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第11話 村からの脱出

 俺は箱に入れられたまま、家から運び出され、そのままゆっくりと運ばれていく。早朝の村の中を、俺を起こさないように、ゆっくりと。やがて教会に到着し、中に運び込まれ、地下へ。


 地下へとつながる道は、天然の洞窟に手を加えたような作りになっており、中に入ると少し気温が下がる。あまり長くはないが、傾斜があるため、なるべく平行に保たれながら、慎重にゆっくりと進んでいく。


 そして徐々に、だが確実に地下水の前に運ばれている。儀式は淡々と、滞りなく進められていく。


(疲れを少しも感じさせないのは、流石だな。)


 祭壇の前で、儀式を進めている神父の太く静かな声が、周りに響き渡っている。昨晩、懺悔のような祈りを、ひたすら繰り返していた。ろくに寝ていないはずだが、全くそれを感じさせない、落ち着いた声だ。


(これで、43人目だな。)


 昨晩の祈りから察すると、俺は43人目。こんなことが繰り返されている。儀式の音、母親の嗚咽、参加者の祈りに送られながら、俺の入った箱が、地下水にそっと入れられる。これから女神の国に送られる、そういう形の儀式ではあるが、本当に信じている人は少ないだろう。


 儀式は、残される家族のためにも、行われているのかもしれない。女神の国で幸せに暮らせる。そういった明るい未来が、例え嘘だと分かっていても救いになる。そういうものなのかもしれない。


(こんなことを続けなければ、生きていけないというのは、だれにとっても不幸だろう。)


 箱は地下水に浮かび、そのまま沈むことなく、流れにのって少しずつ流されていく。地下水の流れは穏やかで、ゆっくり俺の入った箱を運んでいく。ゆっくりだが、それでも確実に進んでいき、やがて儀式の光が見えなくなった。


(また暗闇か)


 思えば、転生させられる前も、転生させられた後も暗闇だった。暗闇が嫌いということはないが、嫌な思い出が多く、流石にうんざりする。


 地下水の水量は十分のようで、箱が底に引っかかる様子はない。闇に包まれてからも、速くはないが、確実に進んでいるようだ。


 水の流れに乗って、村からどんどん離れていく。やがて最後まで聞こえていた儀式の音も、今は全く聞こえなくなった。


(一人か・・・)


 信じていたわけではないのだが、女神の国は当然のごとく見えてこない。俺以外、人の気配が全くしなくなった。水音のみの静寂な空間に、1人取り残された。捨てられたという実感が湧いてきて、急激に孤独を感じる。流石に心細くなってきた。


「絶望した~~~~」


 気を紛らわせるために、前世で気に入っていたアニメのセリフを叫んでみた。大声を張り上げたつもりだったが、思ったより小さい。それでも、声が洞窟内で反響しながら広がっていった。


 残念ながら、すぐ入るはずの突っ込みはなく、声が響いた後、再び水音だけの世界にもどった。それでも。


(ちょっと、すっきりしたな。)


 ただ大声で叫んだだけだが、思いのほか気持ちいい。貧乏な村の生活、食文化の違い、しゃべれない子供のふりなど、思った以上に抑圧されていたのだろう。絶望的な状況にも関わらず、心が軽くなった。


(酷い掟のある村から脱出できた。そう思おう。)


 気を取り直して、水の流れに運命を任せる。すぐに行き止まりになるような、最悪なケースにはならなそうだ。水の流れは、あまり早くないが、着実に木箱は流されて行く。


 運命に任せるとは言っても、水の流れは、真っすぐ流れているわけではない。俺は起き上がり、時々壁に引っかかるたびに、壁を押して木箱を水の流れに戻す。


 まわりの気温は若干涼しいが、寒いということはなく、過ごしやすいレベルだ。早朝に儀式が行われたことを考えれば、これから気温あがり、さらに過ごしやすくなりそうだ。


・・・


(おっ)


 暫くの間、水音のみが響く暗闇の中を進んでいたが、前方に明かりが見えてきた。微かだが、近づくにつれ、うっすらと光が差し込んでいるのが見えてくる。


(光がこんなにありがたいとは。)


 一瞬だけ、女神の国に見えたが、単に見間違えただけ。そんなに都合が良いわけはない。残念ながら、見えた光は、出口や女神の国から差し込んだものではなかった。


 差し込んだ明かりは、天井に開いている穴から差し込んでいる。天井の穴は、1つだけではなく、定期的に開いているようだ。形や大きさが似通っており、人工的な雰囲気がある。


(鍾乳洞か)


 差し込む光が周りを照らし、今いる場所の特徴が見えて来る。水は、鍾乳洞ような空洞の下に流れており、全体的に天然の産物のように見える。人工的に感じるところは、天井の穴ぐらいだ。空洞はかなり広く、水量も豊富だ。


(天井の穴は、外を移動するときの水源として、使われたのかもしれないな。)


 もしかしたら、この水の流れは、天然の地下水を利用した地下用水路、いわゆるカナートなのかもしれない。天井の穴は風化しており、随分古い時代のもののようだ。少なくとも今使われているものとは思えない。


 出口らしきものは見当たらないので、続けて水の流れに任せ進んでいく。薄暗いものの、目も慣れてきており、周りのものが良く見えるようになってきた。


(ご同類か。)


 見えるというのは、必ずしも良いことばかりではない。時々、俺が使っている木箱とは、別の箱が壁に引っかかっているのが見える。形状は、俺が入っている箱と同様のもので、俺より先に流された犠牲者のものであることが、嫌でもわかる。


(水面をあまり覗き込まない方が、身のためだな。)


 どの箱の中にも、死体は入っていない。箱に入れられた子供は、生きていれば、いずれ目を覚ます。意識のある2歳児が、独りぼっちでずっと大人しくしている道理がない。必ずどこかで、箱の外に出てしまい、溺れてしまうのだろう。


 箱の中に、子供の死体はないが、子供と一緒に入れられたものが残っていることが多い。申し訳ないと思いながらも、箱の中に残っている布、羊毛など、使えそうなものを回収していく。


 これからのことを考えれば、どれも貴重な物資になりうる。素材として使えそうなものは、できる限りあった方が良いだろう。中身だけでなく、箱も布で結び付けて、いくつか一緒に運んでいく。


(ドラ〇エの棺桶のようだ。)


・・・


 大分進んだと思うが、地下水の水量は相変わらず多く、時々流れが分岐している。分岐が選べるときは、より広い通路を選んで進んでいる。広い通路の方が、行き止まりにならない可能性が高いだろう。もしも、行き止まりに当たってしまったら、そこに出口がなければ詰む。


 空洞の天井は高い位置にあり、天井の穴から脱出することは、まずできない。大人でも到底抜け出せるような高さではない。分岐があるたびに、1度きりしかできない選択をしながら、水の流れに運命を託し続けている。


(もしかしたら、生き残れるかもな。)


 既に数時間は流されている。水量が安定しているお陰で、難なく先に進めてはいる。この流れが地下用水路、いわゆるカナートなら、いずれ人工水路につながり、天井も低くなっていくはずだ。


 人工の地下用水路の行きつく先が、オアシスということも考えられる。そこまで都合よくいかなくても、水場を確保した状態で、外に出られる可能性はあるだろう。


(そう甘くはないと思うが。もしかしたら、可能性はあるかもしれない。)


 オアシスの近くや水場の近くまでいけるなら、生き延びられる可能性が格段にあがる。 そこに人が住んでいれば、サバイバルの必要なく、助かる見込みも出てくるだろう。


「バッシャーン」


 かすかな希望を持ち始めたとき、前方で大きな落石音とともに、何か大きなものが水に落ちたような音が聞こえた。その後、ガラガラと落石音も続いている。


 少し先で、大規模な崩落が起きたようだ。少し前まで、順調に流れていた水が、急にできた壁でせき止められている。既に崩落は止まっているようだが、水の流れは急速に緩やかになっている。


 天井に目を向けるが、まだまだ高い・・・


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