何でも言うことを聞くメイドが俺の家に現れた
ずっとエロコメでいくのには限界があるのではないかと感じました。
えー。想定の範囲内です。とか、どっかの社長だった人みたいに冷静に物事を言えればいいのだが、生憎俺はそんな冷静ではない。
というかそんな冷静になれる状況ではない。
状況:俺と歩ちゃんの間に一人の女の子。
だが…
その女の子は空中に浮いて、歩ちゃんの箸が彼女の体を透過している。
この状況をどう説明しろと?!
「えーと…」
俺は言葉に詰まった。どうすればこの状況を抜け出せるのであろうか。
「か、彼女は…」
俺が歩ちゃんに説明しようと試みる。
「う、浮いてるです~~~~!!!」
歩ちゃんが大声で叫んだ。おかげで俺の言葉は遮られてしまった。
「す、透けてるです~~~~!!!」
「あーえー」
「きゅー…」
パタン
「歩ちゃん?!」
歩ちゃんが衝撃のあまり倒れてしまった。
無理もない。いきなり幽霊が目の前に出現すれば誰だってビビるだろう。
「あれ?」
そして犯人は自分がした事に全く気づいていないみたいだ。
「と、とりあえず彼女をベッドに運ぶぞ!」
「は、はい!」
ナギサが彼女の腕を掴もうとする。
が…
「あ、私は幽霊だからすり抜けてしまいます!!」
「ぬおっ!そうだった!」
何という見落とし!
俺は一人で彼女をベッドの上に寝かせた。
「はぁ…ってお前!どうやって料理したんだ?!」
「そりゃあ野菜を切ったり…」
「違う! お前って物持てないはずだろ?!」
「ああああああああ!!!!!!何ででしょう?!」
「俺に訊くな…」
何だこれは…どういうことなんだ?
「じゃあ試しにご主人様の体を…」
ペタペタ
ナギサが俺の体にペタペタ触れてくる。
「触れます!!これでご主人様に夜伽できます!!」
「そこを喜ぶのか?! それより君のことについてまだ詳しく聞いていないんだけど…」
「あ、えーと…私は生前台場陸海空のメイドをしておりました…」
「ええ?! じいちゃんの?!」
そういえばじいちゃんはハーレムしてたって聞いてたような…
まさか彼女もその一人?!
「はい。ですが、体が弱く、陸海空様に手を出される前に…」
「病死…」
「いえ、流れ弾に当たって戦死です」
「体が弱くは関係ないじゃん!!!」
「いえ、銃弾ごときで死んだ私が柔だったのです!」
「いやいや!その考え方はおかしいって!!」
このメイドは結構凄い生活を送ってきているらしい。
銃弾で戦死ってどういうこっちゃ?
「まあしかし何とか幽霊として生き延びたのです」
「それ、生き延びてないから!!」
「じゃあ死に延びた?」
「別にそこはこだわらなくていいとことろだから!!」
「それにしてもご主人様は陸海空様にそっくりですね…」
「へ?」
ナギサは突然頬を赤らめて俺に近づいてくる。
おーい、何やってるんですかー?
「あのときの股間の疼きが…」
「わー!わー!それ以上は言わないでね?!」
「ですがっ!今日決めました!私はご主人様に処女を捧げます!!」
「聞けよ!!頼むから聞けよ!!」
「ではまず愛のキスから~~~~!!」
「うおっ!!」
俺はナギサのキス攻撃を何とか避けた。つうか何ていう攻撃だ。
「まさかキスは下の口のほうがいいですか?!」
「ゴメンッ!何のことだかさっぱりだよ!!」
「じゃあパンツ脱ぎますから待ってください!!」
「ねえ俺の話聞いてよ!!頼むから聞いてよ!!」
俺はスカートに手を掛けたナギサを必死に止める。
「放して下さい!!」
「誰が放すかっ!!」
「じゃ、じゃあギュッと放さないでください」
「どっちだよ?!」
ジタバタもがいたり、急に大人しくなったりなど、彼女は挙動が不審すぎる。
というか俺って受難体質過ぎる…
「とにかく!私はご主人様のことが好きです! 愛してます!」
「そう簡単に人を愛せるか~~~~!!!!」
「あなたとは違うんです!!」
「そこでそれを使うのか?!」
「それでっ! ご主人様の答えは?!」
「今会ったばかりで愛してるわけないだろ~~~~~~!」
「え…」
突如彼女の顔が悲しみに染まる。
え? 俺、まさか、酷いことを言っちゃった?
「愛してるわけないだろ」
確かに、俺の本心だ。でも…もう少し言い方があったんじゃないか?
「す、すいません…つい陸海空様と同じ接し方をしてしまいました…おこがましいですよね、私。ご主人様と陸海空様は違う人なのに…。私、最低です。ご主人様を別の人と重ねて…」
「あ…いや…」
こういうときにすんなり言葉が出てこない。
もう少し女性慣れしてたらいい言葉とか思いついたかもしれない。
「すいませんでした。私、いつものように消えてますね…」
「あっ!!!」
ナギサはスウーッっと消えていった。
いや、元の姿に戻ったと言うべきなのかもしれない。
彼女は嬉しかったのかもしれない。久しぶりに現世に出れて。
だから今日はたまたま羽目を外してしまっただけなのかもしれない。
というかあんなに強い言い方をして断らなくても良かったんじゃないか?
受け入れることは出来ないけど、もう少しやわらかく断るべきだった…
俺は、何てバカなんだ…
「ナギサ…言い過ぎた…」
俺はナギサに聞こえるか分からないけど、しゃべってみた。
「謝る。俺はお前が俺といることを嫌っているわけじゃない。おまえ自身も嫌いじゃない」
賑やかな女の子は結構好きだ。
「俺はじいちゃんと重ねられたことなんて何とも思ってない。それに…俺はお前のことをこれから知ればいいし、お前もこれから俺のことを知ればいい。幽霊でもいい。俺の友達になれるんだったら、何だっていいんだ、ナギサ。だから…」
「ご主人様~~~~~~~!!」
「うおっ!!」
ナギサが泣きながら俺に抱きついてきた。
最早号泣といった状態だ。
「私っ!!感服いたしましたっ! これからずっとあなたのお傍にいますっ!! あなたについて行きます!! どんな命令も聞きますっ!!」
「あー…」
これは一応ハッピーエンドかな…?
「う~ん…」
「ん?」
そのとき、ベッドから歩ちゃんが起き上がった。
俺にしがみついている空中浮遊している少女を見た歩ちゃんは…
「きゅー…」
「歩ちゃんっ!!」
結局俺が安心して寝たのは随分後のことであった…