表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書物の姫君  作者: 最中亜梨香
第八章
73/87

7

 アンナは笑顔を作る。

「そちらから出向いてくださるとは思いませんでした」

「部屋が散らかっていましてね。それに、貴女のお付きの兵士は、貴女がこの中に入ることを嫌がっているみたいですから」

 アンナの周りに立つ王宮の兵士は、全く動じない。感情を露わにせず、ただ立っている。

 マイトにとっては、中でも外でも、どっちでも良いのだろう。周りは彼の仲間が大勢いる。地の利は向こうにある。

「ミアもお帰りなさい。レオは元気ですか? 一緒に来たら良かったのに」

 ミアは、彼の言葉の意味が分からず、キョトンとする。

 アンナはこほんと咳払いする。

「マイト様。ミアとレオを助けていただき、ありがとうございます」

「ああ、はいはい。結局逃げられちゃいましたけどね。また戻ってきて、何の用です?」

「革命の調子はいかがですか?」

 世間話をするかのような調子で尋ねる。

「いい感じですよ。順調に戦えています」

「そうですか。ですが、すぐに手詰まりになるでしょう」

 銃声と悲鳴が、風に乗って聞こえてくる。

 アンナは耳を塞いで逃げ帰りたい衝動に駆られながら、何とか平静を装う。

「マイト様、よく考えてください。王宮と神殿、両方を相手にするわけですから、敵の方が数が多いです。人数の差を、銃でひっくり返すつもりでしょうが、きついと思いますよ? 弾丸の補給路を立たれたら終わりです」

 アンナはゆっくりと懐から密書を取り出す。

「貴方は王家と神殿、どちらを先に倒したいですか? 妃殿下は、貴方と手を組み、神殿と王を倒したいと考えています」

 マイトに密書を手渡す。彼はその場で開封し、便箋に目を通す。

「……ははあ。分かりました。では、返事を書きますので、お待ちください」

 その表情から察するに、彼はこの同盟にあまり興味がなさそうだ。

(マイトからすれば、ローゼと神殿が潰しあってくれた方が嬉しいもんね。どちらかが倒れるまで、西地区で籠城すればいいだけだ)

 それじゃあ、とマイトは去ろうとする。その背中に、声をかける。

「ティルクス王国が出兵を決定しました。あと数日でこの国に到着します。着きしだい、同盟軍として助力する予定です」

 マイトの足がぴたりと止まる。

 今、彼は、自分の部下が護衛したレースとヨールのことを思い出しているだろう。

 実際のところ、レース達が向こうに着いたとして、故郷が軍を送るかどうかは、アンナは知らない。まあ来ようが来まいが、今この瞬間は問題ない。彼とローゼの同盟が、成立さえすれば良いのだ。

「ティルクス王国は、この国の一刻も早い安定を望んでいます。軍事同盟を結んだ相手が、内戦していては困るのです。そして、同盟を結んだのは神殿ではなく王家なので、当然王家に協力します」

 マイトは振り返った。その顔に笑みはない。

「貴女は、私の理念に共感してくれていると思っていたのですがね」

「してますよ。ですから、できる事はいたします。貴方が妃殿下と手を組んだ場合、後に合流するティルクス王国軍と共に神殿を滅ぼすことになります。かなり楽になりますよ。消耗も少なくすみます」

 マイトは顎に手を当て、じっと考える。

「……分かりました。前向きに検討します。具体的な案について、詳しく練りませんか? 中で」

「ええ、是非」

 マイトはアンナをアジトへ案内する。アジトの外観は小さな娼館そのものだ。ミアと護衛と共に、アンナは中に入る。

 地下室で、王家と革命軍の『同盟』の詳細を詰める。とんとん拍子で話が進み、すぐに『同盟』の中身が出来上がった。

 マイトからローゼへの返事の手紙を持ち、アンナは西区を旅立つ。市民からの攻撃が止んだ分、帰りは幾分か楽だ。

(よし、『同盟』は結べた。これで戦力は何とかなる。当分は)

 王宮に帰ると、ローゼに同盟が結ばれたことを報告し、マイトからの返事の手紙を渡す。

 ローゼは満足げに頷くと、次の指示を周りの兵士に出す。アンナには「しばらく休んでいなさい」と言った。言われた通り、アンナはミアと共に、その場を離れる。

(さて、ディーアはどこにいるんだろう?)

 近くにいた侍女に尋ねる。しかし、彼女は知らないと答えた。他の人に聞いても、分からないと言った。それに、レオも見つからない。

 アンナは、ミアと顔を見合わせた。

「どうしたんでしょう? まさか王宮の外に出ていかれたとか? でも何故?」

 アンナは最後にディーア達と一緒にいた時を思いかえす。ローゼと王の居場所について話をしていた。

 アンナは大きなため息をつく。

「ミア、王都の地図は持ってる?」

「私は持ってませんが、メディさんが持ってたはずです。どうしました?」

 とりあえず仮初の同盟が結ばれ、一旦アンナは自由の身だ。周りは目の前の戦争のことで忙しく、黒髪の人間に構う余裕はない。今なら勝手にどこかへ行っても、すぐにはバレないだろう。

「白ムギ神殿に行こう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ