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書物の姫君  作者: 最中亜梨香
第二章
18/87

8

 日が沈み、夜になる。

 双子は看病を続けていた。シャロンの部屋に入ると、猫撫で声で話しかけられる。

「ねえ、あめちょーだい」

「申し訳ありません。私どもは持っておりません」

 レオは答えた。本当のことだ。彼らは飴を持ってきていなかった。

「じゃあ神官からもらってきてよ」

「申し訳ありませんが……」

 屋敷から抜けだして取りにいこうにも、ヨールが巡回しているため難しい。

「いますぐ欲しいの」

「本当に申し訳ありません。どうすることもできないのです」

「持ってこい!」

 耳をつんざく怒鳴り声。

「もってこいっていってんだよ! このブタ!」

 部屋のドアが開き、アンナが入ってくる。

「まるで魔物つきのようだね」

 そう呟くと、彼女はサイドテーブルにカップを置いた。そこに、金色の液体が溜まっている。強い芳香を放っている。

「もしこれを飲んでくださったなら、飴を差しあげますよ」

 シャロンはアンナの手から乱暴にカップを取ると、口の端から中身を滴らせながら飲む。

「飴は?」

「どうぞ」

 小皿を置く。茶色の飴がいくつか入っている。シャロンは数粒を口に放り込み、すぐに吐きだす。

「これちがう!」

「それしか無いんです。お気に召さなければ、召しあがらなくて結構です」

 唸り声をあげ、シャロンはアンナに飛びかかる。しかし、すんでの所で双子がシャロンを羽交い締めにし、ベッドに押さえつける。それでもなおシャロンは暴れ続けたが、双子の拘束技はガンとして緩まない。やがて、次第に大人しくなり、寝息を立て始めた。

「薬がようやく効いてきたか」

 アンナは皿に残った飴──アーモンドのはちみつ煮をポリポリ食べる。

「先ほどのお茶ですか?」

 レオは尋ねた。

「うん。素直に飲んでくれて良かったよ」

「飴を与えたらもっと早く静かになったと思いますが」

「それは絶対に駄目。メディ医師もそう言ってたでしょ。一時的に静かになっても、後々余計に酷くなるよ」

「そんなの嘘です」

 割れたカップを片付けていたマオが顔を上げた。

「多くの人々が飴を食べてますが、死んだ人なんていませんよ。『神官に消される』? メヤキが毒なんて出まかせを吹聴するからです」

「ティルクスの神官はそう言ってた。本当の話だ」

「昼間もそんなことをおっしゃっていましたね。何という名前の神官ですか?」

「クロニト第二位大神官」

「そんな人知りません」

「アルケ神殿からやって来た、ティルクスの神殿のトップだよ。気になるなら調べてみたら?」

「仮にその方が本当にいたとしても、貴女が嘘をついていない証明にはならないでしょう。ともかく、神官が毒を飲ませるはずがありません」

「随分と神官を信じるんだね。もしかして君達は、王家から派遣された使用人ではなく、神々のしもべなんじゃない?」

 双子は何も答えない。

「もしかして神官兵? さっき手際よくシャロンを押さえこんでたもんね。訓練してないとできないでしょ、あんなこと」

「私達が何者かは、関係ないでしょう」

 否定しないあたり、図星らしい。

「貴女は、普段白と黒以外の服を着たり、経典を読まなかったりと、随分と不信心な行動ばかりとっています。そんな人の言葉に耳を傾ける必要がどこにあるんですか?」

 ふ、とアンナは鼻で笑う。

「神官は人だ。神様じゃない。顔も知らない赤の他人の、それも何の役に立たない妄言をどうして守らなきゃいけないの? 神話を読んでみなよ。色んな神様が色んな服を着ている。ヨラ神は青いマントをはためかせて空を作ったでしょ」

「神官は神に選ばれた者です。彼らの言葉は神の言葉です」

「神殿で修行すれば誰でも下級神官になれる。選ばれたりしてないよ」

「修行して神に近づけば、必然と選ばれるのです」

「ふーん」

 アンナはシャロンの額の汗を拭った。深く眠っているが、汗はだらだらで呼吸の速度が不安定だ。

「じゃあ今目の前にいるこの子を見てよ。すごくしんどそうだ。それでもまだ、あの飴が毒ではないというの?」

 アンナの問いかけに、双子は答えられなかった。

「さて、もうすぐ交代の時間だ。ミアとレースが来たら、もう休みなさい」

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