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第二十九話 元最強戦士逆説教される

 陽もすっかり傾き日没も間近の時間になろうとしていた。

 ジェイクはいつものようにカーミラの店に行くのだが、扉に『臨時休業』と言う張り紙がされていた。

 舌打ちをするが仕方がないので、今日は食品店で買って家でやることにした。


 買い物袋一杯にビール瓶をぶら提げて歩く。辿り着くのは4階建てのおんぼろアパート。

 ところどこ剥がれ落ちた壁の煉瓦、今にも崩れ落ちそうなその建物の一階、角部屋がジェイクの住処だ。

 もう、20年も変わらずに住んでいる。

 ボロではあるが妙に居心地が良くて、他の住人もそうなのかもう15年近く顔ぶれが変わらない顔見知りであるが、適当に挨拶を交わすくらいで深い交流はない。

 きっとジェイクと同じように、そんな距離感が丁度良いと思っているのだろう。


 外気との温度差で冷えたビール瓶に汗が滲み始める頃、アパートの前まで来ると人影が見えた。

 ジェイクは顔を顰めると、歩く速度は変えずにゆっくりと近づいて行った。


「こんな所でなにをしてるんだ? て言うか、なんでうちを知ってんだ?」


 アパートの前に居たのはカイルだった。

 カイルはなにも答えずにジェイクのことを睨みつけている。


「どうせミランダにでも聞いて来たんだろう」


 溜息交じりに言うと、カイルが口を開いた。


「てめえ、辞めたって本当かよ」

「ああ、本当だ」

「なんでだよ?」

「おまえには関係ないだろう」


 そっけなく返すと、カイルは明らかに苛立ちジェイクのことをさらに睨み付ける。

 やれやれといった感じでジェイクは頭を横に振ると袋の瓶ビールを一本取り出しカイルに差し出した。

 カイルがそれを受け取ると、自分も一本手に取って蓋を開けて一気に飲み干した。

 その姿をカイルは惚けて見ているのだが、ジェイクはもう一本手に取ると言った。


「どうした? 遠慮せずにやれよ。まさか、未成年だからやったことねえなんて言わねえよな?」

「あ、当たりめえだろっ! 舐めんじゃねえっ!」


 ジェイクに煽られて、カイルは蓋を開けると中身を一気に飲み干そうとするのだが、慌てて飲んだ為に咽て咳き込んだ。


「おいおい、無理してんじゃねえのか?」

「う、うるせえ。変なところに入っただけだよ」


 そう言うと、再び飲み始めるカイル。

 ジェイクはそれをにやにやとしながら見つめていた。


 アパートの入り口の階段に、離れて座る二人。

 しばらく無言で、ちびちびと酒を煽っているのだが、再びジェイクの方から話し始めた。


「止めに来たのか?」

「は? 止めてほしいのかよ? まさかおまえ俺が泣きながら、やめないでくれ~とか、あんたのおかげで俺は改心できたんだとか言いに来たとでも思ってんのか?」


 今度はカイルの方がにやにやと笑いながらジェイクのことを煽る。

 ジェイクもそれを、まさかと笑い飛ばした。


「まあ、ひと月ほどだったが、単純に俺には向いてねえ仕事だと思ったから転職するだけだ」

「たった一ヶ月で、向いてるか向いてねえかわかるのかよ?」

「わかるんだよ。こんだけ生きてりゃ自分の向き不向きなんてのは」

「くだらねえな……」

「あぁん? なんだって?」


 カイルは持っていたビール瓶を投げ捨てると立ち上がりジェイクのことを見下ろした。


「ようするに逃げるじゃねえかよてめえ!」

「なんだと?」

「ああだこうだと俺に説教垂れてよ。結局てめえは逃げ出したんじゃんねえか。ちょっとばかし嫌なことがあったからって、我慢もしねえですぐに諦めちまったんじゃねえかっ!」


 大声で罵倒してくるカイルのことを見上げながらジェイクは笑った。


「なんだ? そうやって煽れば俺が乗せられて撤回するとでも思ってんのか?」

「それだよ。俺の前ではそうやって大人ぶって、したり顔で余裕を装ってやがる。てめえ何様だよっ!」

「もういい。そもそも俺とおまえは親子でもダチでもなんでもねえ赤の他人だろうが。助けてやったのも仕事だったからだ。その仕事ももう辞めたんだ。てめえと俺は赤の他人だろうが」

「俺はてめえに助けられたなんて思っちゃいねえ。助けてもらいたいとも思ってねえ。てめえはっ! 本当に、助けてもらいてえと思ってる奴らのことは放っておいてよ。てめえは逃げるのかよっ!」


 カイルの言葉にジェイクはハっとする。

 本当に助けてもらいたいと思っている奴、それが誰なのかジェイクの脳裏を過るその人物の姿。


「あいつは……あいつはそんな弱い奴じゃねえ……。俺の助けなんて」

「おまえらから見たら俺は子供かもしれねえ、赤の他人の糞餓鬼かもしれねえよ。でもよ、お前らは仲間だったんだろ?」

「その仲間を追い出した野郎だ……」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ! だったらいい気味じゃねえかよ。あの糞校長が困ってる姿を間近で見れるんだぞ。そんでもっててめえが、あの糞みてえな学校の、勇者ラルフでさえ変えられなかった糞みたいな生徒どもを叩き直して、まとまな学校にしてみせたらよっ! そんな気分のいい復讐はねえだろうがっ!」


 ハンマーで思いっきり頭をぶん殴られた気分だった。

 この糞餓鬼、とんでもねえことを言いやがると思うのと同時に、ジェイクはふつふつと込み上げてくる笑いを止めることができなかった。


「おまえ、何も反省してねえ。はははっ! とんでもねえ糞餓鬼だ」

「そうだよ。昔の事をいちいち後悔して、てめえみたいな糞みてえな人生を歩む気なんてねえからな」


 そう言うとカイルも笑って見せるのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  カイルもいうようになりましたね。ラルフの困っている姿をまじかで見られるなんて煽り方をするとは、彼も成長しました。  ある意味校長でもできなかった生徒の更生をジェイクがすれば、確かにいい面当…
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