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書物の姫君  作者: 最中亜梨香
第七章
62/87

7

 ミアとレオが、そのチラシを見たのは、夜、酒盛りが開かれている時だった。

「で、どこに隠した?」

「肉屋の裏手の倉庫に隠してある。あそこなら臭くて誰も近づかない」

 男達が入ってくる。

「武器に臭いがつきそうだな」

「大丈夫だろ。鉄だし。他の奴らは染色屋のとこに隠したってさ」

「ウエェ。マジかよ。クソの臭いがしみついちまう」

 ギャハハハ、と笑いが起こった。

「おい、酒もってこい!」

 レオは空いているカップを回収し、かまどの横にいるミアへ持っていく。ミアは壺からカップへビールを注ぐ。それをレオはまた持っていく。

「つまみはねえのか!」

 拳をひらりとかわした後、レオは皿をミアへ持っていく。ミアは干し肉を皿の上に乗せた。そしてレオはテーブルまで戻る。

 ミアは無心で、レオは彼らの会話を聞きながら、黙々と働く。

「よぉし! それでは国境を苦労して超えた商人と、北から武器を運んできた大道芸人に、乾杯!」

 この日五度目の乾杯が起こり、場が盛り上がる。

「全く、騒ぐのは今日だけだからな。革命前の前夜祭だ」

 マイトはむすっとした顔でそう言ったが、誰も聞いてない。ひたすら飲んでいる。やがてそのマイトも酒を飲み始め、顔が赤くなっていく。

 そんな時だった。

「そうそう、これ見ろよ」

 酔っ払いが、数枚の紙を見せびらかす。それはチラシだった。

「それ何て書いてあるんだ?」

「医者の助手を探してるってさ。文字が読める奴で、金貨三枚だって」

「おう、そりゃすげぇ。是非俺も雇ってほしいね」

「赤バラんとこには人だかりができてたぜ。でも、全員『顔を見るなり帰れ』って追い出されたってさ」

「そうかあ」

 それっきり、彼らはチラシから興味を無くした。床に落ちたチラシをレオが拾い上げた。捨てようとかまどへ持っていく。

「それは?」

 コップにビールを注ぐ作業をしているミアが、手を止める。レオはチラシを見せた。

「この字、知ってます。メディさんの字です」

「何? 本当か?」

 ミアはこくりと頷いた。

「間違いないです。屋敷に届いていたメディさんの手紙と同じ筆跡です」

「よくそんなのが分かるな」

 男達の言うことは一つも覚えられないくせに、という言葉をレオは飲み込む。

「分かりますよ。これはメディさんの字です。それに、この挿絵。ネラシュ屋敷じゃないですか?」

 確かにそうだ。レオは驚く。言われるまで気づかなかったが、確かにそうだ。

「そうだ! メディさんなら王宮の中のこととか分かるかも。革命のことを、メディさんから王様に伝えてもらいましょう。それで、恩赦としてアンナ様を助けてもらえるかも!」

 真剣な顔でミアは言う。我ながら何ていい思いつきだろう、とその目が言っている。

 レオは少し考える。

(ミアの言う通りに事が進むかは分からんが、それでもここでずっと召使いをしているよりかはマシか。『俺達』の協力者はいた方がいい)

 レオはよし、と言った。

「……分かった。じゃあ、まずは、あいつらを酔いつぶすぞ」

 二人は給仕のテンポをあげた。空いたカップに次々とビールを満たした。男も女も、どんどん飲んでいく。

 宴会は大いに盛り上がった。

 そして、彼らはぐでんぐでんになった。

 酔い潰れていびきをかいている者が半数近く。呂律の回らない口で女を口説く者が数名。マイトはまだ残っている者と楽しげに話している。リーラは壁際で目を閉じて休んでいる。

(今だな)

 レオは最後のコップをテーブルに置いてまわると、ミアを呼んだ。床で寝っ転がっている奴を踏まないように、そうっと台所を出る。一階の裏手の窓から、外へ出た。月明かりが路地裏を照らす。

「赤バラ理髪院ってどちらに?」

 レオは腐りかけた立て看板や汚い落書きを見た。そこに書かれている情報から、検討をつける。

「あー……大体ここから南東に行ったところだ。そんなに遠くない」

 二人は路地裏をひたすら走る。神官兵の巡回で、あちこち迂回する必要があったものの、何とか赤バラ広場にたどり着く。

 理髪院のドアを、ミアはノックした。一度目は控えめに、二回目は勇気を出して、三回目は多少の苛立ちを込めて。

 すると、ドアが開き、若い医師が出てきた。

「何ですか? 募集の件でしたら──」

 彼は言葉を区切る。その目線はミアに──ミアの髪の毛に釘付けだ。この国の人間には無い、真っ黒な髪に。

「……お入りください」

 レオとミアは中に入った。医師は素早くドアを閉め、奥へ二人を案内する。

「先生、来ました」

 一番奥のベッドに、メディは腰かけていた。二人を見ると、微笑んだ。

「メディさん。こんばんは」

 ミアは久々に心からの笑みを浮かべ、話しかけた。

「やあ、こんばんは。思ったより早く会えて良かった」

「その口ぶりだと、あのチラシは我々を呼び出すものだったんですね」

「ああ。君達がチラシを読んで来てくれることを期待したんだ。半ば賭けみたいなもんだがね。思っていたよりも早く来てくれて、嬉しいよ。さて、早速本題に入ろう。ディーロ様とアンナ様、シャロン様のことについてだが」

 二人は背筋を伸ばし、メディの話に耳を傾けた。

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