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11 竜人のルピナス 3

スプラとマモルが自警団建屋を出たのは昼を大きく過ぎた時間だった。


「お昼を食べてからここに来た方がよかったですかね?」

「俺はそこまで空腹になっていないから大丈夫。スプラは?」

「私は少しお腹減りました。屋台で何か食べたいです」

「じゃあ、そうしようか」


宿屋に向かう途中の屋台で昼食をとる。


見た目焼きそばのような麺料理の屋台で軽く昼食をとった。

ここも自警団でお勧めされた屋台である。


その後、教えてもらった宿へとやってきた。

宿屋のフロントでおばちゃんに一泊分の一部屋をお願いする。


「お二人は同室で大丈夫ですか?」

「大丈夫です」


スプラは即答した。


「ツインとダブルの部屋がありますが」

「ダブルで」


再びスプラは即答した。


「分かりました。では、明日まで一泊一部屋分の料金を前払いでお願いします。これがお部屋のカギです。貴重品は部屋に備えつけの金庫をご利用ください。外出時には鍵はフロントに預けていただくようお願いします」

「わかりました」

「では、ごゆっくり」


受け取った鍵を持って階上の部屋へと移動。

扉を開ける。


「わぁ・・・」

「へぇ・・・」


簡素な部屋ではあったが、ベットのシーツは清潔で戸締りもしっかりしている。


マモルが窓に近づき、カーテンを開ける。

眼下には宿の前の人通りの多い道。治安が比較的よいエリアにあり、リーズナブルな金額。自警団がおすすめするだけはある宿だ。


「いい宿が見つかってよかったですね」

「そうだね」


後ろからスプラが抱き着いてきた。スプラも窓の外が見たかったようだ。


「あれ?あの子、さっきの子じゃないですか?」

「ん?・・・そう・・・か?」


スプラの示す方向に目をやると、小さな赤髪の女の子。

翼と尻尾があり、確かに先ほどの女の子に似ている。特徴的な姿ではあるが、マモルには同一人物だと断定まではできなかった。


「絶対そうですよ。私、目と記憶力には自信あるんです」

「そうだったね」

「確か、ルピナスさんって呼ばれていましたね」


道を歩く少女の後ろから不審な集団が近づいている。

バラバラな種族の男が数人。


「あの人たち、嫌な感じです」


スプラが言うと同時に一人の男が刃物を腰だめにしてルピナスへ向けて駆けだした。


「えっ?あぶな・・・」


スプラが危ない、と言い終わる前に、少女の姿が消えた。

マモルには消えたように見えたが、スプラは少女の移動が見えていたようで、視線が男たちのさらに後ろに移動する。


いつの間にかそこにいた少女は、刃物を持った男の仲間の鳩尾に腕を突きだした。

拳の衝撃で軽く浮いたようにも見えた男たちは、悶絶して地面に倒れた。

倒れた男たちはそのまま動きを止めている。


刃物を持った男は急に目の前の少女がいなくなり、後ろで何かが起きていることに気づいて振り返ったが、その時には少女はすでに男の目の前にいた。

刃物を持った男も直後、仲間たちと同様に地面に伏した。


「すごい」

「ええ。幼い見た目とは裏腹にスピードとパワーはその辺の男顔負けですね。致命傷を与えることなく短時間で不審者を一蹴するとは。見事です。あの子はおそらく竜人ですね。年齢も見た目通りではないかも」


「竜人?」

「竜と人のハーフです。ハイエルフと同じくらい珍しい種族ですよ。私も知識としてしか知りませんでした。自警団のところでぶつかりそうになった時も彼女は転倒を回避していました。体術はかなりのものですね・・・あれだけの戦闘力があれば、町のチンピラなんて赤子の手をひねるようなものでしょうね。ほら」


スプラの言う通り、少女は無力化した男たちから刃物を取り上げ、縛り上げていた。


道の向こうの方から自警団らしき制服の男たちが駆けてきた。

少女はその男たちに不審者たちを引き渡すと、そのまま去っていった。


「さて・・・」


不審者たちが自警団に連行されていくのを見た後で、スプラは窓のカーテンを閉めた。


そのままマモルをベットへと腰かけさせる。


「???どうしたの?」

「マモルさん、腹ごなしの運動なんてどうでしょうか?ベットの沈み具合も確かめてみませんか?」


スプラはマモルの隣に座り、上目遣いで見上げてきた。


「・・・そうだね。色々と具合をみてみようか」


マモルはスプラをベットへと押しつけ、その上に乗った。

町を見て回る前に休憩だ。




結局、夕飯の時間まで部屋で休憩してしまった。

外も日が陰ってきたので、町を見て回るのはやめ、宿の一階にある酒場で夕食を取ることにした。


受付のおばちゃんの旦那さんが料理人らしく、味もボリュームも満足のいく一品だった。


スプラと二人で食事を終え部屋に戻ろうとするところで、マモルは扉から入ってくる赤髪の少女に気が付いた。

こちらへ向けて一直線に近づいてくる。


スプラも気が付いたようだ。


「すいません」

「はい。何でしょうか?」


「お昼に自警団事務所でぶつかりそうになった方ですよね?」

「はい。貴方はその時の・・・」


「私は自警団員のルピナスと申します。先ほどは申し訳ありませんでした」

「怪我もなかったですし、私もよそ見してましたから。気にしないでください」

「本当に、申し訳ありませんでした」


幼い見た目に反し、言葉遣いはしっかりしている。


「明日は私がお二人に同行します。森の中を一通り巡回予定ですので、安心してください」

「それはご丁寧に、ありがとうございます」

「では、明日午後、門にてお待ちしています」


ルピナスはそう言って頭を下げると踵を返し、来た時のように一直線に店を出て行った。


「悪い人ではなさそうですね」

「そうだね」


マモルとスプラは再び部屋に戻った。


普段、夕食後はスプラによるマモルへの言語レッスン。今日は急に泊まることになったために、教材になるような本は何もない。


会話指導の途中で自然と眠気が襲ってきて、いつの間にか二人は眠りに落ちていた。


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