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ローゼリア/謎の少女~花飾りの眠り姫~

注:本作は、先日完結した拙作『異世界転移した最弱男が救世主と呼ばれるまで+異世界転移した最強男が英雄王と呼ばれるまでの物語』の番外編となります。

 リヒテルを奇襲した巨大な魔物は、突如現れた『謎の少女』によって討伐された。


 この夜の暗がりの中ではその子がどの様な顔立ちをしているかまでは確認できないけれど、その身に纏っている異様さだけは理解出来た。


 魔狼系統の魔物の皮を裸体の上に衣服として纏い、その手には何故かシグルドの物であり、この世界に二つとない剣である『魔剣グラム』を握っている。



 ――あの子は一体……。それにこの得体の知れない湧き上がる気持ちはなに?



 その少女はアキトと目を合わせるとフッと脱力する様に地面に崩れ落ちた。



「あっ! おいあんた!!」



 アキトは慌てて駆け寄り、その少女を抱き上げた。



「なぁおい! 目を開けろよ!! くそっ、どいつもこいつも勝手に助けて勝手にいなくなるなよ! ……この者を癒せ! アークヒール!!」


「…………」



 アキトの治癒魔法を受けて体表面の傷を癒しても、その少女はピクリとも動かない。


 その間に私とシグルド、カヤちゃんの三人もアキトとその少女の傍に集まった。



「アキト! その子は!?」


「いや、それが俺にもよく……」


「特殊な術式の転移門から現れたのが見えたわ。一体どこから転移して来たのかしら? いえ、そんなことよりもその女性の容体をイリスさんに診て貰う必要があるわ」


「カヤの言う通りだ。アキト、俺にその子を」



 シグルドは少女を手で抱え上げて、眠った様に気を失っているその子の顔を覗き込み、ある一点に視線を止めた。



「……これは――――」


「シグルド?」



 シグルドは小さく頭を振るい、リヒテル城へと視線を向けた。



「戻るぞ。ロザリー、イリスに通信を。至急城に戻る様に伝えてくれ」


「分かった!」



 私たち四人は謎の少女と共にリヒテル城に戻った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「魔力の枯渇です。命に別状はありません」



 ベッドに横たわる少女をさしてイリスちゃんが告げた。


 ちなみに部屋にいるのは私とイリスちゃんとカヤちゃんの三人だ。


 アキトとシグルドはほぼ裸体だった少女に服を着せるタイミングで自主的に部屋を出て行った。二人して「裸を見るわけにはいかない」的な事を言って。やっぱ親子だ、あの二人。


 私はイリスちゃんに言う。



「よかった。じゃあ、このまま安静にしていれば?」


「いえ、それが……」



 イリスちゃんは少女を見て口ごもる。



「えっ、魔力の枯渇なんだよね? だったら私やシグルドみたいに安静にしてれば回復するんじゃ」


「通常の場合は、それで魔力は戻ります。ですが彼女の症状は――普通ではないのです」


「普通じゃ、ない? それってどういう――」


「『過剰消費状態』……でしょう?」



 カヤちゃんの言葉に対し、イリスちゃんが小さく頷いた。



「カヤさんの仰る通りです。彼女の現在魔力は『マイナス』を示しています」


「マイナス!?」



 そんなことはありえない。


 魔力は魔術やスキルの使用と共に減少し、ゼロになった途端に魔力を練れなくなり、肉体は強制的な休眠状態へと移行する。つまり、魔力がゼロになった瞬間に気を失うのだ。


 でも、あそこで横になっている彼女はそうはならなかったらしい。


 イリスちゃんは彼女の傷だらけの腕を見て言う。



「彼女の身体には無数の傷痕が見られました。中には命に係わる程の大きな傷跡も含まれます。恐らく、ここに来るまでの間に多数の強敵と戦って来たのでしょう。どこから来たのかまでは分かりかねますが、数か月――いえ、数年単位の途方もない長い時間を『休み無く』戦い抜いていたのだと察することが出来ます」


「途方もない時間を――休み無く? そんな事出来る訳ないよ。私たち人間は、魔力が枯渇したら休まざるを得ないんだもん」



 私のその言葉にカヤちゃんが続く。



「彼女はもしかして……エーテロイドだったりするのかしら? それも、魔力を有するタイプの」



 イリスちゃんは首を横に振った。



「わたくしも初めはその線を疑いました。ですが、いくら調べても彼女がわたくし達と同じ『生身の人間』であるという結論以外には辿りつきませんでした。彼女は間違いなく、人間です」


「じゃあマイナスの魔力なんてどうやったら……」


「彼女が何らかの特殊な体質を有しているとしか……。それ以上は目を覚ました後に本人に聞いてみないことには分かりません。ですが『限界以上に魔力を振り絞った状態』自体がレアケースなのです。このまま安静にさせていても目を覚ます保証はありません」


「そんな……」



 私は上を向いて安らかに目を閉じている少女の顔を、初めてしっかりと確認した。


 髪の色は私に近い灰色。女性らしい長いまつ毛と整った小顔、凛々しめの眉毛が特徴的で、荒れてガサガサしている唇などをしっかり整えれば、いわゆる美人に分類される少女だった。



「こんなに若いのにどうして――――えっ?」



 私の視点が、彼女の側頭部に釘付けになった。


 そこにあったのは、私が持つ物の全く同じ……。


 ――『花で作られた髪留め』だった。


 魔剣戦役の頃にシグルドが作ってくれた、この世にふたつと存在しない物が――ふたつ。


 この少女は……まさか――。

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