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楯無明人/忍び寄る影~妹襲来~

「んんっ……もう朝かよ。寝足りねぇなぁー……」



 アリシアという少女が未来からやってきた翌日の朝。


 俺はいつも通り、窓から差し込む日の光りを受けて目を覚ました。


 ここは最終決戦前まで過ごしていた宿ではなく、リヒテル城内部の大きめの部屋だ。城の内部でもそれなりに厳重に守られている場所にあり、砕けた言い方をすれば『王子の部屋』である。


 いや確かに結果的に俺は国王の息子だけども。将来国王になるつもりは毛頭ない訳だが。第一、器じゃねぇし、ハンコぺたぺた押してる退屈そうな親父を見てるとなりたいとも思わない。



「ふわぁー……」



 俺は布団を剥いであくびをしながらぐいっと伸びをした。



「さて、着替えるか」



 ベッドから降りる為に手をついた時だった。



 ――ぷにゅむっ。



 何か柔らかいモノが右腕に触れた。


 この懐かしい感覚はまさか…………。



「ごくりっ……」



 恐る恐る視線を向けると、そこには薄着の少女がすやすやと眠っていた。


 というか――――アリシアだった。



「アリシア!?」



 俺はうっかり、本当にうっかり触れていたアリシアの発展途上のパラダイスから手を離す。


 アリシアは「んむゅ」とかなんとか言いながら手を動かし、俺の右腕をぺたっと握った。



「あにうえぇ……ふふふっ」



 なんか知んないけど、めっちゃ幸せそうに寝てるんですけど!?


 しかしいけない――こんなところ仲間の誰かに見られでもしたら……。



「アーキトー!!!」



 ドパン! と蹴破ったかのような勢いで部屋の扉が開いた。


 扉の奥では部屋の警備に当たっていた兵士が「いけませんウィルベル様!!」と言っていた。


 そう、ダイナミックに入ってきたのは猫耳状態のウィルベル――通称、本気のウィルベルだった。



「アキト! 遊びにき――――」



 本気のウィルベルがこの光景を見て硬直している。


 もちろんその視線は、はだけた衣装で俺のベッドに寝ている十六歳の少女に注がれている。


 なにあれ、うちの妹注目集める系のスキルでも覚えてるんですか? もしかしてアリシアってタンク職なんですかねぇ……なんて現実逃避をしていると猫耳のウィルベルが俺を見た。



「アキトぉ……」



 ――あぁ、これきっと罵詈雑言が飛んでくるぞ。


 ――この状況、どう考えても妹と一夜を共にしたヤバい奴にしか見えない。


 ――変に弁明してもかえって話が拗れるだけだ。ここは流れに身を任せるべき、か?



「次は僕の番ってことで良いかな? このまま押し倒されちゃうの?」


「予想の斜め上過ぎだろお前っ! 押し倒すか!!」



 俺の大声で眠っていたアリシアが目を覚ました。



「んむっ……先に起きていたのですね、兄上」



 アリシアはぐでぇっと起き上がり、俺とウィルベルを見た。


 本来ならば、緩めの衣服がはだけて目のやり場に困るところだが、自然と視線がある場所に引き付けられた。



「おはようございます。兄上! ウィルベル様!」



 ――澄んだ笑顔だった。


 純粋無垢というべきか、天真爛漫というべきか、無邪気というべきか……あぁ、そうだ――『無邪気』って言葉が最適だ。一ミリも邪気を感じないんだもん。


 ナルの笑顔に少し大人っぽさを足したようなその笑顔に自然と視線が引き付けられると共に『俺の妹様、美人過ぎだろ』って思った。



「あれ? どうかされたのですか?」


「それはこっちの台詞だぜ。ったく……とりあえず、服をちゃんと着ろ」



 俺がはだけた服を指さすとアリシアは「ハッ!」として手早にぱぱっと服を直した。



「みっ、見ちゃいました……?」


「ちょっとしか見てないし、ちょっとしか触ってない」


「さ、さわっ……!? 兄上の変態!」



 かぁっと赤面しているアリシア。


 妹の赤面――ゲームやアニメでしか見たことない伝説の表情――グッジョブだ。


 じゃなくてっ!



「妹からも変態扱いかよっ!」


「寝込みの妹の胸を触るなんて、変態以外の何ものでもないじゃないですか!」


「不可抗力だ! 俺が故意で触ると思うのか!?」



 すると興奮気味だったアリシアはハタと我に返り、納得したようにこう言った。



「あ、兄上はヘタレで有名ですものね」


「すんなり納得されるとそれはそれで傷つくわけだが」


「僕はヘタレで変態のアキトも好きだよ?」


「それも傷つくからやめて!!」



 みたいなやり取りをしていると、執事の男性がいつもの様にノックをした。



「――アキト様。アリシア様。お食事のご用意が整いました。宜しければウィルベル様もご一緒に如何でしょうか?」


「え!? いいの!? いくっ!」


「遠慮しないなぁ、お前。アリシア、飯だ。準備は出来たか?」


「はい、出来ました!」



 グイッと左腕を掴まれるのと共に――ふにゅむ。


 控え目な柔らかさが俺を襲った。


 谷間は無い。だが、柔らかい。何言ってんだ俺。



「行きましょう? 兄上!」


「あ、アリシア!? くっつき過ぎだろ!?」


「兄妹ではありませんか」


「兄妹がくっつくのはゲームやアニメの中だけなんだよ! 普通はこんなにくっつかねぇの!! 理解したか?」


「出来ません! したくありませーん!! ふふふんっ♪」



 あっ……もしかしてアリシアって――――ブラコンってやつなのか!?


 アリシアはおねだりモードで俺に言う。



「兄上! この時間まで戻る時渡りの旅は大変でした。頑張ったご褒美に頭を撫でて下さい!」


「だめだ! 俺はそういうことしない!」


「またまたぁー。いつもいやいや言いながらも私の頭を撫でて下さるじゃないですかー。昨日もお願いしようと思ったのですが、皆様いらっしゃいましたので」


「あの赤面はそういう意味だったのか!!」



 ――ぷにゅむ。


 今度は右腕に柔らかい感触。


 ちょっと谷間がある。あと柔らかい。何言ってんだ俺。



「ずるいよアキト! 僕にも!! あ、耳は弱いから優しく撫でてね?」


「あぁっ! 私が先ですよ、ウィルベル様!」


「先に好きになったのは僕だよ!」


「その様な理屈は通りません!」



 両手に花の格好。


 だが、花同士が喧嘩している。


 それと俺自身が絶賛混乱中につき、全然興奮しない。



「えぇい二人とも静まれぃ!! 頭パンクするわぁあああ!!!」


「はい! 兄上のご命令とあらば」


「静かにしてればくっついてても良いかな?」


「いいや離れろ! これじゃ歩けねぇんだよ!!」



 ――突然ブラコンの妹襲来だぁ?



 ……ちらっ。



「どうかしましたか? 兄上」



 ……可愛いじゃねぇか畜生め。

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