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第104話 少年の仕事

(少しでも良い条件で、まとめたいところだな。)


 昨日出会ったスラムの兄妹の面倒を見ることに決めた。決めたからには、施すだけではなく役割を与えたい。まずは健康な少年の仕事を用意しよう。


 少年は「なんでもやる」と覚悟を示していたが、覚悟だけでなんの技能もない子供が良い仕事にありつけるなら、スラムができることは無い。体力的に厳しく、人気のない仕事だが、あたりを付けていたものがある。きっと覚悟を試すことになる仕事になるだろう。


 だが、将来性がある仕事と踏んでいる。続けられるなら、決して悪くはないはずだ。俺はその仕事を、少しでも良い条件で請け負う交渉をするために冒険者ギルドに向かった。


・・・


 宿屋を出て冒険者ギルドに入る。今日はあの見習いの少女はいなかったが、少女を指導していた熟練の受付女性がいた。指導できる立場であれば、交渉も可能かもしれない。


「だから、掲示板に常設している路上の排泄物の清掃を受けたいのだが、金額や条件面での交渉ができないかと聞いている。」


 冒険者ギルドの掲示板には、国からの依頼として路上の排泄物の回収が常設されている。大きな壺1つ分集めて銅貨30枚(3,000円相当)の仕事だが、報酬が低すぎて受け手がいない状況が続いている。そこに交渉の余地がないか、探りを入れているところだ。


 基本的には依頼に対する交渉を受け付けてはいないが、この依頼に関しては微調整が可能ではないかと考えている。少し強めに出ているが、流石に熟練の受付女性は冷静に対応してくる。


「ですから、そもそも国からの依頼ですので、冒険者ギルドでは条件などの変更はできません。確かに、おっしゃる通り報酬が低く、実際に受ける方はほとんどおりません。こちらからも国に要望は出しておりますが、条件が変更される話は聞いておりません。」


(まあ、そうだろうな。)


 冒険者ギルドに国の依頼内容についてどうこうできるとは、最初から思っていない。


「確かに言っていることは分かるが、国からの依頼であれば、国も年間予算を確保しているはずだ。それが全く消化されないのであれば、冒険者ギルドも困るはずだ。そうだろう?」


 俺がそういうと、熟練の受付女性の表情が少し変わる。冒険者ギルドほどの組織が、国の補助なしに成立するとは考えられない。職員の質の高さを考えれば、職員や上層部に貴族がいると考えた方が良いだろう。


 貴族は国のために成果を上げる必要があり、当然国からの無理難題についても忖度する必要が多かれ少なかれ出てくる。成果が挙がらなければ、誰かが責任取らされかねない。その誰かは末端だろう。


「あたりまえだが、回収すれば廃棄が必要だ。壺に入った排泄物はギルド職員か、別の依頼で廃棄するはずだ。そこまでまとめて俺が請け負う。報酬に銅貨20枚(2,000円相当)追加して欲しい。」


 銅貨20枚程度であれば、職員にしてみればはした金のはずだ。これぐらいの金額であれば、自分で捨てるより身銭で依頼しても良いはずだし、そもそも、まだ掲示板には出ていないが廃棄の依頼も存在してもおかしくない。


 熟練の受付は少し考えながら回答してきた。


「確かに、今は掲示板にありませんが、廃棄の依頼は掲示する予定があります。その依頼は共和国の南西門から出て、共和国から1キロル以上離れた場所に廃棄すること、報酬は銅貨15枚です。まとめて受けていただけるなら、その分報酬を上乗せすることは可能です。」


 ある程度狙った条件に近づいてきたが、少年にやらせるなら、もう少し条件を追加させたい。


「銅貨15枚じゃあ割に合わない。壺の大きさから考えれば、あれを直接持てる人は限られるだろう。手押し車など道具を貸し出してもらえれば、受けたいと思うがどうだろうか。」


 熟練の受付は、少し考える振りをしているが想定内の要望なのだろう、少し沈黙をした後に頷いた。


「分かりました。その条件で依頼内容を整理することにしましょう。リコルドさんは、少年とは思えませんね。」

  

「わかった。よろしく頼む。受ける前に少し確認させてくれ。南西門から1キロル離れた場所に廃棄するということだが、そのあたりは誰の土地になるんだ? 持ち主によっては揉め事になりかねないが、そこまでは請け負えないぞ。」


 ああ、と言いながら説明してくれた。


 共和国の南東には大きな湖があり漁業が盛んだが、それ以外の南西から南にかけての広大な地域は荒野と砂漠しかない。一応、共和国領に含まれるのだが、不毛な土地で活用する見込みがなく、完全に放置されているのが実態だそうだ。そのため、排泄物をぶちまけようが、誰からも文句が出ることはないということだった。


 放置されている状態が続いており、活用できる見込みがないため、貴族でなくても他の荘園と同程度の税金を納められるなら、国から耕作者として封土される仕組みもあるというが、なり手がいないという。一般的な荘園の税率は収入の一割程度というが、不毛な地では、その1割分の収穫を得ること自体難しいということだろう。


(やりようによっては、チャンスがあるかもしれないな。)


 俺は一通り説明を聞いた後、熟練の受付に礼を言い、依頼を受領した。この依頼はスラムの少年に任せる新しい仕事になる。ただ、このままでは、あの少年は仕事をすることができない。


 仕事をさせるためには、入国証を発行するための費用と保証金の銀貨50枚の初期投資が必要だ。この投資を回収できるかは、少年が誠実に働くかどうか次第。リスクを抱えることにもなるので、リスクヘッジの仕組みも必要だろう。


 今回用意した仕事は、共和国に入国できる冒険者からはそっぽを向かれていた依頼だけあって、それだけに相当厳しい作業になるだろう。妹も食わせていかなければならないとはいえ、少年には辛い仕事になる。続けられる可能性は低いのかもしれない。


(まあ、覚悟を決めてまずは任せてみるしかないな。)


 考え事をしながら歩いていると、スラムの少年の住処に到着した。扉もろくにないので、声をかけて中に入ると、少年と寝ている少女がいた。心なしか少女の顔色は、昨日よりも良いように見える。

 

 少女を起こさないように2人で外に出ると、少年から話しかけてきた。


「リコルドのお陰で、妹も落ち着いているんだ。本当にありがとう。できる限りのことをするから、見捨てないで欲しい。頼むよ。」


 俺は頷きながら、お前次第だと告げると、少年は真剣な表情をしながら何度も頷いて来た。


(さて、この子はどっちだろうな。)

 

 簡単に人の話に頷く人は多い。そういった人の中には、反射的に頷くタイプも多く、その多くは、自分が了承したことを軽く考えすぐに投げ出すか、できない理由を積み重ねて文句を言ってくる。当然、そうでないタイプもいるが、希少だと思っている。


 この少年の特性をしっかりと見極めていく必要があるだろう。まずは、これからやってもらうことや条件などを伝えていく。


「やってもらう仕事だが、まずは当面、共和国の中で道に散乱している排泄物を壺に集めることだ。壺が重くて臭いも酷いし、汚い、子供には厳しい仕事だ。できるか?」


 そう伝えると少年は、落ち着かなくなり、何か言いたそうな、不安そうな顔をしている。俺は不安を取り除くためにも説明を続ける。


「壺がいっぱいになるまで排泄物を集めるので、かなりの重量になが、壺を楽に運ぶための手押し車も用意してあるから、安心しろ。」


 少年はさらに悲しそうな顔をして話だした。


「リコルド、すまないがその仕事はできない。いや、やりたくないとかではなく、残念ながらできないんだ。排泄物を集める仕事には文句はないし、むしろそれぐらい任せて欲しい・・・ だけど、リコルドは共和国国民だろうから知らないと思うけど、俺は共和国に入ることができない。入るにはものすごくお金がかかるから、仕事をやりたくても入れないんだ。」


 少年は申し訳なさそうな、今にも泣きそうな表情をしていた。これは俺の説明の順番が悪かった。反省すべきだろう。仕事をやってもらう前提と考えて、説明するのを忘れていた。


「ああ、安心しろ。いくつか条件があるが、お前の入国に必要な費用は俺がすべて払う。これからも働いてもらうために必要だからな。」


 スラムの少年は、信じられないという表情をしながら、しばらく俺の顔を凝視していた。


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