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R P G

作者: 門林賢道

「おお、おっ。練習サボってファミコンたぁ、いいご身分だなぁ。オイ!」と、憤慨しながら断りもなく人んちに入ってきたのはベース担当の森山だった。

その無遠慮さ加減は、こいつ闇金の集金屋でもやってんじゃねぇかと思うくらいだ。


「なに勝手に入ってきてんだよ、チャイムかノックぐらいしろよバカ!SEXしてたらどーすんだよ!」


「逆ギレっすか、人を待たせて逆ギレっすかっ!こっちはベースとドラムの二人で練習して、さながらリズム天国ですよ。ケータイ繋がんねーし、ラインも返ってこねーし、新種の嫌がらせか?地味な復讐か?俺たちはお前に怨まれるようなことを何かしたかね」と言いながら、背中に担いだベースをおろし、無数に散らばったゴミを足で蹴り上げスペースを作り畳の上にあぐらをかいた。


「スタジオ来んとドラクエ2なんてやってんじゃねーよ!むしろSEXしてた方が許せるわ」


「俺も好きでやってんじゃねぇんだよ!それにスマホはご覧の通り」とテレビ画面から視線をそらし、ちゃぶ台の上に置いてあるスマホに視線を向けた。


「おー。液晶のヒビが斬新なデザインだな。この中央の陥没から広がる放射線状のヒビがアバンギャルドだねー」と、たいして美味くもねぇメシなのに、グルメリポーターが大袈裟に褒める感じが小賢しい。


「お前のスマホもパンクなデザインにしてやろーか、案外簡単だぞ」


「スマホと言い、壮絶に荒れた室内と言い、また夫婦ゲンカか」



夫婦ではないが二年近く同棲している彼女がいて、彼女は怒ると尋常じゃないくらい凶暴になって破壊と暴力の限りを尽くす、傍若無人のデストロイ・ガールに変身するのだが、普段はその分の利息を賄うほど、ものすごく甘くてエロくて優しくて、炊事洗濯も細やかにこなし、家計の大半を支えたりしてくれる、この夢見がちな三文音楽家風情には出来すぎた彼女だ。


「ハリケーン通過後みたいな惨状の原因はなんだよ」


「この前実家に帰ったときに親父がやってたファミスタやらファミコンのカセット発見したのな、それで本体と一緒に持って帰ったんだ、そしたら麻友がさ、あたしもゲーム買って来るつって、こともあろうにドラクエ2を買ってきたわけだ」


「もしかして」


「その、もしかしてだよ。間違っちまったわけさ。俺が。書記係の俺が。それで恐怖の大王降臨ですよ。テメェは字もロクに書けねーのか!」ってな。


「麻友ちゃん、そのくらいでキレる子じゃねーだろ」


「あいつは、それくらいでキレるぞ。この前もコンビニの店員に話かけただけで本イキでケツ蹴られてたんだぞ」


「やきもち焼いて可愛いじゃねーかよ」


「違うんだよ、信用されてねーんだよ。なっ。ドラクエの時もよ、また最初からやればいいじゃん、つってた時に、ラインが鳴ったのな。でも大したことじゃねーだろ。そんなこと」


「誰からだよ」


「この前のライブに来てた巨乳の子がいたろ」


「出待ちしてた3人組の1人か」


「それ。で、その子に俺のラインID書いた紙渡しといたんだよ」


「クズ過ぎてオチ聞きたくねーよ」


「モテるために音楽やってんだぞ!ダッセーリズム隊との地道な練習もご褒美があるから頑張れるんだろが!」


「しれっとディスってんじゃねーよ」


「俺が愛してんのはお前だけなんだよ!つっても止まんねーんだよ。もう王蟲だよ。赤い目した王蟲だよ。そんだけ強いなら、お前が直でラスボス殺れよ!装備なんて包丁一本で殺れるよ!って言ったら、さらにキレられた」


「バカだなぁ、お前は、いっつも一言多いし、復活の呪文はダブルチェックが基本だよ。まぁー、俺もむかし、最後の最後で間違ってドラクエ叩き壊したけどな、まあ、やり直せばいいじゃん」


「だから、やり直してんだよ!よりにもよって三人とも最高レベルまで上げて、フル装備でよ。しかも、それまでの復活の呪文はゴミ収集車に持って行かれた後だし、大体なに万全の体制で挑んでんだよ。って思うじゃん、人類からしたら、すでにこの三人の方がラスボス以上の脅威だから、ラスボス倒したら、絶対にコイツら城の地下に幽閉されるか、晩餐会で毒殺か寝首掻かれて殺されるってのに、そんなことも露とも思わないバカ三人組は意気揚々と最後の復活の呪文が聞けるほこらまで旅ガラスよ。もう、復活の呪文書くのが嫌だから不眠不休の電源いれっぱで、ずっとしてますよ、だいたいロープレとかめんどくせーから、俺の人生から排除してきたのに、もうゲームなんて脱衣マージャンだけでいいんだよ」


と自分でトンデモ発言してるのはわかるが、もう不眠のストレスで、割り箸が上手く割れなかったくらいで、もう弁当いらない!って怒る人くらい、きわっきわにいる感じはする。


「でも、脱衣マージャンはインチキだろ、一枚目は簡単に脱ぐくせに、二枚目になったらいきなり役万かリーチ一発だぜ。それと力を貸してやりたいが、残念ながらあれ以来トラウマになってロープレを避ける人生になった」


確かに森山とはウイイレ以外やったことがない。


「頼りにならん奴だな。そう言やあウチのドラムはどーしたよ」


「コンビニ寄って来るって」


「じゃあ、食いもん買って来いって電話してくれる、考えたらなんも食ってない気がする、つーか頭が回んなくて、ずっとダンジョンをグルグル回ってる気がして、いつの間にかレベルが最高値に達してんよ」と、かれこれ数時間、方向音痴な俺がもっとも苦手とする3Dダンジョンをさまよい続け、知らない間にレベルマックスになっていた。


「さすがに、もうコンビニ出てるから無理だろ、それより、麻友ちゃんはどーしたよ」


「最後のほこらまで行ったら迎えに来いって」


「なんかカッコイイ」

「カッコイイか?」


「ゲームの中で世界を救う使命よりも、恋人を迎えに行く使命のほうが断然カッコイイじゃん!」と、目を輝かせる、こいつを見て歌詞を書く奴はロマンチストだなと思う。


「いやぁ、結婚してて相手の実家に行くのはいいけど、同棲してる身分で迎えに行くのは、かなり気まずいぞ、正直このダンジョンから抜け出したくない気もないではない」


「もう、両親に挨拶して結婚だな、それでお前の今後の人生は毒の沼地に入ってHP減りまくるわけだ、うわー、そう考えるとゲームのラスボスなんて屁みたいなもんだな。成すすべなく毎日地味にHPを減らされてく方がヤダよな」と真冬のオホーツク海に全裸で放り投げられるような発言をしやがる。


「やなこと言うなよ、それに同棲するときに挨拶しに行ったし、近所だから二人で行くこともあるし、この間は向こうの親父さんと二人で釣りにも行ったよ」


「釣りってまったりしてて気まずくないか」


「かなり気まずいぞ、竿を並べてぽつぽつ質問とかされて、警察はあの尋問方法を採用すべきだな、あん時に言わなくていいようなことも言った気がする」と、ちょっと大人のビターな出来事を思い出した。


「そうか、そうか、決まりだな」と森山の中で何かが発動したのか、覚醒したのか、自分のスマホを出すと、親指で液晶画面を素早くスライドさせ、「もしもし、今どこ?ああっ?まだコンビニ?どんだけエロ本コーナー好きなんだよ、お前はエロ本鑑定家か?性の探求者か?人妻物か素人物か迷ってるって?知らねぇよバカ。じゃあさ、ここ来るまえにケーキ屋に寄って、ケーキ買って来てくんない、なんでもいいよ適当に八個ぐらいか、見栄えのいいやつな、あっ。待った、やっぱショートケーキのワンホールの方がいいや、デラックスな感じのやつで、そうそう、デラックスなやつ。そいでさ、誕生日おめでとう的な感じでプレートに「結婚してください」って書いてもらうように頼んでくれる?」


「おいおい、お前なに頼んでんだよ。ちょっと代われ、もしもし、俺だけど、いや、説教は後でいいから、今日の一冊を吟味してるお前の説教は、キャバクラでキャバ嬢に人生について説教するくらい、いらないし、ケーキ屋の件も無しな、それと何か食いもん買ってきて、いやいや、ケーキはいいって、俺が食いたいものとケーキは方向性が違うわけ、意に反するわけ、コンビニの弁当でいいから、はいはい、すいませんでした、あとで理由は話すから、じゃあな」とスマホを切って森山に投げた。


「これ最後のダンジョンじゃん、ここ抜けたらお前の仕事は終わりだよ。そうしたらお姫様のために手土産ぐらい持ってかないとダメだろ」


「だからってプロポーズはないだろう、三段跳びなのに二段目で最長飛距離を出すような、やんちゃさは装備してねーぞ」


「いい加減、おまえ自身もダンジョンから抜け出して腹くくれよ、もう付き合って三年目だろ、時期的にもいいんじゃねぇの?俺は今までお前の彼女を何人か見てきたけど、麻友ちゃんが一番お前に合ってるよ、彼女もお前のこと大好きだし、それにお前も三年経っても好きなんだろ?」


「好きなんだろ?」と、森山の地声とテレビのスピーカーを通したノイジーな声の気持ちの悪いマルチサウンドが攻めてきた。

「ツーコンのマイク使って訊くなボケ!好きだよ、大好きだよ!そうじゃねーと、せっかくの連休に不眠不休で大っ嫌いなロープレなんてしねぇよ!なんで、当人にも、よう言わんことをお前にコクらなきゃなんねーんだよ!」


「ほら、決まりじゃんか」


「ムカつくほどニヤニヤしくさりやがって、電話貸せ、お前どこいんの?バカじゃねーの、もうエロ本コーナーから離れろ!卒業しろ!それでケーキ屋に寄ってデラックスなケーキに「結婚してください」のプレート付けて買って来い、金は俺が出す、はいはい、罰としてエロ本も買ってやるから」とリズム感だけしか取り柄のないバカに通達して切った。


「いいねぇ、俺たちがこっそり隠し撮りでムービー撮ってやる」と宣言した時点で、こっそりでも、隠し撮りでもないと思うが。


「余計なことするな、つーか付いてくるな」


「ほらドラクエも三人パーティじゃないっすか」


「ドヤ顔しても全然、うまくねーよ」


「じゃあうまいこと言ってやるよ、そのダンジョンな右伝いに行けば出れるぞ」との、アドバイス通り本当に右伝いに行ってたらダンジョンから抜け出せて、ここまでよくがんばったよな!とか、音楽もゲームも心だよなとか、もうハッピーエンドしかねぇよな!とか、二人で盛り上ってたら、ドラムの吉野が来て「一番デラックスでハッピーなやつ買ってきたぞ、で、誰か結婚すんのか?」と、二十人分くらいありそうなバカデカイケーキの箱とエロ本を持ってきた。

こいつはエロ本を片手にケーキ屋に入って「結婚してください」プレート発注したんだろうなぁ。


厚かましい変態だよなぁ。


店員の引きつる笑顔が目に浮かぶなぁ。


それにバカに発注したのが間違いだった。


考えたら自分でケーキ買いに行けばいいだけじゃないか。

その前に俺の弁当どうなったんだよ。


自分のおかずだけ買ってきやがって。


吉野はキッチンのテーブルの上に大きな赤いリボンが付いた白い箱を置くと、

「練習サボってファミコンたぁ、いいご身分だな」と森山と同じことを言って、

「あーファミスタじゃんか!懐かしい、三人でやろうぜ!俺は阪神で、お前らザコキャラだからナムコスターズな、バースなんてバントでホームランだからな」と畳の上に転がるファミスタのカセットに飛びつき、ファミコンの電源を切りやがった。


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