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8 幕間 居候のマモル

マモルがこの世界に転移してから30日が過ぎようとしていた。


「そろそろ、町へ買い出しに行こうと思います」

「うん」


マモルとスプラは朝食をとりながら、今日何をするか予定を立てていた。


「二人で生活すると、やっぱり消耗品の消費が激しいですねぇ。前回多めに買ってきたつもりですけど、もう無くなりそうなものもあります。予備品なんかも考慮したら、もっとたくさん買ってこないと駄目ですね」

「ごめん。俺のせいだよね」


「全然!マモルさんは悪くないです。私が一緒にいて欲しいと言ったわけですし」

「そうだっけ・・・?」


「はい!」


マモルが先にここにいたいと言ったはずだが、スプラはそうフォローしてくれた。

ただ、今は完全にヒモ状態だ。

男として、もう少し役に立ちたい。


「とはいえ、俺には稼ぐ手段がないからなぁ・・・」


町での買い物はスプラが作る薬や、森で採集した薬草との物々交換の形で行っている。


「もう少し単価の高い薬を作るか、量を増やせば大丈夫ですから。その分家事をしてくれているじゃないですか」

「うん、そうだね・・・」


「文字も少しずつ読めるようになっていますし、そんなに焦る必要ないですよ」

「ん、ありがとう」


元の世界で買った参考書を使った知識チートは後回し。

いまはスプラの負荷を下げることができるように頑張ろう。


「話を戻すと、町には今日行くの?」

「いえ。行くのは明日にしようと思います。早朝出発すれば、町で他の用事をこなしても夕方には戻ってこれるはず」


「用事って、買い出し以外にも何か?」

「自警団に行きたいな、と。あのゴブリンたちの情報を聞くつもりです」


「あいつらか・・・、まだ仲間が残っていたりするとまずいな」

「あれだけの大人数ですからね。一人二人残っているかも・・・そもそも雷獣の跋扈するこの森に入ってくる時点で、この辺りのことを知らない集団です。斥候が数人生き残っていてもおかしくはないですね」


スプラは続けた。


「自警団は色々な種族が所属していて、町の揉め事仲裁なんかもやっているんですよ。私のような街の外に暮らす者にも平等に接してくれる組織です」

祝福のろいがあるのに、自警団であのゴブリンたちに対抗できるの?」


この世界の絶対ルールである祝福。


第一の祝福は ‘意思を持つもの’が他の‘意思を持つもの’に殺された場合、加害者の命を奪う


第二の祝福は ‘意思を持つもの’が自決することにより、一定条件下において他の‘意思を持つもの’を道連れにできる


この二つがある限り、どうあがいても犠牲は出るし、処刑もできないのでは?とマモルは思った。


「そこは、抜け道があるらしいですよ」

「抜け道・・・‘意思をもたないもの’を使役して祝福を無効化するとか?」


「どうでしょう。詳しくは私も知らないです。ただ、自警団はその道のプロですから何かしらの対応はしてくれると思います」

「それは頼もしい」


そこまで言って気が付いた。


「俺が行っても問題にならない?」


異世界人だとか、祝福を無効化できるとかが知られると面倒になりそうだ。そういうことについて聞かれないのだろうか?


「うーん。大丈夫でしょう。記憶喪失の旅人を保護したということにしておけば、怪しまれるかもしれませんがそれ以上は追及されないでしょう」


「とりあえず、基本的には何か聞かれても‘覚えていない’で通すことにするよ」

「そうしましょう。野盗たちのことも、二人で口裏を合わせておかないといけないですね。」


これで明日のことが決まった。


「で、今日はその準備かな?」

「そうですね・・・馬車の補修も必要ですし」


もともと年期が入った馬車を前回は乱暴な使い方をしてしまった。

道中で壊れないようにメンテナンスは必須だ。


「そういう知識ならそこそこあるから、俺がやるよ」


機械系の学科卒業は伊達ではない。

役に立つことを見せるチャンスだ。


「そうですか?では、この後一緒に」



朝食の後片付けをしていると、窓から鳥が飛び込んできた。


いつの間にか家の中にまで入ってくるようになったフルルである。

テーブルの上で鳴いてエサを催促してくる。


フルルの足元には一枚の羽根。抜け落ちた自分の羽根を咥えてきたようだ。

警戒心が強い鳥、という触れ込みはどこへやら。


「この子、なんだが大きくなった気がする」


最初にあったのは20日以上前だが、そのときよりも大きい。


「餌をいっぱい食べてるからか?」

「いえ。まだ子供ですから、成長途中なんでしょう。フルルは大きくなると私たちくらいになるものもいるんですよ」


「本当に?」

「それに、羽は素材としてそこそこ貴重品なんです。ハンターに狙われたりなんかも・・・この雷獣の森に入る危険を冒してまで狩ろうとする人は少数ですけど」


「・・・お前も大変なんだな・・・」


フルルはマモルの方を向くと、足元の羽を咥えて差し出してきた。


「これ、くれるのか?」


受け取ったマモルに対し、チチチチ、と鳴きエサをねだる。


「ご飯代のつもりかもしれませんね。・・・ありがとうね」

「こいつ・・・」


スプラは思わぬ素材獲得に喜び、野菜くずを差し出した。

マモルはこの時、スプラとは少し違う感情を抱いた。


自分は役に立っているのに、お前は居候か?と突きつけられたような感覚。

鳥に負けられない。


「スプラ、馬車の様子をみてくるよ」

「あ、はい。私も後で行きますね」


チチチチ、という鳴き声を聞きながら、マモルは家を出ていくのであった。


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