第114話 共和国要人会議
共和国の王城の1つにある会議室で、怒号が響いている。
「話と違うではないか! 帝国の連中を砦から必ず追い払うとお主が言い切るから、金も食糧も提供したのだ。それが何もできずに壊滅というではないか! どう責任を取るつもりだ。」
共和国の三大領主のうちの一人、西の穀倉地帯を支配する地王が顔を真っ赤にしながら叫んでいる。
「そうだのぅ。うちからもかなりの支援をさせてもらった。共和国全体のためとは言え、何も成果がないというのはのぅ。なにか申し開きはないのかね。」
南西に広がる非常に大きな湖がある土地を支配する海王が冷静に同意を示している。
「何を言うか。あの悪魔ともいえる英雄の配下を討ち取り、騎乗の化け物にも手傷を負わせたとの報告がある。そもそも、帝国と同じような武器を提供しないギルドの責任も軽くないはずだぞ。あの悪魔と戦うのに十分な支援が受けられなかったというだけだ。成果は挙げておる。」
2人の大領主から非難されている軍事を司っている武王が、責任転嫁を図ろうと声を張り上げている。
「その話は事前に何度もして結論が出たではないか! それでも大丈夫だと言ったのはお主だぞ。そもそも・・・」
「そんなことは言っておらぬわ! お主の勘違いであろう。それよりギルド側の話を、まず聞かせよ。」
海王の話を遮り、武王は自分が一息つくためのねらいもあるのか、無理やりギルド長に話題をふる。話題を振られたギルド長は、冒険者ギルドの長であると同時に、その他すべてのギルドを取り仕切っている。
「確かに武王様のおっしゃるとおり、我らが共和国と帝国の武器の材質には差がございます。そこについては、申し訳なく思いますが、無から有を作れるわけもなく、木材が確保できない限り、帝国のように鋼を多く揃えるのは神でもないわたくしどもには無理がございます。そもそも、今回ご用意した鉄製の武器と鋼製で差が出てくるのは、一部の達人をのぞいて一定以上長く剣で打ち合ったときでございます。今回お聞きしているような戦いでは、失礼ながらそこまで大きな差が出るとは思えませぬ。」
流石にギルド側も言われるだけではない。
「そちは、我が兵が不甲斐ないと申すのか!!」
武王は声を荒げるが、ギルド長は滅相もないと言いながらも、顔を伏せていた。戦力差が3倍以上もあって、まともに打ち合うこともできずに惨敗となれば、あざける気持ちも出てくるのは当然ともいえる。普通に聞けば、まともな戦術もない無能な軍隊と思っても仕方のないことだろう。
「我が騎士も兵も良くやっておる。3倍の勢力でぶつかったのだ、負けるわけがないのに負けた、これは英雄の差だ。流石に人間のわが身では限界があるわ! いつになったら共和国の英雄が現れるのか! 教皇にも意見をいただきたいですぞ。」
どこかに責任を転嫁したい武王は、今度は英雄の存在に話題を変え教皇に振る。散々議論されていることではあるが、皆、英雄の圧倒的な力に振り回されている状況を理解している、他の王たちも気になるようで教皇に視線を向ける。
「そうですな。神の御心については、わたくしでも察せられないことが多いのです。ですが、我らの共和国と帝国との差を考えればおのずと察することもできましょう。」
教皇の回答に3王とも、またかという顔をする。共和国と帝国はともに一神教を国教と定めているのだが、共和国はもともと中小の国の寄せ集め。それぞれの国で別々の宗教があったこともあり、他の宗教にも温和な傾向が強い。むしろ国教を無理やりに定めたことの影響がまだくすぶっている。教皇はそのことに不満を持っている。
「そうは言うがのぅ。我々もお主の話を十分に聞いたはずじゃが。お主の話を聞いたからこそ、国教をさだめたのじゃが、それでもお主の神は足りぬと?」
海王がため息交じりに話をした。
「その通りですな。わたくしはわが神ガイアのもとで共和国はまとまるべきと申しております。どうでしょうか? この共和国の王都だけでも、他の宗教の施設を認めぬとおっしゃっていただければ、必ずや英雄の降臨がなると存じますが。」
「まあ、その話は後で我らの間で結論を出しておく。」
苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、地王がそう発言すると、教皇は恭しくお辞儀をして黙った。
「それでだ、そろそろ今後の話をしていこう。英雄と武器のための木材が足りないのはわかった。今に始まった話ではないがな。だが、そもそも敗戦が続き始めたのは帝国に渡河を許したころからだ。それ以前はここまで一方的ではなかったぞ。武王、お前の参謀はどこに行った? あやつが出てこなくなってから、状況が急激に悪化しているように見えるが。」
地王が続けてそう発言すると、武王がしかめっ面をして答える。
「あ奴などとうに放逐したわ。貧乏貴族の三男のくせに。しかも、ただの自由民の立場をわきまえずとやかくと。寛大な儂でなければもうこの世にはおらぬわ! あやつがいた所でなにもかわらぬ。敗戦の原因は先ほど話し合った通りじゃ。英雄と武器を用意してくれれば、あっという間に大河の向こうに追い返して見せるわ。」
海王はため息をつきながら発言をする。
「武王もそういきり立たず、今一度奴を探して見た方がわしも良いとおもうがのぅ。無理にとは言わぬが考えて見てくれんか。帝国も流石に今の人数で攻め込んでくることはないとは思うがのぅ。あの砦一帯を抑えられたら我々の共和国がどうなるか。まだ暫し猶予はあるとは思うが、あの砦が機能し始めたらどこまで影響がでるのか、皆も分かっておるだろう。」
「今回の戦場は砦から100キロル離れた場所だ。砦を中心にその範囲の地域が帝国の影響下に置かれれば、麦の収穫が3割以上減るかもしれない。そうなれば国民は飢えることになろう。今のように軍への食糧提供も続けることはできなくなるぞ。何としても砦を潰してもらわねば。」
地王は自分の領地が奪われかねず、解決策も見つからない状況に苛立ちを隠せなくなっている。
「わかっておる。わかっておる。武器があり、英雄さえおれば、負けるわけがなかろう。砦を取り返すどころか、逆に帝国側に砦を作って見せようではないか。」
武王は高らかに宣言しながら豪快に笑っていた。地王はため息をつきながら、今後について提案していく。
「それでは、まずは木材の確保だな。それも頭が痛いが、武王とギルド長の責任で進めてくれ。冬が来る前に木材を大量に確保して、冬の間に鋼の増産を行い、春すぎまでに武器を揃えるべきだろう。次の戦のタイミングは武王にお任せするが、共和国の食糧面を考慮して夏までには解決できるように計画してもらいたい。そのための支援はできる限りさせてもらおう。ただし、正直、次が最後だ・・・」
「夏に間に合わせるのであれば、王都での宗教施設の御触れも冬前にはお願いしたいところです。神の御心に届くまでには時間がかかりますから。」
そう教皇が念押ししたところで、要人会議は終わった。




