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書物の姫君  作者: 最中亜梨香
第七章
63/87

8

 メディが牢獄の中にいる王族達の話を語り終えると、次はレオとミアが、脱獄とマイトの革命について話した。ミアが勢いよく喋り、足りていない部分もレオが補足した。

「──なるほどなあ。想像よりも複雑で厄介な事態になっているな」

 メディはそう言って、うーんと額に手を当てた。

「どうやって皆様を助け出しましょう?」

「マイト達が計画を立てていたな。メディ先生、紙を貰えるか?」

 メディは引き出しから紙を出し、机に置いた。

 レオは夜中に盗み聞きした情報を、ミアは掃除中に盗み見た計画書や地図を、どんどん書きこんでいく。

「南東の坂道でアンナ様が乗っている馬車を襲うつもりか?」

 メディの問いに、レオはああ、と頷く。

「ここは道幅が狭いし、路地も多くて逃げやすい。実行犯は馬車の見物客に紛れて待機し、合図で攻撃する。混乱の隙にアンナを救出し、逃亡する」

「ディーロ王子とシャロン王女は?」

「助けない。マイトの計画では、助けるのはアンナだけだ。残る二人は、坂道のど真ん中に取り残される。混乱で暴れ狂う馬車の馬と一緒にな」

 ミアは重いため息をつく。

「……どうやって、全員を助け出しますか? もう今からでも牢獄へ行きましょうよ。杖をついた神官兵さんと一緒なら入れるんですよね?」

「杖の神官兵のことは、僕も知ってる」

 レオは紙に彼の似顔絵を描いた。

「あいつは情報屋だ。何でも知っている。死刑囚がいる牢獄の警備の状況も分かるんだろう。だからこそ、奴に頼るのは危険だ。どこで誰に言いふらされるか、分かったもんじゃない」

「じゃあ、どうします?」

 三人は地図を睨みつける。

 死刑囚を広場の絞首台へ連行する時は、王都を一周する。主要な大通りを馬車で走るのだ。市民は罪を犯した貴人を一目見ようと押し寄せる。

「あ。こういうのはどうでしょう。書類を偽造して、処刑を取り消すんです!」

「はあ?」

 ミアは満面の笑みでまくし立てる。

「処刑を取り消すって内容の紙を作って、神官達に見せるんです! それで向こうが騙されてる間に、皆で逃げるんですよ!」

「それは──」

 二人は思案する。

「無理があるだろ」

「悪くはないな」

 首を横に振ったのはメディ。悪くないと思案するのはレオ。

「一瞬の隙を作れたら、それで十分だ。おそらくできる」

「でもどうやるんだ? 筆跡でバレるだろう?」

「印刷するってのはどうですか? あの食堂に貼ってあった紙には、印刷された計画書もありました。マイト様はきっと、どこかに印刷機を隠してますよ」

「ならその印刷機を探す必要があるな。まずは──」

 三人は計画を練り上げる。細部まで詰めていく。

 やがて出来上がった偽造計画は、何とか実行できそうなものに仕上がった。レオとミアは理髪院を出て、こっそりとマイト達の拠点に戻る。彼らは泥酔していて、二人が出ていったことにも帰ってきたことにも気づかなかった。

 翌日。レオは、二日酔いに苦しむマイトに話しかけた。

「マイト様。お願いがあるのですが、私に仕事をくださいませんか?」

「急にどうした、レオ? ここの掃除をするのは嫌か?」

「嫌ではありませんが、私の存在は周りを煩わせます。離れた方がお互いにとって良いでしょう」

「でもな。お前を外に出すわけにはいかん。脱獄犯だからな。見つかったら即処刑だぞ」

「力仕事でも、部屋にこもっての作業もやります。どちらも得意ですから」

「んー、じゃあ、印刷でもやる?」

 来た。

「印刷ですか? 印刷機は神殿にしかないはずでは?」

 わざとらしくない言い方でレオは問う。

「あるよ。破壊されなかった奴が。かなりの重労働だが、そこでいいなら行くか?」

「はい」

「ちょうど資材を運ぶんだ。そいつらについていけ」

 計画では、最低でもこの場所から出られたら良い、くらいに思っていたので、上手く事が運んで幸運だ。

 レオは大工の格好に着替えさせられた。頭につばの大きい帽子を被り、背中に材木が入った大きなかごを背負う。顔や手、足には泥や煤をつけ、汚れた職人に見せかける。

「神官兵にバレそうな予感がしますが」

「夏至祭前で人も多いし、分からんだろう」

 大工の格好をした一段に混じり、外へ出る。

 マイトが言った通り、人はとても多い。そして神官兵も多い。レオの両側に人が立ち、顔を見られにくくしつつ、南区へ行く。

 着いた場所は、パン屋だった。店の軒先が半壊しており、店主は簡素な屋台でパンを売っている。

「おはよっす」

「今日も頼むよ」

 男達は背中のかごを下ろし、早速店の修繕作業に取り掛かる。

「店長、コイツは中の作業担当だから、案内してやってくれ」

 店長はレオを一瞥すると、建物の中へ入っていった。

 レオは彼の後をついていく。狭い廊下の突き当たりにくると、店主は床にかがみ込み、跳ね上げ戸を持ち上げた。地下への階段が現れる。

 階段を下りる。インクの臭いと、機械特有の重低音が聞こえる。

 下りた先には、鉄の扉があった。店主が鍵束を取り出し、鍵を開ける。

 インクと機械油と汗の臭いが、鼻をつく。

 目を引く、巨大な印刷機。その周りには紙の束と見慣れぬ工具。数人の男が黙々と作業をしている。その中にはヤカロの姿もあった。

「おーい、新入りだ」

 店主はレオを残し、部屋を出ていった。背後で鉄の扉が閉まる。

 ここの頭領らしき男がレオに近づいてくる。

「おい、仕事を教える。こっちに来い」

 はい、とレオは行儀良く答えた。

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