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書物の姫君  作者: 最中亜梨香
第四章
28/87

1

「シャロン様! 屋根から降りてください! 今すぐに!」

 レースの悲鳴でアンナは目を覚ました。大あくびをしながら窓へ近寄り、下を見る。

 真っ青な顔でこちら側を見上げるレース。その横で、洗濯物を片手に右往左往しているミア。二人の後ろから、ヨールが梯子を肩に担いで歩いてくる。

「こっこまでおーいでー!」

 アンナの頭上、屋根の上から降ってくる呑気な声。

 ヨールは梯子を壁に立てかけた。そして、すいすいと上っていく。

「あ、ちょっと! こっちに来ないでよ!」

 シャロンが騒ぐが、少しして、ヨールがバタバタと手足を動かすシャロンを背負って降りてくる。彼女がシャロンを地面におろすと、すかさずレースの説教が始まる。

「屋根の上に登らないでください! 足を滑らせて落ちたら大怪我します!」

「そんなヘマしないもんねー」

「どこでそんな言葉使いを覚えたんですか! 屋根が抜けるかもしれませんよ!」

 アンナは微笑むと、窓を閉めた。

(こんな日がずっと続けば良いのに)

 誰も酷い目にあわず、ああやって毎日過ごして、本を読んで友達と語り合う。そんな理想の日々。

(いや、違う。この日々が続けられるよう、頑張るんだ)

 ドレッサーの椅子に腰かけ、引き出しから紙を取り、紙に問題を書きだしていく。

・革命の武器の密輸入について。故郷に対して何かを注文したら絶対に目立つ。マイト達が偽装すると言っているが、バレない保証はない。バレたら、私もディーアも使用人もまとめて処刑される可能性が高い。それどころか、故郷が革命に関与したとして、同盟が破棄されて戦争が始まるかもしれない。だからといって、輸入を断ったらマイトに口封じされるだろう。

・ローゼが言った『おとり』について。彼女は具体的にああしろこうしろとは言わなかった。つまり、彼女が噂を流すなり何かして、こちらに神官の注意を向けるということ。彼女の加減が間違えば、あるいは私達の対応が間違えたら、または武器の密輸入がバレたら、断頭台行きになる。

・私達の目的。虐殺と革命を阻止し、生き延びる。

(……どうにかなる気がしない。偽装の注文をするまで、いち、にい──八日か。時間がなさすぎる。まあ、時間があっても、できることはそんなに無いけど……)

 アンナは深々とため息をつく。この屋敷に来てからというもの、ため息の回数が明らかに増えた。

 ドンドン、とドアがノックされた。アンナは素早く紙をドレッサーの引き出しに入れると、ベッドに座った。

「おはようございます、アンナ様」

 服を抱えたミアが入ってくる。

「あれ、今日はマオじゃないんだね」

「マオさんはですね、朝早くにどこかへ行きましたよ。何にも言わずに。どこ行ったんですかね?」

 服を受け取ると、続けてミアは昼食の麦粥を持ってくる。外からは、まだローゼの説教が聞こえてくる。

「シャロンは今日も元気だね」

「朝はヨールが縄跳びを教えてくれて、私も一緒に遊んでたんですけど、飽きちゃったみたいです。それで屋根に登っちゃって。レースさん、カンカンでした」

 空っぽになった皿を盆に乗せ、ミアは部屋を出ていく。その直後、今度は大きな足音が近づいてきて、ドアが勢いよく開かれた。

「アンナ、ようやく起きたの? 遊ぼうよ!」

 ボフッとベッドにダイブするシャロン。

「シャロン様、レースに随分と絞られたようですね」

「そうよ。あんなに怒らなくたっていいじゃない!」

 ぷぅと頬を膨らませるシャロン。

(そういえば、ローゼとマイトのことに気をとらわれてたけど、神官どもはどうしてるんだろう。二人の計画に気づいていないのかな。いや、シャロンに毒を飲ませてマイトのことを探ろうとしてた。何にも知らないわけじゃないはず)

 今、屋敷にいないマオ。彼女は神殿の間諜で、屋敷で起こったあれこれを報告しているに違いない。当然、神殿はシャロンがここにいることにも知っている。

「ねえ、何ぼーっとしてるの?」

 シャロンがボフボフとアンナの膝を叩く。

「いえ、何にも。何して遊びましょうか」

「鞭打ち人ごっこ!」

「え? それは……どういう遊びですか?」

「ミアよ。鞭打ち人と罪人に分かれて、罪人は逃げるんだって。捕まったら、ビシバシと叩かれるんだって。痛いらしいよ」

「そうなんですか」

 ミアはそんな遊びをしていたのか、とアンナは驚く。追いかけっこならいくつか知っているが、追いかける役が鞭打ち人、話の内容から推測するに本物の鞭を使う、というものは初めて聞く。

「では遊んでみますか。鞭は無いので、ただ追いかけっこをするだけになりますが」

 間違っても王女に鞭をふるうわけにはいかない。

「うん、やるやる! 私が鞭打ち人ね!」

「分かりました」

 アンナはシャロンと一緒に、部屋を出た。

 そして、散々シャロンに追いかけられるのであった。

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