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10 竜人のルピナス 2

スプラとぶつかりそうになった少女は建屋内から聞こえる声を聞き、慌てた様子で走り去った。


「スプラ、大丈夫?あの少女はいったい・・・」

「あの子は・・・」


スプラが続けようとしたところで、壮年のニンゲン男性が一人、自警団建屋から出てきた。

先ほどの接触未遂事故を見ていたようで、スプラに話かけてきた。


「部下が申し訳ありません。怪我はありませんか?」

「あ、大丈夫です」

「それはよかった」


男性は少女が去っていった方向を見てため息をつくと、マモルたちに向き直った。


「自警団に何かご用事ですか?」

「はい。ご相談したいことがあり参りました」

「中でお話聞かせていただきます。どうぞ」


男性の先導で建屋にはいる。

中には多くの人が忙しそうに働いていた。多くの種族が働いているが、ぱっと見はニンゲンが多いようだ。


「この方、ご相談だそうだ」

「わかりました、私が引き継ぎます」

「頼んだ。・・・では、私はこれで失礼します」


男性は受付カウンターに座っていた女性にスプラ達を任せると奥の扉から別の部屋へと去っていった。


ショートヘアの活発そうな美人受付はきはきとした口調で話かけてきた。


「自警団へようこそ。本日はどんな御用でしょうか?」

「町の外の治安についての相談です」

「種族間トラブルでしょうか?」

「いえ。どちらかといえば、野盗の類です」

「わかりました。少々お待ちください」


受付女性は一旦受付カウンターから離れると、奥に座っていたガタイのいいニンゲン男性を呼んできた。


「ここから先はこのルークスが担当します。あちらへどうぞ」


ルークスの案内により、打ち合わせコーナーの一角へ移動する。

4人がけのテーブルでルークスとスプラが向かい合い、スプラの隣にマモルという配置で着席した。


ルークスは町の外の見回り担当だと自己紹介した。

スプラとマモルも簡単に自己紹介した後、ルークスとスプラが話し合うことになった。


「今回は町の外の野盗についての相談と聞きましたが」

「はい。先日、町の外を馬車で移動中に一人のゴブリンにつけられていることに気づきました。幸い、馬車を飛ばして振り切ることができたのですが、今後も同じようなことが起こると心配なので、相談に」


「なるほど。一人のゴブリンに尾行されていたと。詳しい日時と場所を教えていただけますか?」

「15日前の午後。場所は町の門を出てから雷獣の森への道中です。家に戻るには森を抜ける必要があるので」


「雷獣の森ですか。森への道中で尾行を振り切った、ということでいいですか?」

「気づいたのは道中ですが、尾行を振り切ったのは森に入ってからです」


「尾行に気づいたきっかけがあれば教えていただけますか?」

「その、何となくです。そういう視線には敏感なので・・・」


エルフは町の中ではほぼ見かけない。個体数が少ない種族だ。

なお、スプラはハイエルフ。見た目はエルフとほぼ同じだがさらに強力で総人口の少ない種族だ。トラブル回避のためマモル以外にはエルフと偽っている。


「・・・すいません。不躾な質問でした」

「いえ。大丈夫です」


ルークスはエルフの事情を汲んでくれたようだった。


「その他、何か気づいた点などありませんでしたか?」

「尾行を振り切った後、森の中での話なのですが、不審な馬車を見かけました」


「不審な馬車、ですか」

「道をふさぐように馬車が放置され、回りには何かが争ったような痕跡がありました。雷獣に襲われたようにも見えたのですが、そのときは逃げることを優先して、馬車をどかしてそのまま立ち去ったので詳しくはわかりません」


「なるほど。その馬車は先日自警団が発見して撤去したものでしょうね」

「あ、やはりそうですか。今日その場を通ってきたのですが、馬車がなかったので、もしかしたらそうかな、と思って」


スプラはマモルと事前に決めておいたシナリオ通りに説明を続けた。


「もしかして、あの馬車が尾行していたゴブリンと関係があると困るので、何か情報はないか、助けてもらえないかと相談に来た次第です」

「お話は分かりました」


ルークスは力強く回答した。


「ゴブリンの件でしたら、自警団として対処済です。おそらくお二人が森の中でみたのは雷獣に襲われた盗賊団の痕跡でしょう。森の中の現場の様子では、その場に生き残りがいた形跡はありませんでしたし、町の中に潜んでいた盗賊団の仲間は既に捕らえてあります。今後の移動は安全でしょう」

「本当ですか?それはありがたいです」


「もし心配であれば、自警団の定期巡回がありますのでそれに同行して移動されてはどうでしょうか?」

「・・・お願いできますか?」


「ええ。明日の午後になってしまいますが、それでよければ」

「大丈夫です。お願いします」


「分かりました。では、町の門のところでお待ちください。巡回担当者がそこでお二人と合流しますので」

「ありがとうございます」



スプラとマモルはその後安全な宿の場所を訪ね、町の案内図をもらってから自警団建屋を後にした。


「問題が解決してよかったです」

「スプラの言う通り、自警団が対処してくれていたんだね」


「ええ。明日の帰りに同行してくれるというのであれば安全です。今日は一日時間ができたので、町を見学していきましょう。かくいう私もそんなに詳しくはないのですけどね」

「いいよ。そのために案内図ももらったし。でも、まずは宿を確保してからかな?」


「そうですね。教えてもらった宿はこの辺りみたいですね・・・」


午後は案内図をみながらスプラと二人で町をぶらつこう。

まるでデートみたいだ。こんな一日もいいものだな、とマモルは思った。


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