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書物の姫君  作者: 最中亜梨香
第四章
33/87

6

 アンナが二階へ上がり、使用人達は一斉に地下に下りた。

「誰が行くんですか? 私は行きたくないです」

 珍しく、ミアがはっきりと拒否の姿勢を示す。

「アンナ様にずっとついていたいですし、それに、シャロン様と明日も絵を描くと約束しましたから」

「そうね、私も今すぐ出立しないと、というのはちょっと……家族に会えるのは嬉しいけれど、突然すぎる。一体どうしたのかしら」

「護衛か……ルートは来た時と同じでいいんだろうか」

 ヨールの呟きに、レースはえ、と驚く。

「ヨール、旅に出る気?」

「長い旅になるし、護衛は必要になるだろう」

「でも、そしたらアンナ様を守る人がいなくなりますよ!」

「分かってるが……そうだ、お二人はどう? クロニト大神官に会うか?」

 ヨールはレオとマオを見た。

「まだ考え中です」

 もちろん嘘である。考えるまでもなく、やることはもう決まっている。

 皆が寝静まった頃。屋敷で見回りをするマオを残し、レオは屋敷を出た。丘を下り、村からロバを無断拝借して王都へ向かう。

 レオが向かう先は夜の神、ヨラ神の大神殿だ。ここは夜だけ開く神殿である。中は昼の大神殿とよく似た構造だが、明るい火や大きな音が禁忌である。中を歩く時は、本当に必要最低限の、小さな小さな蝋燭しか使えない。

 か細い明かりを頼りに、階段を上って廊下を歩き、決められた部屋に入る。

「失礼します」

 机の向こうに、男性の神官がしかめ面をして座っている。

「どうした?」

 レオはアンナがクロニト大神官に遣いを送ろうとしていることについて、詳細に話す。

 話を聞き終えた神官は、トン、トン、と机を指で叩く。

「その件については、別の者から聞いていた。王宮が、というより王妃が決定したらしいな。あの女、一体何を考えているのやら」

「……一つお聞きしてもよろしいですか」

「何だ?」

「クロニト大神官、という方をご存じですか?」

「マオもその名の大神官について尋ねてきたが、そのような名前の大神官はいない」

「しかし、アンナが言うには、ティルクスで正式な大神官として活動しているようです。一度確認する必要があるかと」

「誰が勝手に意見していいと言った!」

 神官はぴしゃりと言い放つ。

「今後一切、彼について触れてはならぬ」

「かしこまりました」

「全く。近頃の兵士は……」

 神官はブツブツとひとしきり呟く。

「はあ。まあとにかく、新たな任務を与える」

「何でございましょう?」

「処刑しろ。双子のどちらでもいい、ティルクスへ向かう馬車に同行し、隙を見て王宮の護衛もろとも、使者を皆殺しにしろ」

 レオの脳裏に再び、アンナの顔が思い浮かぶ。シャロンの看病をしていた時の、彼女の姿が。

「屋敷に残った人間はどうなさいますか?」

「夏至祭まで殺すな。いつも通り振る舞え」

 レオはいつものように、静かに、答える。

「かしこまりました」

 二日後。

 使用人達のすったもんだの人選会議の末、ヨールとレース、そしてマオ、王宮の護衛を乗せた馬車が、ネラシュ屋敷からティルクスへ向かう馬車が出発した。

「行ってらっしゃい!」

 去っていく馬車を、手をふって見送るアンナとミア。やがて見えなくなると、アンナは傍に立つレオに向かって微笑む。

「屋敷がずいぶん広くなってしまって、少し寂しいねえ」

 その笑顔の奥底の真意を、レオは探ろうと決めた。

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