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書物の姫君  作者: 最中亜梨香
第八章
71/87

5

 地図の上に、兵士を示す駒が次々に置かれていく。市民を表す三角錐の駒と、神官兵を表す直方体の駒。王宮の周りでは市民と神官兵が入り乱れている。兵士からの知らせで、駒の数は増えていく。神殿の周りは神官兵の、西地区は市民の駒が多い。

「マイトはどこに?」

「私の使用人が知っています。すぐに向かいます」

 アンナは受けあった。レオとミアから聞いた話では、マイトは元からアンナを助けるつもりだったらしい。話し合いに応じてくれる可能性は十分にある。

(まあ、レオとミアが抜け出したことでブチギレてる可能性もあるけども。その時はその時だ。とにかく会わないと)

 この状況が長引くとまずいのは、マイトも同じはずである。神殿の戦力は、よく訓練された大勢の神官兵。大して、マイトの戦力は腕っ節が強いだけの市民達だ。

「問題は、王がどこにいらっしゃるかですね。もし神殿でしたら、とても面倒臭いことになります」

 王が神殿にいる場合、ローゼとマイトは、ただの裏切り者でしかない。王をこちらの陣営へ引っ張ってきて、ようやくエレア王国として、堂々と神殿に戦争をすることができる。

 部屋のドアが開き、兵士が入ってきた。ローゼに耳打ちし、去っていく。

「ちょうど良かった。部下が、王の居場所を突き止めたわ」

 ローゼは冠の飾りがついた駒を、地図に置いた。そこは、王宮からみて北東にある神殿だ。白ムギ神殿と名前がある。

「ここにいるんですか?」

「そうね。守りが厳重で、神殿の中のどこにいるかまでは分からなかったようだけど。マイトと手を組み次第、すぐに神殿を叩かねばならないね」

 アンナは、ちらりとディーアを見た。彼女はなんとか感情を表に出すまいと、無の表情を作ろうとしている。しかし、内心の不安や不満がバレバレだ。

 ローゼは代書人を呼ぶと、羊皮紙に言葉を書かせた。内容は、マイトに王宮への協力を要請するものだ。

 羊皮紙を封筒に入れ、蝋で封をする。それが、アンナに手渡される。

「アンナさん。マイトへの伝令、よろしくお願いしますね」

「はい」

 アンナ達はすぐに準備に取り掛かる。本日三回目の変装だ。市民の格好をし、ローゼが急いで書いた密書を懐に忍ばせる。混乱の隙に逃げてきたミア達とも合流する。

「ミア、マイト様の拠点の場所、覚えてる?」

「はい、覚えてます!」

「案内をお願い。レオは殿下の護衛を頼むわ」

 市民の女性になったアンナは、案内役のミアと、ローゼが派遣した護衛を連れて、王宮の西の裏口から出て行った。

 ディーアは、レオと共に、彼女達を見送った。

 その後踵を返し、早足で廊下を歩く。レオが後を追いかける。

 騒がしい廊下を歩くこと、しばらく。ディーアは、隠し部屋がある倉庫に戻ってきた。そこで、元の簡素な服に戻る。そして、最初にアンナ達と忍び込んだ、あの窓の前までやってきた。

「殿下。どうしてここに?」

 レオは戸惑いを隠せない。

「レオさんは、白ムギ神殿って知ってる?」

「ああ。行ったことがある」

「そこに父上がいるらしい。すぐに行かないと」

 ディーアは窓枠を超え、王宮を出る。元来た地下道へ踏み込む。

「何故だ? 今、外に出るのが危険なことぐらい、分かってるだろう」

「分かってる。でも、このままだと駄目だ」

 きっぱりと言い切った声が、地下道に反響する。

「母上とマイト兄さんは、神殿を倒すために、一時的に協力するだろう。しかし、神殿を倒したその後は、どちらが国の指導者になるかで、また争いが起きる。絶対に、起きる。それを止めたいんだよ。また目の前で人が死ぬのは、もう嫌なんだ」

「……だから、誰よりも早く陛下を見つけようと?」

「うん。母上もマイトも、父上を殺すつもりだ。死なれては困る」

 一心不乱に前へ歩くディーア。

「アンナは、このことをご存知なのか?」

「話してないよ。気づいているかもしれないけど……アンナ、無事に兄さんのところへ行けるといいんだけど……」

 前方に分かれ道が見えてきた。レオは立ち止まる。

「白ムギ神殿でしたら、この左の道だ」

「え、あ、そうなの? ありがとう」

 地下道に、二人分の足音が響く。

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