第113話 少年の人脈
共和国軍と帝国軍の戦いを見届けた後、俺は共和国に戻った。共和国軍の将軍らしき人物は真っ先に逃走していたので無事だと思うが、兵士の損耗率は考えたくないレベルだ。
(あれは駄目だ。まともに戦う方がどうかしている。)
元々戦う予定もないのだが、とてもではないが帝国軍の英雄とまともに戦えるとは思えない。何度も戦っているはずの共和国軍が、あそこまで無策で良いのだろうか。
戦うのであれば、地面をぬかるみにする、馬止を用意するなど、徹底的に相手進軍を遅くらせつつ、英雄フォボスは無視して他の騎兵か、騎乗していた大型獣をターゲットに、相手より大量の矢の雨を降らせるくらいしか思いつかない。
遠くから見ていた俺ですら恐怖を感じるのに、現地で戦った人たちはトラウマを植え付けられているのではないか。
共和国の抱えるリスクが跳ね上がったように思えるが、あれだけ圧倒できるのであれば、帝国軍側にもっと兵力があれば、共和国は既に滅んでいてもおかしくない。それなのに帝国軍の兵隊はなぜか寡兵だった。帝国側にも何か理由があるのかもしれない。
いずれにせよ、あれだけの寡兵で本土を攻略するとは到底おもえないので、まだ時間はありそうだ。
(とりあえず、ゆっくり休もう。)
ようやく拠点に戻ってこられた。流石に疲れているので、今日は夕飯を食べて風呂に入ってゆっくりしたいところだ。
スラムの少女エルバは、俺が帰ってくると夕飯を用意してくれた。暖かい肉うどんで、塩味も申し分ない。夕飯を食べながらエルバと何気ない会話をしていたところ、スラムの少年シモンが帰ってきた。
エルバは、立ち上がり台所に消えていった。シモンの夕飯を用意しに行ったのだろう、エルバも本当に良くできた子供だ。
「おう。お帰り、結構遅かったな。」
俺が声をかけると、シモンは目を輝かせて話しかけてきた。
「そっちこそ、お帰りリコルド。無事に帰ってきてなにより。今度土産話をしてくれよな。」
俺が頷くと、シモンは余程話したいことがあったのか、別の話題を振ってきた。
「俺、リコルドが言っていた目標達成できたよ! 今日もそうだけど、毎日廃棄場所に壺の中身を入れているんだ。しかも2壺分だよ!」
俺は以前シモンに、2日で壺1つ分を一杯することで満足せず、1日で廃棄まで行う目標を立て、前提を取っ払って考えて見ろという話をしたことがある。その時はどう上手く作業を進めても、1日で壺一杯にはならない状況だった。いくつかヒントを与えたものの、それだけで成果を出してきたようだ。
「ほう。やるじゃないか! 俺が言っていたよりも成果を出すなんて、大したものだな。」
シモンは満面の笑みを浮かべながら満足げに語り始めた。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。結構頑張ったんだぜ? リコルドにヒントをもらって、できそうな案はピンとは来たんだけど、最初はやっぱり大変だったんだ・・・」
俺はにこやかに頷きながら、シモンの話を聞いた。
シモンの話では、これまでのやり方を変え、共和国内の路上に散乱していた排泄物を集める作業を最小限にし、毎日、宿屋や食堂などの店舗の店員や店長に、挨拶をしながら話しかけたそうだ。
最初は挨拶だけに止めて置き、話ができるタイミングがあると、なるべく自然に排泄物が溜まったおまるとかがあれば、ついでに中身をもらっていきますよというような提案をして回ったそうだ。
すぐに受け入れてくれても良さそうな提案だが、最初は顔見知り程度の相手ということもあったのか、考えておくよというような反応が多かったようだ。それでも根気よく続け、やがて1店舗、2店舗とおまるを持ってきてくれる店舗が増え、今では、今度いつ来るのかと催促してくる店舗も増えてきて、1日で壺2つ溜まるようになったそうだ。
想定通りの提案だが、想定以上の成果を出している。壺2つ分も1日で溜められるというのは正直に驚いた。
(うーむ。シモンの稼ぎは、かなり良くなったな。)
冒険者ギルドの依頼では、壺1つ溜めると銅貨30枚、廃棄で15枚。1日2壺廃棄できるとすると、1日銅貨90枚、1か月30日達成し続けたら、銀貨で27枚分、週休2日程度で1月20日働いたとしても、銀貨18枚になる。
その収入は熟練炭鉱夫の1か月分の給与を越えることになる。数か月で俺が初期投資した銀貨50枚を返却できるし、保証金をのぞいた10枚であれば、一か月の働きでおつりがくる。まだ受け取っていないが、既に冒険者ギルドの報酬合計は、初期投資を越えているのだろう。
俺は満足げに頷いて声をかける。
「本当によく頑張ったな。正直予想以上だ。他の人に自然に協力してもらう仕組みを作って、到底できないはずの成果を出した。ここまで見事な成果を出されたら、シモンに何かしたいな。欲しいものとか、やって欲しいことはないか?」
シモンはびっくりして、欲しいものとつぶやきながら悩み始めた。すぐに思いつかないようなら、今度でも良いぞと伝えた所、そうするという答えだった。やはりシモンには見込みがある。とてもスラムで育った子供とは思えない。ここまでくると両親の素性が気になるが、母親は亡くなり父親は行方不明では確認するすべはない。
(思った以上の拾い物だ。もっと上を目指してもらわないとな。)
シモンには、ここで満足してもらっては成長が止まるかもしれない。さらに高い目標を考えてもらいたいところだ。
「シモン、1日壺2つというのは十分な成果だと思うが、さらに増やせる可能性はありそうか?」
シモンは少し考えながら答えてきた。
「うーん。回収した壺だけならまだ増やせそうだよ。今は声かけてもらったところを優先して回っているけど、溜まってから行くことにすれば、夕方までに壺4,5個分は行けるんじゃないかなぁ。でも一度に運べそうなのは壺2個分が限界。重すぎるよ。3個分は多分運べないし、捨てに行くのも難しいかな。そうすると廃棄に2回いくことになるので、往復の時間が足りないよ。」
、論理的でわかりやすい考えだ。今は、当然自分だけで作業をする前提で考えているのだろうし、それでも十分な回答だ。王都で作業をできる人を増やすのは難しいだろうし、現実的なところを突いてきている。
「なるほどな。そうなると1人では壺2個分廃棄して、さらに壺1個くらいを一杯にするのが限界か。例えばだが、知り合いに外で廃棄だけやってくれそうな人はいないか? 王都に入国させてやることはできないが、廃棄だけでもやってくれそうなら、それなりの報酬は出すが?」
少し前提条件を変更する案を出す。
「スラムの人で良ければ、いくらでもいるよ。飯1食分でも十分やってもらえるんじゃないかな。そうか。俺が昼前に壺2つ分溜めて、それを運んでもらえれば、さらに壺2つ溜めてもって帰れるから壺4つは行けるよ。ただ、ここを知られるのは、あまり良くないんだよね?」
王都での作業者がシモン一人なら、その案が現状最適解だろう。疫病発生リスクを抑えるために、王都を衛生的にする目標には到底足りないが、着実に一歩ずつ進んでくれている。
「そうだな。良い案だ。別の廃棄場所は俺が作っておく。スラムの人を使うなら、この拠点にある食糧の使い方は、シモンに任せることにする。お前の伝手で人を集めて、壺を運ばせる案を試してみてくれ。その中で信用できる人が出てくれば、一緒に王都に入ってもらっても良いかもな。」
シモンは、なるほどと言いながら少し嬉しそうに頷いた。




