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第108話 拠点づくり

 スラムの少年と一緒に、共和国の南西門から用意したばかりの廃棄場所まで歩いた。依頼条件を満たすため、門から廃棄場所まで1km以上離れているが、仕事ことや、たわいもない話などをしていたので、距離が短く感じた。


「川の下流にこんな場所があったのか。こんなに都合よく水が溜まっているとも思えないから新しく作った?」


 少年は周りを見ながら、廃棄場所の周りにある水場などに目をやり、自然にあったものではないことに気が付いた様だった。


「まあな。せっかく集めたものを、周りに捨てるだけだと芸がないしな。使い道もある。壺の中身はこっちの穴に入れてくれ。入れ終わったら、そこにある水場で手を洗って、汚れが気になるところがあったらそれも洗うようにな。前にも言ったが、一応イーリス教の教徒だからできる限り綺麗にしてくれ。」


 少年は素直に約束した通り『しるし』を首からかけ、こちらが指示した衛生習慣も身に着け始めている。


「了解。これに使い道があるとは思えないけど。それにしても、ここまでくると水も綺麗に見えるなぁ。スラムの川と同じ川とは思えないよ。周りも臭くないし、いっそのこと、ここに住んだ方が良さそうだよ。」


 俺は少年の言葉に頷きながら、この場所について説明した。


「実はそのつもりだ。さらに手を入れて、ここに住めるようにする。今は宿屋暮らしだが、ずっとと言うわけにもいかないからな。まあ、共和国に認められていないから、見つかったら追い出されるかもしれないがな。お前らも来るつもりなら部屋くらい用意してやるぞ。」


 元々整備するつもりだったので、部屋が少し増えるくらいであれば特に問題はない。


「それってスラムと同じ扱いってことだろう? それなら断然こっちの方が良さそうだし、妹の体にもよさそうだ。こっちに住める部屋があるなら、ありがたいなぁ。」


 俺は、そうかと返事をし、準備ができたら知らせると伝えた。俺はもう少しここに残ると伝えると、少年は手洗いなどを終えた後、スラムに帰っていった。


(さて、もう少し手を入れておくか。)


 夕暮れまでには、まだ少し時間がある。ここに住む前提で間取りを考えつつ、必要になりそうな家具や設備などを洗い出していく。


 まず住居の場所だが、川から水を引いて作った水場の近くが便利そうだ。玄関は小山の南側にある岩盤を活かして作り、玄関から掘り上げた場所に部屋を作ることで、川が増水して水場などが溢れても水が入らないような構造にしておく。


 念のため玄関は小さめにして、他者の侵入を防ぎ易くしておこう。換気には気を使い、上の方には採光、兼、空気穴を複数作って空気が巡回するように工夫する。


 間取りは、俺とスラムの兄妹とは別々の部屋という感じの2DKくらいで、岩盤を掘りぬいていきながら、構造的に脆そうな場所を石材で補強する。欲しい家具や設備などをイメージしながら、王都で調達するものをピックアップしていく。


 日が落ちる少し前までに、玄関の場所を決めて掘り進み、入ってすぐの廊下を途中まで作った後、王都に戻って就寝した。


・・・


 翌日からは、ロバたちの餌、エルフさんへの挨拶、共和国の買い出し、拠点づくりの順で作業を進める日々を過ごした。


(大体の間取りはこれで良いとして・・・)


 拠点づくりはスピードを重視して、各部屋の完成度は最低限としたので、各部屋の造りは概ね完成。しかし、拠点に住むにあたり、どうしても改善したかった台所は、さらに力を入れて作り込むことにしている。石炭を使ったときの、あの何とも言えない独特の臭いがする食事はもう耐えられない。

 

(竹林も見つからないし、ここだけでもやっておこう。)


 エルフさんへの挨拶は続けているが、関係改善は一向に進んでいない。そのため当面木材の安定確保の見込みは立たない。しかも、暇を見つけては王都周辺を調べているが、竹林はいまだに発見できず、そちらも見込みが立たない状況だ。


 そうなると燃料は王都で調達しやすい石炭しかなく、それを料理に利用せざるを得ない。共和国での石炭の利用方法は欠点だらけで、食事に臭いが付くのもその1つだ。


 改善の方法は当てがあるが、そこを改善してしまうと竹炭などの代替燃料の入り込む余地がなくなり、石炭の地位が盤石になる。このまま石炭が普及して大量消費が続くと環境破壊の原因にもなりかねない。当面方法は秘匿するつもりだが、ここでなら広まる心配もないので問題ないだろう。


 改善策としては、前世で熱物理学者ラムフォード氏が発明した方法を使う。この方法を使えば、食事に臭いが付かない様になるうえに、石炭を効率的に使うことができるようになる。


(まあ、理屈的にはあまり難しいことはないけどな。)


 日本で昔から日常的に使われていた竈の仕組みに似通っており、薪の代わりに石炭を使うので少し工夫がされている。


 まず、石炭から出る火の四方を、石材やレンガで囲って上側に金属で蓋をする。前方には石炭などの燃料を入れる口と扉、後方に煙を逃がすための煙突を付けた立方体に近い形の台所用の竈がそれだ。


 上側の金属が熱で高温になり、その上に鍋などを置いて料理することで火や煙が直接料理に触れなくなり、あの独特の臭いから解放されることになる。当然、煙は煙突から外に排出されるので、部屋の中が煤だらけになることもなく、掃除の大変さからも解放されて一石二鳥となる。


 便利なのだが、煙突から出る煙が公害の元にもなりかねないので、普及させることができない。この竈は、臭いの改善だけでなく直接火を使うよりも熱効率が良く、少ない燃料で料理することもできるため、前世では画期的な発明として認定された。そしてその発明者であるラムフォード氏は、この発明により伯爵に任じられるまでになった。


(熱は、もっと有効に使わないとな。)


 構造的にも作りやすいので、石工職人を自称する俺にとっては、すぐにでも実現できるのだが、そのまま作っては芸がないので少し工夫する。


 通常、竈の背面には煙突などの排気口を作るが、今回はそこの少し上部にもう一つの窯を作る。追加した窯は、台所の隣の部屋入る間取りにしておき、その窯の横に鉄板で熱を伝える仕組みと、人ひとりが入れるような大きさの直方体の入れ物を石材で作る。


 その入れ物に水を入れておくことで、料理などを作った時の排熱で水が温まる仕組みにし、追加した窯に燃料を入れることで追い焚きも可能とした。要するに登り窯を応用した風呂だ。


(ここだけとはいえ、環境破壊のもとになる排煙に配慮しないのはありえないな。)


 さらにもう一工夫しておく。石炭の黒煙による公害の恐ろしさを十分に知っている身としては、排煙処理をせずに黒煙を垂れ流す気にはどうしてもなれない。排煙処理は現代でも研究が続けられているテーマでもあり、排煙の吸着剤として使われるものの多くは電気が必要になるため、簡単には再現できないものが多い。


 排煙処理の方法は、石灰‐石こう法、水酸化マグネシウム法、ソーダ法、活性炭吸着法、電子ビーム法など多くの種類があり、どの方法も今すぐには完全には再現できない。ただ、その中でも石灰‐石こう法は完全ではないが、王都で入手できる材料のみで再現できる。


 王都の石工ギルドで、セメントの材料でもある石灰石が比較的安価に購入できたこと、マナ操作で石灰石を容易に粉々にできること、岩盤などを削って排気口を作れることなどで再現の目途を立てることができた。


 石灰‐石こう法は、石灰石や消石灰の微粉を水に混ぜてドロドロにしたスリラー液と、温度が下がった排煙と反応させることで公害物質になる二酸化硫黄(SO2)を吸収させる。それだけでなく、吸収させると副産物として石こうができる。


(石こうは、当面貯めておくしかないな。)


 石こうの利用用途は広いので、量が増えて来たら活用の検討もしたい。ちなみに排煙処理の部分には、マナ結晶と『しるし』を使って遠隔操作可能なメンテナンス用の仕組みも仕込んでおいた。


 部屋の品質を最低限にしたこともあり、宿屋の契約期間が切れる前に、寝泊まりする程度には拠点を整備することができた。スラムの兄妹を招くにはもう少し改装が必要だが取り急ぎ、俺だけ引っ越すことにする。女将さんには良くしてもらったので、いずれ恩返しも考えたい。


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