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黒い勇者の溺愛  作者: 瑪々子


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2人の幸せ

ザカリーは少し言葉を切り、エレノアを見つめた。


「あの時、俺の手当てをしてくれた君の、炎のような緋色の髪が目に入った時、伝え聞いていた緋色の髪を持つ一族の末裔だとすぐにわかったよ。


できることなら、君ともっと一緒に長い時間を過ごしたかった。だが、君のところに留まり、俺を裏切った腹心に見付かれば君の命まで危険に晒してしまう。

身体が動けるくらいに回復して、ちょうどニコラスが俺を見付けてくれた時に、君の元を離れてニコラスと合流した。


君が傷付くことがないように、君の住むキディス村には魔物が襲って来ることのないようにしたよ。…矛盾するように聞こえるだろうが、俺の配下の魔物をある程度あの村の周りに配備して、敵対する魔物たちを寄せ付けないようにしたんだ」


「そうだったのですね。…魔物がかなり増えてからも、私の住む村が無事だったのは、ザカリー様が守ってくださったお陰だったのですね」


「だが、祖先の誓いは守れなかった。俺が制することも出来ないままに、一部の魔物の反目を許す形になってしまった。…俺の力が足りなかったからだ。


黒竜側も、様子を見ながら味方を増やして、しばらくの間は力を蓄えていたようだ。一気に奴らが反撃の狼煙を上げ、狙いを定めたのが王都だ。この世界で最も大きなこの国で、核になっているのはあの場所だからな。王都の近くで魔物が増えてから、とうとう人間たちも対策に乗り出した。多くの能力者を集めて、魔物たちから王都を防ごうとした」


エレノアは頷いた。フィリップが王都に向かったのは、ちょうどその時だったのだろう。


「魔法が使える多くの人間の能力者が魔物討伐に乗り出したお陰で、俺たちに反発する魔物たちの力を大分抑えられたのだが、それでも彼らとの戦いには長い時間を要した。


ようやく姿を現した黒竜と対峙した時、…さすがに、あれの力は他の魔物とは一線を画すのだが…、命知らずの冒険者たちが何人か、奴に戦いを挑んでいた。


俺はひどく驚いたよ。その中の1人から、君の力を強く感じたからだ」


「それが…フィリップ様だったと?」


エレノアは、祖母が生前に話していた、緋色の髪の持ち主に宿る力を、ザカリーの話からようやく理解しつつあった。


「ああ。

俺は内心、歯噛みしたよ。…君の心が他の男に奪われてしまっていたのだから。


だが、俺がもう一つ驚いたのは、君があの男の…フィリップの、変わった魔法にかかっていたことだ」


「私が…フィリップ様の、魔法に?」


エレノアが驚きに目を見開くと、ザカリーが頷く。


「フィリップ様は、治癒魔法が使えるとは仰っていましたが…」


「フィリップの魔法は、確かに治癒魔法ではあるのだが、その核となる能力は少し異なっている。彼は、人の意思をある程度操れるようだ。…非常に珍しい能力だ」


「…?」


戸惑った表情を浮かべるエレノアに、ザカリーは穏やかに続けた。

「人間の身体の回復能力というのは、身体それ自体だけではなく、人の意識自体が大きく関わっている。

自分が回復すると、強く確信している時。その強い気持ち自体が、実際の病や、怪我の回復を大きく促すんだ。

例えば、これは極端な例だが、まったく効果のない薬だったとしても、効くと信じて飲めば身体が回復することもある」


「…ええ、私もそのような話を聞いたことはありますわ」


「フィリップは実際に治癒魔法も使えるが、きっと無意識にだろう、その意思を操る能力を併用しながら、高い治癒魔法の効果を上げていたようだ。


彼の力は、禁忌の力と呼ばれる力の1つだろう。

ある者の心を、それと意識して自分に向けさせることは非常に困難だ。一度に複数人にかけることは、いくら高い能力があったとしても難しい。君の心を彼に向けるように、彼は恐らく君だけに魔法をかけていた。何らかの道具を通じて。

…君には、何か思い当たる節はないかい?」


「1つだけ。もしかしたら…あの、フィリップ様がくださった髪留めは…」


エレノアの声が少し震える。


「だが、魔法をかけた者が命を落とせば、その力は失せる。


フィリップは、一度は俺の目の前で黒竜に胸を貫かれ、絶命した。彼の君にかけた魔法は解けた筈だった。

…だが、俺が黒竜を倒し終えて君の元に向かうと、君はフィリップの死に俯き、涙を流していた」


「…。

それが、あの夜の教会で、ザカリー様が来てくださった時だったのですね…」


ザカリーは小さく溜息を吐いた。

「俺はフィリップを見た時、彼が纏う君の力を誤解していた。彼は魔法で君の心を奪い、そして君の力を利用して、彼の魔法の効力を増大させているのだろうと。

…確かに、そういう面もあったのかもしれない。

だが、彼の魔法が解けても、君は彼を想っていた。あの時の君は、フィリップのことを、魔法などなくても心から愛していた」


エレノアはしばらく俯いてから、小さな声でザカリーに尋ねた。

「ザカリー様は、なぜ、そんな私のためにフィリップ様を蘇らせたのですか?」


「…君も、気付いているとは思うが。

彼を蘇らせたのは、俺ではなく君の能力だ。ただ、君はあの時、君がフィリップを生き返らせることのできる力があるとは知らなかった。俺は、ただそれを知らせたに過ぎない。


そんなことをしたのは、君の心を取り戻したかったからだよ。


…死者が相手では、君の心を奪い返すのは難しかっただろう。死によって、その存在も、彼に対する君の想いも昇華される。特に、君のような一途な気持ちの持ち主の場合にはね。

だから、俺はフィリップを蘇らせて、それから、君の心を取り戻せるよう挑むしかなかった」


エレノアが目を伏せて頷くと、ザカリーは続けた。


「君が彼を生き返らせると何が起こるかまでは、俺は知らなかった。


その後に俺が目にしたのは、フィリップがまた黒竜の元で攻撃を受けようとしているところだった。俺は、慌てて彼への黒竜の攻撃を防いだ。

…フィリップが蘇っても、また命を落としては君の祈りが無駄になるからな。

俺はそれまで、黒竜に裏切られて以来、ニコラス以外の者とは行動を共にしていなかった。だが、フィリップと、奴が伴っていたメアリは、仕方なく、また黒竜を倒すまでは行動を共にした」


「だから、ザカリー様はフィリップ様たちと一緒にいらしたのですね。そして、フィリップ様は勇者の仲間として、英雄とさえ呼ばれるように…」


「そうだな。

君が彼に与えた力の為に、彼の魔法の能力が他の者に比べたら際立っていたことは確かだが、結局、俺がフィリップの治癒魔法の世話になることはなかった。


だが、皮肉なものだな。俺が魔物を制御しきれずに魔物が国中に溢れたせいで、能力のある冒険者が注目されるようになり、俺まで勇者などと呼ばれるようになったのだから。


…フィリップは、信じられないほどに愚かだった。

君のような素晴らしい女性にあれほど愛されていながら、メアリにうつつを抜かす奴を見て、必ず君の心を取り戻そうと心に誓った。


いつか、フィリップと決着をつけなければならない、それはわかっていた。

でも、俺もなかなか決心がつかなかったよ。君の力がフィリップに与えられているということは、君の心が彼にあるということを表していた。

フィリップがメアリと結婚するとはいえ、君の心がフィリップに攫われたままだったらどうしようかと、不安でならなかった。


あの日、多くのガーゴイルが現れただろう?どうやら俺の不安に呼応して、俺の配下の一部である彼らが俺の様子を見に来てしまったらしい。

…驚かせて、すまなかったな」


エレノアは、フィリップに会う前の、ザカリーの陰った表情と、そして空を覆ったガーゴイルの大群を思い出していた。

…あれは、そういうことだったのね。


エレノアは、くすりと笑ってザカリーを見た。

ザカリーは少し頬を染めて顔を伏せている。


「俺にも余裕がなくてな…。不甲斐ない姿を君に見せてしまった。


フィリップを蘇らせるのは君と引き換えだと言ったのも、君を俺の近くに置く理由が欲しかったからだ」


エレノアはそんなザカリーを見上げると、そっとその両腕をザカリーに絡めた。

「…エレノア?」

驚いた様子のザカリーに、彼女は微笑みかけた。


「…あの時、ザカリー様とフィリップ様がそれぞれ、私に手を差し伸べてくださった時。


私、ザカリー様の手を取ることを、まったく迷いませんでした。…自分でも、驚くほどに。


フィリップ様のその魔法の影響だったのか、それとも過去の私の彼への想いが自分を縛っていたのかは、わかりませんが。

きっと、フィリップ様に長く繋ぎ止められていた感情から、ようやく解き放たれて自由になったのが、あの瞬間でした。


…私の心からの気持ちが、今はザカリー様にあること、ザカリー様もご存知でしょう?

私を貰い受けてくださった、ザカリー様の元に。これからも、ずっと」


ザカリーもエレノアを抱き締め返した。

「君だけを大切にするよ、エレノア。

この命にかけて、君を幸せにすると誓う」




幸せそうに抱き合う2人に気付かれないように、ニコラスはそっと気配を消した。

…なぜか、主人が甘い空気を漂わせている時に、彼らによく出会してしまう自分に苦笑しながらも、ニコラスは心の底から喜んでいた。


もう1人の側近に裏切られ、身も心も傷付いた主人をようやく探し出した遠い日に、主人は新しい宝物を見付けたように、その瞳に希望の光を灯していた。

主人の想い人であるエレノアは、優しく思いやりがあり、穏やかで素直な、そしてどこか年相応の隙が可愛らしい、ニコラスにとってもとても好ましい少女だった。


これから、そんな2人に仕えられることを嬉しく思いながら、長い長い主人の片想いを一番近くで見守っていたニコラスは、心の中で、改めて2人の永遠に続く幸せを祈った。

読んでくださってありがとうございます!

ブックマークや評価、いつも励みにしています。

次回が、フィリップ視点の最終話になります。

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