楯無明人/合成獣~キメラ~
注:本作は、先日完結した拙作『異世界転移した最弱男が救世主と呼ばれるまで+異世界転移した最強男が英雄王と呼ばれるまでの物語』の番外編となります。
「アキトとロザリーは俺について来い!」
俺たちは親父の指示で一斉にリヒテル城の尖塔を後にして、八方に散った。
親父を先頭に、俺と母さんとカヤが火の柱に向かっている構図。
――――ん?
「っておい! お前はなんでこっちに来てんだよ!」
「悪い?」
と、『私何か間違ったことをしているかしら?』みたいな顔を俺に向けるカヤ。
ちっくしょう……このなんでもない顔すらも可愛く見えてくらぁ……。
「お前の配置はこっちじゃなかっただろ!」
「私は何があってもあなたについていくと決めたんだもの」
「決めたんだもの……じゃねぇよ! 親父ぃ!!」
親父はカヤの姿を認めると小さく笑った。
「この三人では防御に手薄なのは事実だ。全てがアキトの『サクラニマク』で対応できるとも限らないしな」
「では、私の同行を認めて下さるのかしら?」
「ダメだと言っても聞かないのだろう? 覚悟を決めたアルトと同じ顔をしているから分かる」
カヤは親父に軽く一礼し、俺に視線を向けた。
「と、いう訳だからよろしく」
「お前ってやつは……」
頼りになるけどどうにも行動に思い切りがあり過ぎるというか、本当に深く考えてるのか怪しいぜ。
思い上がりかもしれないけど――――もし俺がパッと姿を消すなんて事態がこの先あったとしたら何が何でも俺を探し出そうとするんだろうなぁ……どんな危険の中でもだ。
それが嬉しくもあり、心配でもある。
べっ、別に好きだからとかそういうあれじゃないからなっ!
――――って誰得だよ男のツンデレ!!
「アレを見てみろ!」
親父が指す先にいたのは――――なんだあれ?
ライオンの頭に鷲の巨翼。熊の様な爪を有する毛むくじゃらな両腕。象の様な太い脚に蛇の尻尾。
なんだ、あの歪な魔物。無理やり違う動物を合体させたみてぇじゃねぇか。
そして何より――大きい。十メートルはあるか?
あれを魔物って呼んでいいのか?
いや別枠だろあんなの。仮に呼ぶなら――――魔獣キメラってところか。
「アキト! 牽制だ!!」
「任せろ! 出ろ、幻影剣! 桜花一刀・ススキニツキ!!」
俺は中距離投擲用の幻影剣を出現させてやり投げの様に構えた。
「桜花刺突・光芒! いっけぇえぇえ!!」
野球のピッチャーの様に右腕をぶんと振り下ろすとキメラ目掛けて一直線に飛んでいく幻影剣。
――――黒龍をも貫く一撃、通用しない筈がない!
って、考え自体がフラグだって気付いたのはそう思った後でした。
『グゥ?』
キメラは幻影剣の存在に気付くと、口の中に炎を溜め――。
『ブフォオォオオォオオオ!!』
驚くべき事に、吐出された高温の炎で、ススキニツキはあっという間に燃やし尽くされてしまった。
「ま、じ、でっ!? どんだけ威力があんだあの炎!?」
「なら、尚更市街地に向ける訳にはいかないな。俺が注意を引き付ける! ロザリーは遠距離攻撃。カヤは防御に専念してくれ」
「分かった!」
「任されましょう」
俺は燃やし尽くされたススキニツキをもう一度出現させる。
「親父、俺はどうすれば良い!?」
「お前は俺の親衛だ」
「親衛! 血の繋がった親だけにか! 案外洒落も言えるじゃんか」
「ふっ、そういうのは後にしろ。ゆくぞっ!」
カヤと母さんはその場で立ち止まりそれぞれの詠唱を開始し、俺と親父はキメラに突っ込んでいく。
が、キメラは接近する俺たちよりも、何故か『後列で詠唱しているカヤと母さん』に鋭い敵意と眼差しを向けていた。
――なんで近くにいる俺たちを見ない? 侮られてるってのか? それとも……。
「アキト、同時にいくぞ!」
「お、おう! 分かった!!」
親父と俺はそれぞれ攻撃形態へ移行する。
「ゆくぞグラム。『同調』を始める。荒れ狂う雷にその身を焦がせ!――稲妻の剣!!」
「幻影剣、桜花四刀『ヤナギミチカゼ』! 誰だか知らねぇが、被害が出る前に――ぶった切る!」
「「おぉおおおおっ!!」」
俺と親父がそれぞれ薙ぎ払った剣による一撃は、それぞれ異なる結果を齎した。
――ザシュッ!!
親父の稲妻の剣はキメラの肌を切り裂いた一方で――。
――ガキンッ!
「なっ!?」
俺のヤナギミチカゼの一撃は通らなかった。薄皮一枚に切れ目を入れた程度で止まってしまっている。
「くそっ! 幻影剣最強の攻撃力だぞ!? どうして!?」
「アキトは一旦引け!【慧眼】での観察を頼む!!」
「ちっ、すまん。そうさせて貰う!」
俺は親父を最前線に残して、カヤたち後列まで後退した。
詠唱中のカヤが言う。
「どうしたの?」
「俺のヤナギミチカゼが効かねぇ。出鼻挫かれて心折れそうだが、そうも言ってらんねぇ。その身体がどうなってんのか、見極めてやる。【慧眼】!!」
オリジナルスキル【慧眼】が齎した結果は端的に言うとこうだった。
――――物理無効。
「出たよ、前衛殺し!!!」
脳裏を掠めるのは旅を始めた当初に出会ったバトルボア。体毛で近接攻撃を無効化された記憶がまだ残っている。
あとは地下迷宮区第一層ボスのミノタウロスな。あっちは地上の魔物ではありえない程の異常なまでの防御力を誇っていた。
どっちにしろ、忘れ去りたい過去だけどな。
「ちっ、俺も魔術で戦うか? つっても熟練度が低いしな……ん?」
――いや待て。だったらなんで親父のグラムは有効だったんだ?
今もなおキメラの足元でグラムで応戦している親父の一撃は、着実にキメラの体力を減らしている。
その時、母さんが魔術の詠唱を終えた。
「旦那にばっか良い恰好をさせられるか! 荒れ狂う炎よ!! フレイムテンペストォオオ!!」
母さんが空に向かって掲げていた両手を体の前に倒すと、キメラを覆う程の大きさの炎の塊が落下した。
『グルゥウオオオオ!?』
――効いてる。魔術による攻撃は通用する。
「そういうことか。やったな、久々にお前の番っぽいぞ、フィクサ!!」
俺はフィクサを大剣化させて体の前で構えた。
魔剣グラムの『同調』は『スキル』を剣に宿す能力。宿すスキルによってその一撃は『魔術』としてみなされるって寸法だ。『物魔複合剣』とかに改名した方がよっぽど格好が良い気がしてきたな。
「アキト、防御は必要?」
「いや、自衛はサクラニマクで事足りる。カヤはあのキメラが苦し紛れで吐いてる炎を潰してくれ。市街地に飛び火したら大参事だ」
「合成獣……適した名前ね。町の防衛、任されたわ」
俺は剣を構えたままつま先に力を入れて前方へ一気に――――駆け出した。
「喜べフィクサ! お前の久々の得物は大物だぜ!!」
最近、幻影剣にばっか頼ってたからなぁ。
仮に他の聖具や魔具同様に意志が宿っているとしたら拗ねてるよ絶対。
「フィクサに【絶対零度】の力を宿す! 凍て付け氷刃! アイスブレイド!!」
ピキピキピキっとフィクサに凍てつく氷が纏われた。
「親父! 俺が決める!!」
「ふっ、良い所を持って行くな。任せた!!」
親父が左に避け、俺はアイスブレイドと化したフィクサを振り上げた。
「食らえキメ――――」
『――殺します』
唐突に聞こえた――女性の声。
次の瞬間、キラリと刃らしきものが光ったかと思えば――。
『ギュロオッ……バァッ!?』
――まさに、一刀両断。
キメラの巨体に袈裟懸けに切れ目が入り、ばっくりとその巨体が二つに割れて地面に崩れ落ちた。
「何が起きた!?」
目を丸くしている俺たちの視線は、キメラの死骸の前に注がれる。
――――そこには一人の女性が立っていた。
女性という言葉を用いたが、大人と言うには若過ぎる。
イリスさんよりは年下で、ナルよりは年上。
歳にして十五、六。俺やカヤとほぼ同年代という趣き。
そしてその姿は――とても異様だった。
まるで野生児だ。
灰色でぼさぼさの長髪に、誰かを想起しそうになる凛々しくも綺麗な顔立ち。
頭には赤い花飾りを付けていて、倒した魔物のものらしき皮を半裸の身体に巻いていた。
さらに、その綺麗な手には不釣り合いな『抜身の長剣』が握られている。
――――その長剣には見覚えがあった。
女性はキメラの死骸の頭部にズブリと長剣を突き刺す。
「殺す……!」
突き刺した剣を引き抜いて、もう一度勢いよく突き刺した。
その後も、物騒な呪詛の言葉を吐き出す度に剣を突きたてる。
「殺す……! 殺す! 殺すッ!! 殺す! コロスッ! 殺す!! 殺す!!! 殺すっ!! 魔物は――殺すっ!!! お前らなんかっ! 大嫌いだ!!」
魔獣の頭部が原型を留めなくなってもなお、強い憎しみと共に、剣を突き立て続けている。
その女性の長剣には、迸る雷切が纏われており『稲妻の剣』と称するに十分な見た目をしている。
あんなことが出来る剣は、フィクサを除けば、グリヴァースに二つと無い。
間違いない、あの剣は……。
「もう一本の――――魔剣グラム……!?」
そう言うと、その女性はゆっくりと俺に視線を向けた。
「……あっ……にっ……う……」
女性は何かに安心したかのような表情を見せたかと思えば。
フッと脱力してゆっくりとその場に、崩れ落ちた。
第4話以降は毎日12時の投稿とさせて頂きます。
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