということは、あまり地位を笠に着たようなことは考えていないということだろう。
念のため、軽く確認の意味も含めて聞く。
「こちらこそ初めまして。リコルドと申します。オルノ閣下と呼ばせていただいても?」
ギルド長は、ぴくっとしたがそのまま返事をしてくる。
「いや、オルノで構わない。ここでは敬語なども不要だ。普段通りにして欲しい。」
「それではありがたく。さすがに名前を呼ぶのは流石に気が引ける。ギルド長と呼ばせてもらいたい。」
ギルド長は頷くと、俺に座るように促し、自分も座って話を続けて来る。
「急に呼び立てて驚いているだろう。木材が持ち込まれるのは最近珍しくなっていてね。しかもソロでの持ち込みとなると前例がない。どこの木材か聞いても?」
ここでも拒否権はなさそうな雰囲気だ。とりあえず最低限の受け答えをしながら、秘匿したいことは伝えておく。
「調達先について教えるのはもちろんかまわない。木材を調達した場所は、受付から聞いた北の大森林だ。悪いが入手方法は教えられない。ご理解いただけると思うが。」
ギルド長はそれでも食い下がってくる。
「入手方法を教えてもらえれば、報酬を支払う準備がある。そうだな。木材が継続して調達できる方法なら、最初に金貨で100枚(1億円)以上、それに加えて調達した木材価格の3割を支払おうじゃないか。」
元サラリーマンとしては正直心が動く金額だ。かといって、教えれば、やっとのことで前に進んだシャリテとの関係はまず破綻する。今後、木材の定期調達が見込めるチャネルを失うのは、俺だけでなく共和国にとっても痛手だろう。
(うーむ。どうしたものかな。)
ギルド長の地位、そして恐らく貴族であることを考えれば、その人物が望んでいることに対してゼロ回答をするのは得策ではない。どんな人物かはまだ分からないが、相手が追い詰められているような状況であれば、イリーガルな手段を取られる可能性もある。
ある程度正直なところを話ながら、相手の要望や背景を聞き出す必要があるだろう。
「ギルド長、正直に話すが、今の入手方法はかなり時間をかけて、やっと今日初めて成果を出せたものだ。今、約束できるのは、今日持ち込んだ分と同じくらいの木材を、追加で2回程度納品できる。それくらいだ。入手方法が今後も継続して使えるかは、かなり微妙な状況だ。俺以外が入ると途絶える可能性が高い。それよりどのくらいの木材が必要なのか、利用目的や必要な時期なども教えてもらえないか? できる限り協力する。」
ギルド長も入手方法の情報について、具体的な金額まで提示したものの、すぐに交渉が成立するとは思っていなかったらしく、事情も説明してくれた。さすがに利用目的は明言してくれなかったのだが、冬に入る前にまとまった量の木材調達が必要となるとのことだった。
木材の形状は、通常の依頼と同様の直径10cm程度のもので、その条件に当てはまるものを可能な限り多くという要望だった。木材の需要は高止まりしている状態で、さらに何かの事情で需要が急増したようだ。
これから冒険者ギルドの掲示板に冬までの期間限定で、報酬を1.2倍にした依頼が掲示される予定ということも教えてもらった。
(木材の条件は同じで、報酬が1.2倍か。きな臭いな。)
木材の条件から考える限り、主な利用用途は建設や家具用などではなく、燃料なのだろう。ギルド長レベルの人が直接動き、木材を大量に確保するとなると、国家的な事情の可能性が高い。
だとすると用途は推定できる。恐らく軍事関連で鉄や鋼を大量に製造する必要があり、しかも冬までにということは、春過ぎに大きな戦いが控えていると考えるのが妥当だろう。
(こいつは、まずいな。)
俺とのこの会合は、国家的な事情への対応策の一環と考えるべきだと思うが、ぽっとでの俺にはそこまで期待をかけるとは思えない。本命の木材調達策が、別にあると思うのが自然だろう。
取れる手段は多くない。恐らくは一択だ。以前実施されたという大森林へ木材調達遠征が行われるのだろう。遠征が行われると、共和国だけでなくエルフ側にも被害が出かねない。できることなら避けたいが、冬までがタイムリミットとすると、もうあまり時間がなさそうだ。




