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EP2 オスト・アンデル第二王子

◆◇◆◇◆◇


____ 時間が少しだけ巻戻るが、それは勘弁してくれ。

 奇妙な世界に転生したその夜が更け、ワイは一人フカフカなベッドの中で、転落した時に胸もしこたま打ってしまった。腫れあがった胸の包帯に当てたワイの手をジッと見詰めながら確認すると。

 ムニん

 なんじゃ? この感触は!


「痛くは無いのに、何でこんなバンドのような包帯が? 胸がまるでコンニャクみてぇな感じって事はよ、これは相当に水が溜まってるんじゃねぇのか! あのヤブ野郎、確かドクトル・ヘビィ・ヤーブ!問題はねぇなんて抜かしやがって!こりゃヤバイぜ、どうやって水を抜けばいいんだよ」


 もし、哲が抜こうとしたら、大変な事態を引き起こしてしまうのだが......。

 近藤哲は硬派な男だ。信じられない事に、世の中の女性の下着が、いったいどんなふうになっているかなど、全く!本当に無知な漢である。

 硬派=ウブの法則=女に興味は持たねぇ=奥底はデレデレ


 哲は知らないが、この世界が特別なのか、女性の下着文化は現代のように進んでいた。ひょっとしたら他の物でも技術も、当てはまっているかも知れない。


 ぷにょ

 あへ!

「なんじゃ? 今ワイ、この肥大したピンクのヨロチクビに触ったら、ビクっと電気が走ったぞ」


 しかし痛みがある訳でも無いので、別に驚く事もないワイは、案外冷静だった。それは単に自分をユラユラと照らす、燭台の炎の灯りのせいかもしれない。

 蝋燭の炎や香る香草が、心が穏やかにさせたように感じたが、改めて自分の手を見て驚いた。


「げえっ、こうして見ると白魚のような女の綺麗な手だな。やはりワイはどこか知らない世界の、華奢な男に生まれ変わったと言うのか......こいつは肉体労働もした事が無い程のボンボンか?それともまだ少年だからなのか......しかしドドリアと言うあの男が言ったドレスが気になる」


 ワイは今、ワンピースのような白くて、サラサラした寝巻を着せられている。

「これが病人用の服なのか?」


その晩、ワイはトイレに立ったのだが、厠の扉を開けると陶器で出来た便座があった。

ウォッシュレットでは無いだろうが、見慣れた形の便座に少しばかり安堵した哲であった。


 手慣れた仕草で便座を持ち上げて、立ちションベンをしようとするワイを、部屋番と付き添いを兼ねたたメイド長パパイヤが、驚いてワイを窘めたのだ。

「おいババア、そこまで見るのかよ!」

 しかし!

 無い!!


「エ、エリザお嬢様! 伯爵令嬢ともあろう方が、なんとはしたない!」

パパイヤの目がかなりマジオコだったが、それよりもその時のワイの衝撃は、いったいどれ程のものだったか。これは経験しないと分からん事であろう。


 38年間、苦楽を共にした相棒が、スッカスカでどこにも居ないショックで尿意がすっかりすっこんでしまった。

パパイヤの手を振り払ってヨロヨロとベッドに戻ると、ワイは公園のベンチに座って、缶チューハイを飲んでいた事に想いを向けた。


『日本は2023年の12月だった......今日は何日だろうな。あのスポーツ新聞の見出しが、”謎の中年男、子犬と謎の無理心中か” だったらワイは猛烈に抗議せんとな。そりゃ事実じゃね~し』


 と、そこでワイは習慣となっている時間を確かめる。

視線の先は、あるとは思っていなかった左手首の黒い100均デジタル腕時計だ。大抵はカレンダー機能も付いているプラスチック製の奴だ。


「ふぉ!時計がちゃんと腕に付いてる! 今までどうして気付けなかった? 日付と時間は......あの日から3日後、時間は午前6時30分か。日付と時間が分かるってのは、こりゃ有りがたいぜ」


 今は転移転生した翌日では無かったのだ。

しかし、この世界がどこに在って、どんな文化と歴史なのか、そんな事が哲に分かる筈もない。

 分かっているのは、ズラバッハがドン・デンバーラ伯爵で、ブロンド縦ロールが、名前は知らんがそのおっかぁ、そして驚くなかれワイの母親と言う訳だ。


 肝心のワイはと言えば、エリザお嬢様と呼ばれ、使用人の<シー・フー・ドドリア>と<パパイア・アップル>が常にワイの傍に仕えている状態だ。

 『何だこいつ等。はっきり言ってウゼぇし邪魔だ』


____そして今日の朝から蜂の巣を突ついたような騒ぎを、ワイは静かに黙って聞いていたのだ。


「午前6時50分か、そろそろ腹が減って......使用人の<シー・フー・ドドリア>と<パパイア・アップル>が二人とも顔を出さんが、この騒ぎのせいか?」


「た、大変で御座います! ドン・デンバーラ伯爵様、エリス・リクター王妃様。たった今、王城から緊急の知らせが!」

「騒がしいぞドドリア!、それにパパイア・アップルまで!のうエリスや」


 『ワイの母親がエリス・リクターか』

大声はワイにも届くので、ワイも何事かとベッドで聞き耳を立てていた。


「あなた、きっと王城で何か重大な事件があったのです。さあ聞きましょうドドリアとパパイア」

「うむ述べてみよ」


 は はぁ

「それがエリザお嬢様が階段から転げ落ちられた同時刻、クイント・リックス王城でも大変な事態に!」


 ドドリアとパパイアが、明け方に早馬で来た伝令から聞いた知らせを、慌てた口調で伝えるのだった。


『ババアにワイの立しょんべんを見られた時か。息子よお前は俺を置いてどこへ行った?』


「なんと展望塔から転落しただと! それがオスト・アンデル王子だと申すか?!」

「ま、まさかあの第二王子様だと言うの?!」

『お前は饅頭か!オスト・アンデル!』


 ドドリアとパパイアの二人が顔を見合わせると、ドドリアが意を決したようにズラ伯爵に告げた。


 「このような話を、エリザお嬢様には.....その、まだ話されない方がよろしいかと、パパイヤと二人愚考しております」


 実のところ、ワイはそのオスト・アンデル第二王子などは全く知らんし、ワイとどんな関係かは知る筈も無いが、更にドドリアとパパイアの報告はまだ続いた。


「王子様は昏睡状態で、多くの下位貴族までもが王城へ見舞に出向くそうです。ドン・デンバーラ伯爵様も、馳せ参じた方が良いかと」

 うむそうではあるが。


『エリザとオスト・アンデル第二王子が、同時刻に転落したと言うのか!』

ズラ伯爵は二人に妙な違和感を感じた。禿げている分、勘が案外いいのかも知れなかった。


「まぁ待てドドリアとパパイア。今頃王城は混乱しておる最中。王と王妃様にも迷惑がかかろう。ここは2、3日の様子を見た方が良い」

 ズラ伯爵の言い分は的を得ている。事実、王城は見舞を申し出た貴族達は悉く追い返され、王と王妃、第一王子の機嫌を悪くしただけだったのだ。


______ところで、オスト・アンデル第二王子だが、評判は余りよろしくない。

見た目は長身で甘いマスクをしており、社交界の場で微笑めば多くの貴族令嬢を失神させる強者だ。

但し、内面は相当なスケコマシであって、遊び人である事が王と王妃の悩みの種だった。


 どのみち王位を継承するのは、評判の良い第一王子のヒネルトである。それを理由に好き勝手に生きていたのだった。


 そこでかねてより、美人で聡明なドン・デンバーラ伯爵家のエリザに白羽の矢が立っていた事は、王と王妃、ヒネルトの三人だけの秘密になっていた。


 その理由は、オスト・アンデル第二王子と王は、揃って巨乳好きであった事。勿論、聡明なエリザの容姿は、どの貴族令嬢と比して申し分の無いものもある。

 婚姻させれば、少しは落ち着くだろうと考えたのだが、あの王子はそんな甘い男では無い。


 そのエリザとオスト・アンデル第二王子は、以前社交の場で挨拶を交わしていたが、エリザは初手からこの王子を嫌っていたのだ。表面上の笑顔とは別に、獣のような下衆な匂いを、エリザは敏感に感じ取っていたからだった。


 それはオスト・アンデルも同じだ。

『伯爵家で巨乳はいいとして......俺のコレクションの一つにでもしておくか。フン、女など沢山いるからな』


 初対面から水と油の二人ではあったが、この偶然二人を襲った転落事故が、二人の未来を変えていく事件になろうとは、当事者のワイは知る筈がない。



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