第107話 向かう道すがら
俺は共和国に戻り、一仕事終えて満足している少年と合流した。
「3日目で一杯にできるとは思わなかったな。やるじゃないか。」
「これくらい大したことじゃないよ。多分、もっと早くできると思う。」
少年の言う通り、まだまだ作業が早くなる要素は多い。かなり頑張っていたのは分かっているが、王都で見慣れぬ少年が、見慣れない作業をしているのだ。無関心な住民が多い王都でも、流石に声をかける人は多い。そして少年は声をかけられるたびに、丁寧に受け答えをしていた。それがなくなるだけでも、作業が捗るようになるだろう。
まだ3日目なので、ここで判断するのは時期早々だが、どこまでも真面目で実直なタイプらしい。今のところ、少年に対する俺の評価はかなり高い。
まだまだ効率的に進める要素も多い。例えば、壺一杯にするだけを目標にすれば、乾燥しきっているものを中心に集めれば、嵩も稼げるし、重量もかなり軽くなるはずだ。少年は、今のところ住民や店が密集している大通りの裏側の道に目を付け、その道をなるべく綺麗にしようと取り組んでいた。新しいものも多く、一杯になっている壺は相当な重量のはずだ。
「よくやってくれたな。今日はこれから廃棄する場所に案内する。そこまで一緒に行ってもらう。そこで廃棄してもらって、今日は道具を自分の家で管理してくれ。」
そういうと少年は少し嬉しそうにしながら、表情を引き締めて頷いた。やっぱり真面目だと思う。
・・・
俺は少年と一緒に南西門に移動した。少年は先日教えた通り、壺の中身を門番に確認してもらい、俺の冒険者番号も伝えている。若いからなのかもしれないが、冒険者番号を空で言えるので記憶力は良さそうだ。そういえば半分冗談で、仕事の説明は1回しかしないといったが、それ以降同じ説明を求められていない。
門番の確認が終わり、南西門を出た。俺は行先の方向を示しながら、少年と一緒に進んでいく。道がないため少し運びにくそうだが、スラムを経由せず、直接廃棄場所に進むことにした。
手押し車があるとはいえ壺は相当に重いはずだが、3日で押し方のコツもつかんできているのか、稀によろけるものの着実に進んでいる。見た目ほど簡単ではないはずだが、少年は苦にしている感じではない。
俺は歩きながら、少年に仕事の状況を聞くことにした。
「どうだ、仕事を始めてみて辛いこととかはないか?」
気になっていることも交えつつ、あえて曖昧に聞いてみる。
「うーん・・・そうだなぁ。まだ始めたばかりだから、良くわからないよ。重いけど辛くはないかな。飯も食えているし、妹も少しずつ元気になっているから。あぁ、でも筋肉痛が辛いかも。」
少年は大分緊張もなくなってきたのか、口調も軽めになり少し笑いながら答えてきた。まあ、そうだろうなとも思いながら、今後も続けられそうか気になるところもあるので、もう少し踏み込んで聞いてみることにした。
「仕事の内容はどうだ。まあ、やらせている俺が言うのもなんだが、どちらかと言えば嫌がる奴も多い部類の仕事だろう。」
嫌な点を聞くことで、それをきっかけに、仕事がいやになる可能性もある。微妙な質問ではあるのだが、今の段階で心理的に抵抗感があれば、それを認識しておいた方が良い。少年の面倒をみると決めているので、良い点も悪い点も早めに知っておき、先の手を考えておく義務が俺にはあるはずだ。
少年は少し考えた後、答えてきた。
「そうだなぁ。やっぱり辛くはないし、嫌でもないかなぁ。今のところだけかもしれないけど。飯が妹も食えているというのもあるけれど、さっき冒険者ギルドの職員さんと、リコルドに褒めてもらえたのも正直嬉しい。それに・・・」
少年はあまり仕事の内容自体には抵抗感を感じていないようで、少し安心した。
「それに?」
何か言い淀んでいるので、言うように促すが、少年は何か言いづらそうにしている。やっぱり不満があるのかとも思うが、そういう感じの表情でもない。恥ずかしそうな、言いづらそうな、悩ましそうな、そんな表情を繰り返している。
「言いづらいなら、無理に言わなくても良いぞ。」
少し様子を見てから、一押しした。
「あ、いや。うーん。なんだか俺なんかが言うもの恥ずかしいなと思うのだけど・・・」
俺は頷きながら先を促す。
「憧れていた共和国に入国させてもらって。最初は色々な店や人、外との違いが気になっていて、それを見るだけで楽しかった。それでもこの仕事をしていて、違いがないところもあるんだなぁと。でさ、今朝も道を綺麗にして、夕方まで作業していたけれど、これをやっているのは俺だけでさ。壺が一杯になったときに、ふと思ったんだよ。あぁ、俺は共和国のしかも王都を綺麗にする仕事をしているんだって。ちょっと、大げさかもしれないし、昨日回収したところが、もう汚れているから綺麗にはできていないんだけどね。」
少年はそう言って、恥ずかしそうにしていた。
俺は、有名な『三人のレンガ積み職人』の話をふと思い出していた。
「王都を綺麗にする仕事か・・・。中々凄いことを言うじゃないか。俺は良いと思うぞ。」
そう素直に返しながら、この少年であれば、色々と将来のことも相談しても良いのかもしれないと思った。真面目で実直な性格で、経験のなさから来る視野の狭さという足りない点はあるが、化ける可能性はある。
しかし、スラムで生きながらこの性格。この少年の両親は、できる限り大事に育ててきたのだろうとも思う。既に見捨てるつもりはないが、これからの働き方を見ながらだが、もう少し手厚くサポートしても良いかもしれない。
「そういえば知っているか。お前が住んでいるスラムや共和国が、今のような状態だと病気の原因になる。お前は王都を綺麗にしているだけではなく、人々の健康も守っているんだぞ。」
俺がそういうと、少年は少しはにかみながら頷いていた。
「まあ、お前ひとりでは正直限界があるし、俺もお前の言う共和国を綺麗にするということを、もう少し考えて見る。これからも頼むぞ。」
俺はこの作業を、周辺緑化のための1つとして捉えていたが、これまであまり組織化や今後の展開について漠然とした方針しか持っていなかった。だが、少年がこの作業を続けることができ、中核になる人材として育つのであれば、事業としての展開も考えても良いのかもしれない。
クラウドファンディングのようなサイトがあれば、企画書を提示して資金を調達したいくらいだ。まあ所詮まだ3日、少年の言葉に釣られ過ぎだろう。
少し冷静に今後の展開も検討しながら、少年により積極的な役割をこなさせつつ、人材育成を進めてみることにしよう。そう考えていたところで、廃棄場所の近くまで来ていた。




