第112話 共和国VS帝国
(リコルド、始まりましたよ!)
俺は、共和国が抱えている大きなリスクの1つである帝国との戦況を確認するため、砦付近の状況を目視しつつ、『しるし』による監視網を構築し、継続的な情報収集ができるようにしてきた。
帰路につき、残り1日程度で共和国に着くというタイミングで、セルカから共和国と帝国の戦闘が開始されるようだとの報告を受けた。戦況は、まだ共和国軍が野営地から動き出したばかりで、すぐにはぶつかり合うことはなさそうだ。
(戦いぶりを見させてもらうか。)
俺は荒野を走っている途中だったため、身を隠して落ち着ける場所に移動し、戦闘状況を確認することにした。今は平地のど真ん中にいるため、共和国軍の移動状況を逐次セルカに報告してもらいながら、落ち着ける場所を探す。
共和国軍の動きは干満で、帝国軍対峙するまでにはまだ余裕がありそうなので、少し考え、行きに使った水源に行くことにした。
・・・
15分程走り、水源に到着する。俺は木陰を少し整備して、寝転んで休めるようにした。周りからは見えにくい場所なので、まず問題ないだろう。俺は腰を落ち着けて、状況を見ることにする。
(今回は野戦のようだな。)
共和国軍の陣容だが、将軍と思われる豪華な装束の人物の周りに、重装備の騎士がおり騎乗している。その周りには歩兵が多くおり、後方に弓兵が続く形の構成をしている。そして、似たような構成の部隊が複数あるようだ。
遠距離攻撃用の武器は弓だけのようで、攻城兵器は見当たらない。銃や砲も見当たらないので、こちらの技術ではまだ開発されていないのかもしれない。
歩兵や弓兵の装備は、騎士たちと違いかなりの軽装で、皮鎧らしきものを付けている人が散見される程度。ほとんどの兵は平服に近いような恰好をしている。歩兵と弓兵は正式な軍隊というより、領地からかき集めた兵隊なのだろう。
重装備の騎兵は剣の比率が高く、ランスを持っているものが少ない。騎兵の一般的な役割は歩兵を蹂躙すること、ランスを持たせて突撃を繰り返す作戦が典型的だったはずだ。共和国兵の装備は、その作戦をはじめから除外しているように見える。もしかしたら帝国は歩兵が少ないのかもしれない。
野営地もあるからなのか、輜重隊などは見当たらない。道がしっかりしているため、進む速度はそれなりに早く、3時間程度あれば砦まで達しそうな勢いだ。
・・・
帝国側の『しるし』に意識を移して状況を確認していたところ、砦の門が開いた。どうやら共和国軍の進軍に帝国側が気づいたようだ。
共和国軍が動き出してから、門が開くまでの時間が異様に早い。臨戦態勢とはいえ、籠城の選択肢は初めからないような判断の速さだ。共和国が動き出してから、20分くらい後から烽火らしきものが上がっているので、帝国軍は共和国軍を常時監視しているのだろう。
烽火の後、10分もかからないうちに門が完全に開け放たれている。そして帝国軍が開け放たれた門から飛び出してきた。
「なんだあれは・・・・」
まさに飛び出してきたという表現が正しい。帝国軍は全員騎乗しており、完全な騎兵部隊のようだ。共和国軍の装備も納得がいく。全員重装備のように見えるが、かなりの速度で移動を開始している。
全員重装備の騎馬で構成されている軍隊は、今の技術力では理にかなっている気がする。銃や砲が開発されるまでは、遠距離攻撃は弓や投石が主になるので、重装備の兵隊には効果を発揮しにくい。
なので、軍隊の構成自体は納得もいくし、騎馬なので速度の速さも理解できる。だが、その中に、理解できない異様な兵が1人いる。
距離が離れているので詳細は分からないのだが、1人だけサイズ感がおかしい。しかも乗っているものは騎馬とは思えない。三国志で有名な呂布が乗っていた赤兎馬も大きかったという話もあるが、それどころではない。
他の馬と比較すると3~4倍大きく、シルエットも馬のそれではない。イーリスの里の前にあった骨ほどは大きくないが、大型獣の生きているものなのかもしれない。
帝国軍は30分程度走り、あっという間に共和国軍との距離を詰めて一度止まった。ここまでの行軍速度を考えれば、共和国軍と会敵するまで20分程度の距離だ。その場で、大型獣にのった人物が戦闘前の演説を行っているようだ。残念ながらその演説は聞こえない。
(しかし、やけに兵数が少ないな。)
(そうですね。共和国軍の兵数が上手く伝わらなかったのかもしれませんね。)
共和国軍と帝国軍の戦力差はかなりあるように見える。比率は共和国軍10に対して、帝国軍は2~3くらいだろうか。
両軍がこのまま進むとすると、激突する戦場はほぼ平地で、策を弄せる場所は見当たらず、天候も良い。兵力差が3倍以上の敵であれば、常識的には籠城戦一択。銃もないのであれば、大型獣がいるとしても逃げ出すレベルの戦力差だろう。しかし、帝国軍側は全くひるんでいないようにみえる。
(もう少ししたら、戦闘が始まりそうだ。)
帝国軍側は演説が終わり、陣形を整え始めている。共和国軍側も、帝国軍の接近に気が付いており、既に陣形が組まれている。
帝国軍の陣形は偃月陣、それを受けるであろう共和国軍は鶴翼陣で、それぞれの状況を踏まえた適切な陣形のように見える。
偃月陣は、三角の先で突っ込む魚鱗の陣形よりも、さらに攻撃寄りの陣形で、V字のとがった先に大将などの強力な兵を配置する。その兵が先頭となって敵に切り込む陣形で、攻撃力は高いが防御力がかなり低い。帝国軍の布陣は、正確にはV字の幅が狭いため、鋒矢陣である矢印に陣形に近い。
共和国軍の鶴翼陣は偃月陣の逆で、V字の中に敵を誘い込み袋叩きにする陣形だ。共和国軍も敵の突破力が分かっているらしく、突撃を受ける場所の陣容がかなり厚い。
(このまま、ぶつかるつもりか? これは共和国が勝かもしれないな・・・)
帝国軍の陣形が整った瞬間に突撃が始まった。
「おいおぃ・・・」
思わず声が漏れる。帝国軍は先ほどの移動速度より2倍近く早い。先頭を走る人物はさらに早く3倍。会敵までの距離があまりないため、そこまで差が開いていないが単騎駆けの状況に近くなっている。そしてその人物は、まだかなりの距離があるにもかかわらず、弓を取り出して打ち始めている。
弓は集団で使う場合は、斜め上に連射する形で矢を放ち面で攻撃するが、その人物はかなりの強弓なのか、ほぼ水平に打ち出している。しかも騎乗したままで。距離があり威力が減退するはずなのに、1矢撃つたびに共和国軍の兵士が複数人倒れ、その周りの陣形が崩れていく。
もう疑いようもない、先頭の人物は親方が言っていた帝国の英雄フォボスだろう。あんな規格外が何人もいるわけがない。強弓を短弓のように連打しながら、移動速度は3倍のまま。迎え撃つ側の兵士は恐慌を起こし始めている。
そして、フォボスはそのまま突撃し、あっさりと鶴翼陣形を突き抜けた。その後の戦闘は、もう単なる虐殺だった。




