第110話 金策と拠点開発
王都の南に拠点を設け、住居を移してから少しずつ開拓を進めている。共和国が抱えている致命的なリスクのうち、疫病発生リスクだけはスラムの少年のお陰で、改善に向けた小さな一歩を踏み出した状態だが、その他の戦争と環境破壊には未着手だ。
どれも顕在化した場合、女神の使命達成が大きく後退することになる。使命に関しては、イーリスの里や村ではかなり順調で一次産業で生み出される産物については心配がなく、余っている種子により周辺の緑化が順調に進んでいる。
皆やる気で二次産業も発達し始めているのだが、その成果も共和国のリスクが顕在化してしまえば意味がなくなってしまう。王都でできる限りのことをするつもりだが、とにかく金がかかるというのは間違いない。
スラムの兄妹にも手伝ってもらうが、俺自身も着実に稼いでいかなければならない。ちなみにスラムの少年の名前はシモン、少女の名前はエルバという。彼らとは長い付き合いになるのだろう。
金策だが、高騰している木材が安定して確保できれば、金銭面や石炭による環境破壊についても、改善が見込めるのだが、森のエルフさんとの関係は一向に改善されず。従って共和国での木材の調達の目途も経たない。
イーリスの里では植林を始めているが、それが使える可能性は当面ない。王都の周辺探索や情報収集も随時進めているが、やはり竹林はなさそうで、代替燃料として狙っている竹炭の大量生産も難しい。
(あそこに短期アルバイトに行くとするか。)
冒険者ギルドの依頼は、木材調達以上に効率よく稼げそうなものはなく、土木工事のような仕事は年齢的に雇ってもらえなかった。悩んだ末に思いついたのは、知り合いのところでの荒稼ぎ。要するに炭鉱の村だ。
炭鉱の村までは60km距離があるが、里にいた時の俺の移動速度は時速21km程度、さらにスキルが向上しており、片道2時間強で移動できる。早朝炭鉱の村に行って働き、一泊して早朝共和国に戻るという生活を3日に1回こなしていた。
炭鉱の村への長期滞在も考えたのだが、シモンやエルバの様子も気になるし、エルフさんとの関係改善をおろそかにするわけにもいかない。久しぶりに炭鉱の村に行ったときは親方もびっくりしていたが、作業する日が3日に1回でも助かると喜んで俺のアルバイトを快諾してくれた。
報酬の面も1日銀貨2枚+出来高の待遇で雇ってもらえた。5日働けば出来高が無くても、熟練炭鉱夫と同じ収入になるので好待遇だ。
俺が働いたことで炭鉱では細かい問題解決や事故なども最小限に抑えられ、かつ、需要が急増していた石炭の供給が安定した。ただ、採掘しすぎた石炭が山となり始め、若干だぶつき始めたので、親方と相談しアルバイトを当面辞めることにした。
それでもかなり荒稼ぎしたので、これまでの預金分と合わせて、自由に使える金額として金貨6枚(600万円)を貯蓄することができた。
(ちょっとしたことをするくらいの金にはなったかな。)
貯金の使い道はいくつか検討しているが、まだ決めていない。イーリスの里と村に戻るのであれば、織機などの作業効率を改善できそうな道具を買って戻るし、こちらにもうしばらくここに留まるのであれば、共和国のリスクに対する対策につながることに投資をしたい。
どのような対策を打つにしろ、本気で解決をねらっていくのであれば、中期的には共和国に影響を及ぼせる人物とのチャネルを確立する必要も出てくるだろう。スラムの少年シモンの取り組みのような、現場からボトムアップで改善を図っていく方法も重要だが、いずれ限界が来るはずだ。
その時に、トップに近いところから支援を受けられる状況や、可能であれば対策を実施できるような状況をつくっておく必要だどうしても出てくるだろう。それが誰なのか、どうしたらそのような人物と知り合いになる機会が得られるのか、現時点では全くの無策だが、その機会があったときには金が必要だ。
・・・
(拠点の開発は、イーリスの里を思い出すな。)
金策に走りながら、拠点の開発も進めている。住居については、既に宿泊していた宿屋と同じか、それ以上まで快適にできている。特に食事については比べるべくもない。
住人が3人になったことで、塩の減りが激しくなったので、里に塩を採りに行くか共和国で購入する予定だ。共和国では塩は貴重品の部類なので、できれば里に取りに行きたいが、距離があり過ぎる。
住居はほぼ問題ないので、外の開発に力を入れていた。当初は夏が近づいている状況だったので、秋、冬が来る前に畑の開発に力をいれた。場所はスラムからも共和国も見えにくくなるように、小山の裏側にしている。拠点の貯水池の南側だ。
(畑も食べていくだけなら、まず問題ないだろう。)
拠点の土地も、いつもの通り痩せており、雑草がまばらに生えている程度だった。特に対処方法は変わりなく、いつものようにスコップで深めに掘り起こし、深い場所の土を上に持ってくる。
ここの土地はそれだけでは難しく、大小の石が多く混じっていたので、取り出して周りに投げてどかしたり、ミネラルがふくまれていそうなものは、マナ操作で細かく砕いたり、地道な作業を繰り返した。更にできたての堆肥も適度に混ぜ込んだ。
堆肥は、流石に江戸時代を支えたものだけあって、売れ残っていたソルガムの種子を撒くと順調に成長し、既に1回収穫を終えている。共和国の主食は麦なので、麦の中でも価値が高い小麦の種もみも購入して、一部の畑で試験的に育成してみたが、小麦はやはり一筋縄ではいかないのか、育成に苦戦している。
小麦の連作障害の原因の1つに窒素不足があるため、その窒素を補えるソルガムの葉などを緑肥としてすき込んでみたのだが、あまり良い結果になっていない。緑肥を分解するような微生物が少ないことが原因なのかもしれないので、堆肥を混ぜながら土地の改良を進めていくしかなさそうだ。
小麦については細々と試験的な育成を続けながら、当面ソルガムを中心に作付けを続け、土壌改良を進めていくことにする。まだ収穫は1回だが、ソルガムは問題なく収穫できている。もう一回収穫できれば、3人分程度の穀物の確保は問題なくなるだろう
拠点の近くには川があるので、釣りも始めている。俺、スラムの兄妹シモンとエルバで時々試しているが、どうも俺には才能がないらしい。
「リコルドでも得意じゃないことがあるのね。」
控えめに言ったエルバの言葉が若干刺さっている。いずれ見返す機会もあるだろうが、エルバの釣果には及ばなそうだ。魚突きなら当然勝てるが・・・
拠点開発は、イーリスの里や村でのノウハウを活かして、順調に進めており、食糧事情は大幅に改善されている。3名だけであれば、来年には余剰が出そうだ。畑の作付面積を増やすのであれば人手もたりなくなるので、検討が必要だろう。
今のところこの拠点に接近する人が監視網に引っかかったことはないのだが、スラムや共和国から1km以上離れているとはいえ、いずれは見つかることもあるだろう。防衛なども考えていかなければならない。




