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スキルαの日常  作者: 長月よる
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いつもの風景

 戦場に佇む一羽の鳥を見て、超能力犯罪者たちは戦慄を覚えていた。主人を背に乗せ空中を支配するその鳥は、全身に火を纏い――全身が炎で形作られ、その様は伝説上の生き物である鳳凰を彷彿とさせる。

 我々の周りは火で囲まれており、何より目の前に居る存在が逃げることを判断させない。それほどの威圧感と目を開けているのがやっとの熱量を放ってその者たちを釘付けにしていた。


――周囲から爆音が鳴り響く。分断された他の犯罪者たちが抵抗むなしく各個撃破されている。そして最も力ある五人の集団はそこから移動する事ができず、援護に回ることを許されない。

 不意に、息絶え絶えだった一人がその場に膝をついた。先の戦闘で全員が極端に消耗しており、このままでは全員が共倒れである。しかし、下手に動けば目の前の存在に的にされてしまう。


 目の前の存在は待っているのだ。仲間たちを各個撃破した増援が来ることを。我々が諦めて降伏することを。もしくは、我々が決死の抵抗をすることによって力を振るう機会が訪れることを。


――ここまで、か。


 そう諦めそうになった時、目の前の存在は集団のリーダーである私に語り掛ける。


「貴方がリーダーなのでしょう? 決断なさい」


 凛とした彼女の言葉は、戦場と化した平原に、そして私の心に溶けるように響く。

 私は、振り返って自分の周囲を見つめる。苦しそうな表情で私を見る者、そんな余裕すらない者、そしてまだやれると言外に伝えて来る者。この戦いが始まる前であれば、絶対に降伏など考えなかった。使命と私欲が入り混じったような中途半端な組織だったが、そのトップとなって考えることが増えるようになった。何も怖くなかった私は、守るべき者が出来るようになった。


「……降伏する」

「な……!」

「頭≪かしら≫!」


 私は失うのが怖くなってしまったのだ。目の前の――例えるなら異次元の存在である彼女と戦うことが恐ろしくなってしまったのだ。確か、彼女の名は――


 我々はその周囲に居た取り巻きに拘束される。同時に、近くで抵抗していた仲間たちがボロボロの状態で集まって来る。当然、捕縛されており、戦っていた相手は無傷であった。


「流石は――」


――スキルα≪アルファ≫、取り巻きの軍人が彼女たちの名をそう呼んだ。


 スキルα、その言葉にふと思い出した。炎鳥を生み出し、操る彼女の名は「一条冬華」≪いちじょうとうか≫。この国で最強とされる超能力者である。






「ご苦労だった」


 目の前には味のある木製の執務机に座る男、彼は書類に視線を落としながら私たち労う。その男を前に私たち「スキルα」は整然と並んで待機している。


 机に肘をついて若干斜めに体を逸らしながら私たちの提出した報告書を読むのは、軍の超能力者――通称“SPs”と呼ばれる者たちの人事に大きくかかわり、私たちスキルα直属の上司ということになっている「小沢大佐」である。

 正直、私こと一条冬華には関わりが少ない人物である。上司というのもあまりピンときていない。

 この男、あまり感情を表情に出さないタイプである。そのため、何を考えているか分からないから苦手と感じてしまう。何やら黒い噂の多い人物としても有名だが、何を企んでいるのやら。


「うん、良く分かった。もう下がってもいい」

「では、失礼します」


 私は隊を代表して敬礼を返す。すると横に並ぶメンバーも敬礼してから、私を先頭に踵を返して部屋の外へ向かう。


 ここはとある軍事基地。既存の兵器や軍人、SPs、そして私たちのような特殊部隊が混在している。本来、効率の観点からそれらは別々に配置されるが、この基地では小沢大佐を中心とした新たな試みの場所として存在している。

 しかし、この場所は軍による一般向けイベントとしても利用されており、私たちスキルαの存在意義もその意味が強いと仲間が分析していた。

 よって、ここは比較的緩やかな空気漂う場所である。指揮を執るのが小沢大佐でなければ、私たちとて危険な任務に加わることは限りなく少なかったのではないだろうか。


 とかく私たちは、通常時には自主訓練をしながらまったりと過ごすことを許されている。いくら超能力者による犯罪が多いと言っても、基本的には警察が対応することになっているし、警察の手に負えない事態というのも少ない。そうなった場合、積極的に投入されるのが私たちスキルαだが、いつもは暇を持て余している。


「ああー……、半年でいいから休みにならないかなー……」


 寮に戻った私は、特に何も考えずにソファーでだらけながらいい加減なことを口走る。

 ここは、スキルαの専用寮である。居住スペースには自室とリビング――本来は点呼を取るなど各員が集合するためのスペース――が設置されており、その辺のアパートよりもよっぽど広い。さらに作戦室などの軍事施設や隣接した別棟に大きな訓練施設が備わっており、これらは全てスキルα専用の施設である。

 かなりの好待遇だが、実際には芸能人でも迎えているような扱いだ。


 私がボケーっと天井を眺めながら寛いでいると、視界に影が差して何も見えなくなる。すぐに目がピントを合わせるが、そこには隊の副リーダーを務める「伊集院美知留」≪いじゅういんみちる≫が眉間に皺を寄せて私を覗き込んでいた。


「馬鹿なこと言ってないで着替えてきなさい」


 美知留の指図に、私は不服を訴える。


「えー」

「えーじゃない! ほら恵も――」


 美知留に腕を掴まれ強引に起こされてしまった。彼女はそのままカーペットに寝そべっている他の隊員の下に向かう。

 面倒くさいが叱られてしまったので、仕方なく自室を目指し気怠さ押して階段を上る。寮の最上階となる二階には私たちの部屋があり、リーダーの私は階段を上ってすぐにある一番手前の部屋だ。まあ、移動距離が短く楽で良い。


「はあー。さっさと着替えよ」


 自室の扉を開けると、殺風景な部屋が目の前に現れる。大きめの机にセットの椅子と別で買った椅子が収まっており、机の上に置かれている額に入った全体写真には七人がそれぞれ違う表情して映っている。


 服を出すためクローゼットを開けると、部屋着が数着入っているが、全体としてこのクローゼットの大きさに合うほど衣類は入っていない。むしろ私服を殆ど持っていないのだ。最近は少しずつ増えており、クローゼットの空間が減っていくことがちょっとした楽しみに変わっている。


 任務時とは一転して冴えない頭に、不意に何か気持ち悪さのようなものを覚える。今日は何かあったような、何か忘れているような――


「――あっ……忘れてた!」


 任務で忘れていたが、今日はアレが届く日ではないか。内緒でお願いしている手前、メンバーにバレると大変なことになる。

 私は大急ぎで軍服を脱ぎ捨て、目に付いた服を着て部屋を飛び出た。




「冬華、封筒が届いていますけど、何ですか? これは」


 事を端的に言えば――間に合わなかった。

 美知留が封筒を手に取って不思議そうに眺めている。この場には自主練に行った「鈴木明乃」≪すずきあけの≫以外のメンバーが揃っている。穏便に済ませなければ――


「い、いや、個人的な物でたいしたものじゃないよ。とにかく、ありがと――」

「写真?」


 封筒を静かにジッと眺めていた「二道恵」≪にどうめぐみ≫が唐突に口を開いた。その言葉を聞いて、私の肩は大きく跳ね、ドキドキと心拍が加速する。当然、他のメンバーは恵の言葉に疑問を持ち、わが隊一のお調子者がその意味を問いかける。


「どゆこと?」

「差出人に工藤星羅≪くどうせいら≫ってある。この名前は高一が行ってる学校の生徒会長と同じ名前」

「あ?」


 恵の説明を聞いたお調子者――宇崎凛≪うざきりん≫の声色は、怒りを帯びてそのトーンを下げる。

 言い訳は不可能だと瞬間的に悟った私は、美知留からその封筒を奪い取ろうとするがあっさりと交わされてしまう。

 追及はさらに強まる。


「なるほど。つまりこの中には高一の写真が入っていると」

「冬華の反応を見てもたぶんそう」

「おい」


 私は苦笑いしながら後ずさりし、壁にぶつかるまで後退した。ぶつかって驚いた私は反射的に壁を見るが、顔を正面に戻すまでもなく主に凛からの威圧感を感じ取る。

 このままではマズイ。そう思い、意を決して言葉を返す。


「い、いやー……ね?」

「ね? じゃねーよ冬華!」


 怒り狂いながら私に掴みかかった凛を引き剥がそうとしていると、視界の端で美知留と恵が勝手に封筒の開けているのが映った。


「ちょっ何勝手に――」

「あんた抜け駆けしやがったな!」


 リビングは各自がヒートアップしているせいでカオスと化している。しかし、そんな雰囲気の中で唯一冷静な最年長メンバーが口を開く。


「皆さん落ち着いて下さい。ほら、凛さんも落ち着いて――」

「うっさいババァ!」

「ババ、ア……?」

「あ……」


――瞬間、世界は凍り付いた。身体の芯まで凍り付かせる笑顔を浮かべる小山祥子≪おやましょうこ≫によって。その場にあった怒りなどの感情は勢いを失い、完全に静止した。


 静止した怒りは恐怖となってその場に満ち始める。


 ガクガクと身体中が震えだした凛の手をどかし、その身体を祥子に向けつつ凛の頭に手を回し、私の身体と一緒に前へと倒した。


「ごめんなさい」

「ご、ごめ、ごめんなさい……」


 涙声の凛と事の発端である私は、吹雪のような威圧感を放つ祥子に最敬礼で謝罪する。すると祥子からその圧が消え、空気が弛緩したのを肌で感じた。


「まったく……もういいですから。それより――」


 私はその次の言葉に従わざるをえなかった。




「いい感じですね」

「ええ、冬華も最初からこうすれば良かったんですよ」

「うぅ……」


 リビングの壁に掛けられたコルクのボードには、とある少年の写真が留められており、それを全員で見つめている。

 祥子の提案は、全員が見れるようにリビングに写真を飾るというものだった。本当は独り占めしたかったが、問題を起こした私を全員が見つめるため、断ることができる雰囲気ではなかった。


 ちなみに、祥子の激怒が収まった頃、見計らったかのように明乃は戻って来た。そのため、彼女だけは訳も分からないまま、私に視線を向けていたことになる。普段は空気なんて読めないのに、こういう時だけはしっかりと周りに合わせてくる。


 それはそうと、写真には彼以外の男女も映っている。それを眺めながら各々が独り言のように口を開く。


「友達ができたんですかね?」

「でしょうねぇ。先生の弟さんかな? ふふ、良かった」

「なんですかねこの女。高一に馴れ馴れしくして……」


 美知留と祥子は微笑ましく写真を眺めているが、凛はちょっとピリピリとしている。彼女は最初あった時から随分と立ち直るのが早くなった。

 彼の背後には教室など、学校の一部が映っている。それを見て、この写真には写っていないが、彼と同じ学校に通っている最愛の妹のことが頭を過った。


「氷雨とはもう会ったかな?」


 私を含めた皆は写真を眺めながらも、焦点はその後ろ――それぞれが持つ過去の思い出を思い返すように見つめていた。

この作品はサブストーリー的なものになります。(本編が投稿されているとは言ってない)

まあ、要望があれば本編投稿も考えますが、ストーリー的に納得いっていない感じでして……

ともかく、今回はお読みくださりありがとうございました。今後も投稿するつもりなので、よろしければそちらも見て行って下さい。

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