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書物の姫君  作者: 最中亜梨香
第三章
24/87

5

 アンナは自分の耳を疑った。

(暗殺?)

 目を白黒させていると、他の夫人が冷静に話す。

「アンナ様もこの計画にご参加してくださるのですか」

「はい。彼女もまた、この国の現状を憂いています」

(それは確かにそうだけど、暗殺なんか聞いてない!)

 アンナは本音をどうにか抑え、すました顔をする。

「そうですか。是非よろしくお願いします」

 夫人がにこやかな顔で言った。アンナはどうにか「こちらこそ」と冷静に返す。

「以前おっしゃっていた件については、手配しました。料理人は私の信頼のおける人間を配置しています」

「ありがとうございます」

「こちらは当日の地図です」

 別の婦人が羊皮紙を一枚テーブルに置く。

「ありがとうございます。皆さんで見てみましょう」

 広げられたそれは、どこかの会場のようだ。大きなテーブルと、何かの舞台。そこに、食べ物の位置や客人の座る場所、兵士の位置が書かれている。

(一体王妃は何を考えてるんだろう。私なんかを巻き込んで、どうさせる気?)

 アンナが考える間も、会議は進む。じっと聞いていると、どうやら、夏至の日に行われる神殿の祭りで暗殺を決行する計画のようだ。

「兵士の配置はこの舞台の影と、東の入り口の前におきましょう」

「儀式が始まり次第、全ての門を閉鎖します」

「エディル辺境伯が西の扉に座られるそうです。逃げ出そうとする者を始末してくださるでしょう」

「それは心強いですね」

(ん?)

 アンナは首を捻った。

「神殿の神官も食事会に参加されるとお返事がありました」

「では、最前列の右に席をとりましょう。二階に弓兵を置き、護衛の神官兵を射殺させます」

 アンナの頬を冷たい汗が伝う。

(いや、これ、虐殺だ。王を暗殺して、目撃者も口封じする気なんだ)

「アンナ様はどう思いますか?」

 夫人の一人が尋ねた。

「ええ、良いと思いますよ」

 アンナは当たり障りのない返事をする。下手なことを言ったらアンナも死ぬ。

「アンナさんには、神殿の注意を引いていただきます」

「ええ……え?」

「神殿は今、貴女に注目しています。このまま、彼らの目をひきつけていてください。私達はその間に兵力などを集めます」

 淡々とローゼは言う。

(要するに、おとりをやれって?)

 アンナの眉が引きつる。

「是非お願いしますね」

 王妃から命令が下る。絶対に逆らえない。

「……はい」

 その後も、計画の細かい話し合いは続き、終わった。部屋を出ると、階下から騒がしい。他の部屋でやっている宴会もちょうど終わったらしい。王宮の使用人に案内され、階下に降りると、マオが待っていた。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」

 マオを後ろに従え、玄関へ向かう。だがその時、

「アンナさん!」

 背後から名前を呼びかけられる。振り返ると、マイトが立っている。白のジャケットとズボンという、シンプルな出立ちだ。

「いらっしゃったんですね。全然気付きませんでした」

「ええ、まあ」

 アンナは曖昧に頷く。

「お会いできて嬉しいです、アンナさん」

 マイトは彼女の手を取る。

「今夜は是非我が家にいらっしゃいませんか?」

 周りの人間が二人を見てヒソヒソと小声で何か喋る。きっとこの様子は瞬く間に王宮に広がるだろう。

 マイトが顔を近づける。

「この国の未来についてお話ししたいのです」

 アンナはじっと彼の目を見つめる。

(この人は虐殺の計画を知ってるんだろうか。あの部屋ではマイトの名前は一切出てこなかったけど……計画のことを話したらまずいよね。そもそも、屋敷から出たら王家に怒られそう。ああでも、おとりを演じるという意味なら、別に問題はないのかな)

 その時、アンナの脳裏にレース、ミア、ヨールの顔が浮かぶ。そしてディーロの手紙も。

(王妃の計画、というかおとりが失敗して亡命の必要が出てきた時、彼の協力が必要になるかも)

 アンナは微笑みを作る。

「ええ、是非」

「嬉しいです。では、早速行きましょう」

 マイトはアンナの手を取り、ずんずんと廊下を進む。そのまま、王宮の勝手口から外へ出る。

「奥方様、どちらへ」

 マオが追いかけてくるが、その前にマイトがアンナを馬車へ乗り込ませた。

「悪いね。真夜中には、そちらのお屋敷まで送り届けるから」

 マイトはさわやかな声でそういうと、御者に命じて馬車を出させた。

 マオはぽつんと一人、走り去る馬車を見つめていた。

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